ー 東京都港区、会社役員、橋上恵一容疑者(41)を業務上横領容疑で逮捕

自分の名前が載ったネットニュースを、六本木のレジデンス37階で他人事のように眺める。

仕事を懸命にこなし、家族を思い、夢を追いかけ、

そして私は破滅した。

ーいつから間違ってしまったんだろう…?

誰か、教えてほしい。私はいつから狂ったのかを。

お待たせしました。2018年ヒット小説総集編、「煮沸」一挙に全話おさらい!



第1話:〜幼少期編〜:破滅した時代の寵児。あなたにわかるだろうか。彼はいつから狂っていたのか

“これからのたくさんの時間を使って、事件を起こすに至った、自分の人格を理解したい”

趣旨と報酬を告げると、汚れたシルバーフレームの眼鏡に手をあてて、彼は言った。

「では、人生の一番はじめから記憶を遡って、特に印象に残っている出来事を思いつくままに書いて、私に送ってください。一瞬のシーンでも構いません」
「それで?」
「分析をします」

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第2話:開けてはならぬ記憶の扉が、いま動く。この男の記憶は、すべて都合良く歪曲された幻なのか?

『十分。幼少期から、十分、あなたは壊れはじめています』

飯島が放った言葉が、喫煙部屋のタールのように脳裏にこびりついて離れない。触らずとも、ベタベタしていることが感覚でわかる。

『記憶はね、”認識”なんです。事実に解釈が加わって、はじめて記憶です。誰でもいい人生だったって思えるように、うまくできてるんですよ』

時計の針は17時半を指している。夕食の後の『余暇時間』だ。今日は父について、最も鮮明な記憶を書いてみることにする。

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第3話:お金さえあれば生きていける。筆箱の中に友達を隠す少年は、こうして『怪物』に成り果てた

「…お兄さんはどこへ行ったんですか?」

笑いながら飯島が言う。

「調べました。あなたは、長男です。お兄さんなんていません」

頭の中で、電灯に蛾が衝突するときの電子音のようなものが響き渡った。昔、よく聞いた音だ。

手記を書いていて気づいたことがある。私の記憶に色はあまりないが、音だけは鮮明だ。

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第4話:親から子へ引き継がれる“負の連鎖”。襲い掛かる不幸に、目覚めてはならない人格が覚醒する

「あれ、もう帰るんですか。せっかくきてくれたんだ。話を…」
「俺は息子の恵一に会いに来た。お前じゃない。」

老人は立ち上がり、恵一に背を向ける。

「…死ぬから、最期に会いに来たんですか?区切りをつけるほど、生きている意味がありましたか?」

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第5話:人間は、気づかずに狂い続ける。この社会でゆっくりと…壊れていったのは誰なのか

ー静寂が戻る。

男は、状況を理解する。早く、早く死ななければいけない。

まだ動く目を、音がしたほうに向ける。緊張は眼球から引き起こされることを、死に際にまでも学ぶ。聞こえていた子供たちの声が消える。

そして悟る。無意味な生は、終わりすら自分で決めることができないことを。

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