「地球を救う切り札を握る国、それは最大の温室効果ガス排出国である中国だ」の写真・リンク付きの記事はこちら

ポーランド南部のカトウィツェに2018年12月初め、世界各国の代表団が集まった。2015年に採択された「パリ協定」に盛り込まれている温室効果ガスの削減目標について話し合うためだ。当初の予定を延長して2週間に及んだ国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)では、米国に代わる新たな“超大国”が強い存在感を示した。

気候変動をフェイクニュースと決めつけ、政府がまとめた報告書を「信じない」と公言する大統領を擁する米国は、COP24に参加はしてもリーダーシップをとることはないと見られていた。これを受けて、会議を主導したのが中国だ。いまや世界2位の経済大国となった中国では、再生可能エネルギーによる発電が大きく拡大している。

いくつかの根源的な問題がなければ、新たなリーダーの出現は歓迎されただろう。しかし、まず何よりも、中国は世界最大の二酸化炭素(CO2)排出国だ。

排出量は少なくとも向こう数年は落ち込む気配はない。しかも「一帯一路」政策の下、東南アジアやアフリカの各国に環境負荷の高い発電インフラを輸出している。ベトナム、パキスタン、ケニアなどでは中国からの投資によって、石炭火力発電所の建設ブームが起きているほどだ。

つまり、温室効果ガスの削減強化を目指す上では、中国が主導権を握ると困ったことになる可能性が高い。シンクタンクの世界資源研究所(WRI)のシニアフェローで、オバマ政権では気候変動の交渉に携わった経験をもつアンドリュー・ライトは、「アリストテレスの言葉を借りれば、交渉は真空を嫌います」と話す。「米国がリーダーシップをとろうとしなければ、中国が出てくるでしょう」

このままでは自然災害の被害は総額54兆ドルに

COP24が開かれたカトウィツェは、ポーランドでも石炭産業の盛んな南西部の中心都市だ。会議で議論の中心となったのは、各国の排出量の測定方法や削減目標の達成状況をどう検証するかなど、パリ協定の運用に向けた実務面での詳細だった。

会場には国際連合の旗が掲げられたが、合意事項が守られているかを監視する組織などは存在しない。つまり、工場や自動車などから吐き出される温室効果ガスの総量の測定と申告はそれぞれの国が自主的に行い、他国の政府やNGOがそれを検証することになる。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が10月に発表した報告書によると、排出量が現行の水準で推移すれば、気候変動の結果として生じる山火事やハリケーン、干ばつ、洪水といった自然災害の被害は、2040年までに総額で54兆ドル(5,955億円)に達する。IPCCは、これを避けるためには国家だけでなく、地域や産業レヴェルで行動を起こす必要があると呼びかけている。

メリーランド大学のグローバル・サステイナビリティ・センターの所長ネイサン・ハルトマンは、「2030年までに既存の石炭火力発電所をすべて閉鎖するといった積極的な対策をとることが必要です。石炭の生産量も7〜8割は減らさなければならないでしょう」と話す。

ハルトマンはオバマ政権下で気候変動対策に取り組んでいたが、こうした対応を行うのは政治的に難しいだろうと指摘する。「必要な政策を十分なスピードで実行に移せているかと言えば、答えは恐らくノーです。だとすれば、排出量を少しでも減らすために何ができるのかを考える必要があります」

石炭大国でエコロジー大国でもある中国

ただ、ハルトマンをはじめとする専門家らは、状況は改善していると考えている。彼らが注目するのは、気候変動の大きな要因となっている中国だ。

中国は世界の石炭の半分を消費しているだけでなく、2002年以降の世界の石炭生産の伸びに占める割合は40パーセントに上る。炭鉱労働者の数は米国の7万6,000人に対し、中国は実に430万人だ(ちなみに米国の石炭産業従事者の数は、ファーストフードチェーン「Arby’s」の全従業員数より少ない)。

つまり中国は石炭大国なのだが、同時にエコロジー大国でもある。例えば、世界の電気自動車(EV)の半分は中国の道路を走っている。電気バスに限ると、この割合は99パーセントに達する。国内の総消費電力の4分の1は、太陽光や風力といった再生可能エネルギー由来だ。

また、中国産の安価なソーラーパネルが太陽光発電のコストを大きく下げたことも指摘しておかなければならないだろう。さらに、世界の主要自動車メーカーにEVバッテリーを提供する中国企業も多い。

ジョンズ・ホプキンス大学の高等国際問題研究大学院でエネルギー資源や環境について教えるヨナス・ナームは、中国政府が再生可能エネルギーの促進を政策として掲げる理由は気候変動への配慮ではなく、単純にその方が経済的だからだと指摘する。「地球全体のことを考えているわけではなく、経済戦略として行なっているわけです」

大気汚染が中国を後押し

ナームはこれまで、共産党中央部が掲げる再生エネルギー関連の目標値と現実との乖離について調査してきた。例えば、送電網インフラが未整備なために、国内で発電されたグリーン電力の40パーセントは無駄になっている。低価格な太陽光由来の電力はあるのだが、それを石炭火力由来の電力しかない地域に送ることが物理的にできていないのだ。

一方で、旧型の石炭火力発電所は国民の健康に深刻な被害を及ぼしている。ナームは「大気汚染は石炭発電の大きな問題のひとつです」と説明する。「中国政府が行動を起こさざるを得なかったのは、大気汚染が深刻化したからです。また、気候変動によって起こる砂漠化や水不足、砂塵の嵐といったことも引き金になりました」

ナームやほかの研究者たちは、中国は気候変動に関しては正しい方向に向かっているが、依然として石炭依存が極めて強いことが問題だと考えている。中国はパリ協定を支持しているが、COP24では自国に先進国と同じルールが適用されることに最後まで強く抵抗した。

切り札を握るのは誰か?

トランプ政権はすでにパリ協定から離脱する方針を事務局に正式に伝えているが、もうひとつの問題は、各国が自己申告した排出量を検証する方法だ。

パリ協定の前の京都議定書では先進国のみに削減目標が課され、中国は「途上国」に分類されたが、パリ協定では途上国を含むすべての国が排出量削減に向けた努力をすることになった。この点を巡り、監視の目を光らせる者がいないと、中国が不正確な数字を申告するのではないかと懸念する声があるという。

ブルッキングス研究所のシニアフェローのサマンサ・グロスは、「ポーランドでは、報告書に盛り込むべき内容やそれをどう確認するかを巡って議論が紛糾しました」と話す。

グロスはまた、地球環境の未来について切り札を握っているのは中国だと指摘する。「中国が何もしなければ温暖化は進行し、わたしたちは炒め物になってしまうでしょう」