中国の「地下鉄」と「高速鉄道」、日本とここまで違うワケ

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広大な国土を有する中国の鉄道交通網は、この20年で目覚ましい発展を遂げた。ただし、日本人がこれを乗りこなそうとすると、思わぬ「カルチャーギャップ」にぶち当たることがあったりする。長年中国と付き合ってきた筆者でさえも、いまだ中国の鉄道サービスについては不慣れなことや驚かされることが多い。そこで筆者は11月に上海を起点に高速鉄道で3往復を敢行。そこで実際に体験した中国鉄道の「珍道中」について紹介しよう。

意外なところが「アナログ」な上海の地下鉄

「交通強国の建設」は中国共産党が掲げる壮大な目標だ。

中国で最後の蒸気機関車が姿を消したのは2005年のこと。その後の10年で高速鉄道が全国を網羅し、総延長距離は2万5000キロにも達した。日本の新幹線の8倍超、実に世界一を誇る距離である。いまや「交通輸送の供給不足は解決し、中国は名実ともに交通強国になった」と中国は自認するようになった。

駅構内に掲げられた「交通強国」のスローガン〔photo〕著者撮影

都市の地下鉄も急速な発展を見せた。

いまでこそ上海の地下鉄は総営業距離を644km(2018年3月)にまで路線を伸ばし、市民生活は格段に向上した。東京の地下鉄網の1.5倍(東京メトロ320km、東京都営地下鉄109km)といえば、その規模がイメージできるだろう。

しかし、そんな市民の足となる上海の地下鉄だが、まず改札口からして空港さながらのセキュリティチェックを受けなければならないことをご存じだろうか。“強行突破”する人も少なくはないのだが、乗客はみな手荷物をX線検査装置に通すことになっている。

そんな最新鋭のエントランスとは対照的に、改札そのものはアナログなレボルバー式の回転棒(以下写真)である。たまにタイミングを間違えて荷物が引っかかっている人を目にするので、日本のように最新鋭の機械式にしたほうが顧客の利便性が高まるのではないか。

アナログなレボルバー式の回転棒〔photo〕著者撮影

ホームのゴミ箱を「トイレ替わり」にする人たち…

そんな地下鉄で日本人が最もカルチャーショックを受けるのが、ホームでたまに目にするゴミ箱をトイレ替わりにする子連れの姿だろう。

駅によってはトイレを設置したホームもあるが、それでもピクトグラムの表札をかかげてトイレの位置を教えてくれるほど、駅のホームは親切ではないことが背景にあるのかもしれない……。駅にトイレがあるのか、どこにあるのかが曖昧な中で、泣く子を抱えた親たちがやむなくゴミ箱を使っているわけだ。

このあたり、日本ではピクトグラムの表札が掲げられているのが当たり前のように思われているが、それがいかに顧客のことを考えた「おもてなし」であるのかと実感させられたりする。

上海リニアは「空いている」

上海にはすでにリニアモーターカーも走っている。

日本では、品川―名古屋間(285.6km)を走行する中央新幹線(2027年開業予定)が建設中だが、上海のリニアは今から14年前の2004年に開通していた。とはいえ、走行距離は浦東地区の龍陽路駅(地下鉄2号線)と浦東空港のわずか30.5km。かつて上海市は「最高速度の431km/h」を自慢していたが、2011年7月に浙江省温州市で死者40人を出した衝突・脱線事故があってからは、最高速度は300 km/h台に落とされた。

鳴り物入りで開通した“夢の乗り物”だったが、中国にとってこのリニアは「鉄道外交」のための名刺代わりに過ぎないのかもしれない。片道料金は50元(約800円)の上海リニアは、いつ乗ってもガラガラだ。

筆者は開通以来、空港への移動手段として利用しているが、席を奪い合った経験は一度もない。金持ちは自家用車、節約派は地下鉄2号線を使うからだろうが、この乗客数で収支は大丈夫なのだろうか。

最新技術を駆使したリニアだが、扉はなぜか手動の部分があり、乗務員がいったん外に下りて扉を開けてくれるという“アナログなサービス”を提供してくれる。その乗務員がときどき扉を開けるのを“後回し”にすることがあるようだ。浦東空港駅に到着したにもかかわらず、筆者とその他の乗客が車内にしばらく閉じ込められたのもそのせいだった。

高速鉄道の「窓口」で体験したこと

さて、本稿のハイライトとなるのが、中国版新幹線と言われる「高速鉄道」である。

2017年末、国内の営業距離は2万5000km。延べ17億人が乗ったとされる高速鉄道だが、とにかく駅には人が殺到する。もとより、切符の購入から苦労するのが中国の長距離移動だが、スマホのアプリが開発されたおかげで、市民の乗車券購入はだいぶ便利になった。もちろん事前予約、事前購入も可能だ。

だが、外国人(特に観光客)は中国に銀行口座をまず持っていないので、スマホ決済の支払いに難儀する。それ以外の方法もあるようだが、筆者はとりあえず事前予約なしに、11月某日、2010年に開設された高速鉄道の巨大ターミナル駅「虹橋火車駅」に向かった。目的地・義烏(浙江省)までの「当日券」の購入を試み、窓口で20分以上並んだが、窓口係員の回答は「没有(売り切れ)」だった。「行き当たりばったり」が通用するほど、中国は「人の移動」に甘くはないのだ。

高速鉄道の駅「虹橋火車駅」。目的地にもよるが「当日券」は買えないケースもある〔photo〕著者撮影

筆者は仕方なく「行先変更」を算段したが、「何時何分発、どこ行き、空席有り無し」の運行情報を聞こうにも、乗車券の販売窓口は3人の係員が黙々と発券するだけで、「行先」と「枚数」以外の質問は基本的に受け付けてくれないのである。

だだっ広い構内を見渡せば、案内嬢もいるにはいるが、対応可能な人材といえばやっぱり窓口の係員でしかなかった。日本のJRであれば、新幹線の券売機やみどりの窓口に「タッチパネル式」の空席検索システムがあるのだが、そんな気の利いたものはここにはない。すべて「自分のスマホで調べよ」ということなのだ。

筆者は一度行列から外れ、作戦を立て直し、また行列に加わった。3本ある列のどれを選ぶかも「賭け」に等しい。隣の列は、20人以上も並んでいるというのに、交代の時間が来た係員が何の前触れもなく受付を終了させてしまった。ようやく杭州行き(東京からこだま号で小田原に行く感覚か)の乗車券を買ったときには、全身汗だくになっていた。

ちなみに、日本の新幹線なら「山手線並みの運行」というように、早朝6時台でも東京駅発の東海道新幹線は1時間に12本もあるが、中国の高速鉄道は、日本の新幹線に比べ1時間あたりの運行本数が少ないため、タイミングを逃すとしばらく待合の椅子で待つことになる。

「お前並べ」「あんたこそ並べ」の言い争いが始まる

2014年、雲南省の駅で27人が命を落とした殺傷事件は記憶に新しい。テロリズムのリスクと背中合わせの中国だけに「セキュリティチェック」は厳重だ。

荷物をX線検査装置に通し、人間のボディチェックをするのは手間がかかるが、中国では特に長距離列車駅でこれを徹底している。利便性よりもまずはセキュリティを優先せざるを得ないのだ。

しかし、本当に大変なのはそこから乗車するまで。改札時間が到来すると、ホーム行き階段のあるゲートには「我先に」と人が押し寄せる。乗車人数に対して改札機が少ないから、「お前並べ」、「あんたこそ並べ」の言い争いが始まるのだ。

ホームに降りても、「自分の車両が右方向にあるのか、左方向にあるのか」が瞬時には判別できない。東京駅なら「1号車」と「16号車」の方角は、上を見ても下を見てもすぐにわかるようになっているが、中国ではホームに車両番号が小さく打ってあるだけだからだ。

仕方がないので「4号車はどのあたりに停まりますか?」とホームの駅員に聞くも、「どいつもこいつも同じことを聞いてくる」とでも思ったのだろうか、顎を使って「あっちだ」と示された。駅に到着してから乗車に至るまで、「便利でいいなあ」などと感じた瞬間は正直あまりない…。10年前に中国の高速鉄道に乗った友人はこう言っていた。「高速鉄道は、とにかく目的地に速く着くようになっただけ」だと。

ずいぶんと改善された「ゴミ問題」

ちなみに筆者が乗り込んだ車両には、さすがに「ヘルメット着用」の乗客はいなかった。前述の温州衝突脱線事故(2011年7月)の直後、高速鉄道には事故を恐れた乗客の“重装備”が話題になり、中国メディアは「ヘルメットを着用して乗車する乗客の姿」をこぞって取り上げたことがあった。

筆者の乗車券に打ち込まれた「4号車」は、右に2席、左に3席、85人乗りの二等車だったが、それはどこか見覚えのある車両だった。そこで写メった画像を“自称・乗り鉄”の友人I氏に送ったところ、「日本の新幹線の普通車でしょ」と返事が来た。車内の全体の雰囲気やシートに使われている布、揺れの際につかまる取っ手などからして、「日本の車両とまったく同じ」(I氏)だと判断したようだ。

この画像を送ると、友人から「日本の新幹線でしょ」という反応が返ってきた〔photo〕著者撮影

実際、中国高速鉄道CRH2型は川崎重工が新幹線E2系をベースに車両を製造したものだといわれている。CRH2型にはA、B、C、Gの類別があるが、川崎重工が完成車として納入したのは、「CRH2Aのうちの一部」(同社広報)だというから、筆者が乗ったのは幸運にも「CRH2A」だったのかもしれない。

いや、ひょっとしたら、筆者が乗ったのは、Aの残り一部と、B、C、G型、あるいはその後に投入されたE2系をベースにしたCRH380Aのどれかだったとも考えられる。聞くところによれば、「中国製造による日本の新幹線に酷似した車両」が走っているという。

車内は「清掃」というサービスが実によく行き届いていた。放っておけば、「ひまわりの種」の殻だらけになる車内の床も、清掃係が10分と置かずして車内を往復し掃き清めていた。ゴミ問題はずいぶんと改善された。

だが、車窓は汚れていた。いくらカメラのシャッターを切っても灰色がかった風景しか撮れない。日本の新幹線は窓が汚いと思ったことはない。日本の新幹線はいつ見ても、いつ乗っても光を放っているかのようにキラキラ輝いて見える。

また車内アナウンスも日本の感覚では親切とはいえない。「次の駅は〜」の車内アナウンスが、前の駅を出た直後に「口頭で一度切り」。車内には日本の新幹線と同じ位置に電光掲示板があるが、それはもっぱら商品の広告宣伝用に使われていた。

中国が欲しいのは「日本のソフトの技術」

振り返れば 、90年代、上海から黒龍江省・ハルビンまで2泊3日(現在は12時間半)かかった。

スマホなどもない時代、誰もが話題に飢えており、すぐに“道連れ”ができた。そんな雰囲気こそ薄まったが、中国の高速鉄道にはいろんな人たちが乗っている。都会風のこざっぱりとした若者もいれば、何十年も土を耕してきたと思われる真っ黒に日焼けした老夫婦もいる。遠慮のないおしゃべり、途切れることのない鼻歌、スマホから大音量で漏れる中国人好みの派手な音楽は、スーツ姿の多い東海道新幹線とは異なる“独特な車内風景”だ。

高速鉄道は「中国のブランド」であり、中国の「鉄道外交」を支える重要な商品だ。今話題の「一帯一路」は、中国国内で余った鉄を線路にして使い、中国の最新技術を駆使した車両を走らせる構想だとも言われている。

だが、車両だけ作っていればいいというものでもない。運行管理やホーム、駅舎の運営、バックヤードでの整備や発券業務などなど、力を込めて取り組むところはまだまだある。10月26日に行われた日中首脳会談では、「一帯一路」をめぐり日本は第三国でのインフラ投資への協力姿勢を示したが、まさに中国が欲しいのはこうした「日本が持つソフトの技術」だ。

一方で、中国の国民目線でこれを見れば、「速く移動できるだけで十分」なのかもしれない。むしろ、私たち日本人が「高度なサービス」に慣れ切ってしまっているともいえるかもしれない。

今年は高速鉄道の初運行からちょうど10年目にあたる。広い国土をこれだけ網羅したのは輝かしい功績だが、これから先、果たして中国高速鉄道は「目的地に速く着く」を超える価値を提供することができるだろうか。

引き続き、ウォッチしていきたい。