新日側にも前田をつぶそうという意図はなく、勝てばOK、負けても惨敗でなければ“リベンジ戦で二度おいしい”ぐらいのものであったのではないか。

「猪木が前田を後継者の筆頭に考えていたことに違いはない。ただ、まだあの頃はテレビ朝日や興行関係者からは、前田の看板だけでは弱いと見られていたし、猪木自身もアントン・ハイセル事業の借金返済のため一線から退くわけにはいかなかった」(新日関係者)

 その後、長州への顔面蹴撃事件が起こるなど巡り合わせも悪かった。その後、新日を離れてからの第二次UWFでも、大筋としては新日での戦い模様の延長であり、ゴルドー戦も「興行トップとしての責任」を果たすためには当然のことをやったまでなのだ。

 前田が真剣勝負から逃げていたというわけではない。そもそも今の基準で言うところの真剣勝負を目指していなかったのだから、そこを批判しても意味がない。むしろ本人の意図にかかわらず、真剣勝負の空気を漂わせていた前田の存在感こそ、賞賛すべきではないか。

前田日明
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PROFILE●1959年1月24日、大阪府大阪市出身。身長192㎝、体重115㎏。
得意技/キャプチュード、フライング・ニールキック。

文・脇本深八(元スポーツ紙記者)