12月23日に行なわれた天皇杯・皇后杯バレーボール全日本選手権の決勝で、全日本女子代表の荒木絵里香(トヨタ車体クインシーズ)が圧巻のプレーを見せた。

ケガ明けでの出場ながら、18打数15得点で決定率83.3%という脅威の数字を叩き出し、ブロックでも5得点。試合は久光製薬スプリングスにセットカウント1-3で敗れたが、全日本の”不動のミドルブロッカー”の力をあらためて証明した。

 2014年1月に長女を出産し、34歳になった今年度も全日本で圧倒的な存在感を放った荒木に、世界選手権での戦いや2020年東京五輪への思いなどを聞いた。


ミドルブロッカーとして長らく全日本をけん引する荒木

――今年度の全日本を振り返っていかがですか?

「世界選手権が一番強烈というか、すごく濃かったですね。そこから休む間がなくて今は目が回っている感じがしますが(笑)。あらためて、世界選手権のようなレベルが高い大会で戦える喜びを感じました」

――世界選手権の荒木選手のプレーを見たあるバレー関係者は、「今が全盛期」とも話していましたが。

「周りの方々にそう言ってもらえるのはうれしいですね。私も最近、10年前の北京五輪での自分のプレー映像を見る機会があったんですが、ジャンプの高さや動きのキレなどは今と比較にならないほどよかったです。でも、それ以外で向上している部分もあるので、トータルでは成長できていると感じています」

――その「向上している部分」とは?

「ひとつは精神面です。どんな場面でも気持ちが揺らがないように、メンタルをコントロールできるようになったと思います。技術に関しては、ブロックをする際にキル(シャットアウト)ばかりを狙うのではなく、『後ろの選手にどう拾ってもらうか』といったように、トータルでディフェンスを考えられるようになりました。拾ってからのつなぎやサーブなどの攻撃面も含め、すべてにおいてまだ伸びしろがあると考えています」

――荒木選手は、2012年ロンドン五輪で銅メダルを獲得したチームの主将でした。そんな荒木選手から、今年度の全日本で主将を務めた岩坂名奈選手にアドバイスをすることはありましたか?

「名奈がいろいろなことを考えて大変なのは痛いほどわかるので、自分ができる最大限の後押しをしようと考えていました。たとえば、(世界選手権前の)アジア大会で惨敗して、『この先どうするか』という話をしている時に、名奈が『ポジションごとに具体的なテーマを決めたらどうでしょうか?』と質問してくれて。私は、そういう時に先輩方に支えてもらえたのがうれしかったですし、実際にいいアイディアだと思ったので、どんなテーマがいいかを一緒に考えました」

――荒木選手と岩坂選手のポジション、ミドルブロッカーのテーマは何だったんですか?

「チームが勝つために、ミドル2人で1セットあたり何点取ればいいのか。4点か5点くらいだったと思いますが、コーチの方にブロックやサーブなどで稼ぐべき”ノルマ”を出してもらい、試合ごとに成果をフィードバックしていました」

――古賀紗理那選手や新鍋理沙選手も、「すごく引っ張ってくれる」と荒木選手を頼りにしているようです。

「みんな”ヨイショ”してくれてるんです(笑)。本当に大したことはしていないですし、全選手が頼もしいですから。紗理那はケガなどもあって苦しい時期が長かったですが、今年のアジア大会後に『モードを変えた』のを感じました。いい意味で開き直るというか、強く逞しくなって、世界選手権で大活躍してくれた。(木村)沙織も気にかけていて、連絡を取るたびに『紗理那は元気?』って聞いてくるので、それを伝えています。紗理那もうれしいでしょうね。

 理沙も、チームの中で自分のよさをどんどん出していると思います。攻守でレベルが高い彼女がコートにいるだけでチームにいい流れができる。プレーは鋭いのに普段はホワッとしたところがあって、かわいいんですけどね(笑)。今の全日本に欠かせない存在です」

――世界選手権ではどの試合がもっとも印象に残っていますか?

「(3次ラウンド第2戦の)イタリア戦ですかね。フルセットで負けたんですが、あの日のイタリアはあまり調子がよくなかったので、勝てた試合だったと思います。ポジティブに考えれば、大会準優勝チームであるイタリアを『本調子にさせなかった』とも言えますが……やっぱり悔しかったです」

――そういった強豪チームを上回るために、全日本には何が必要でしょうか。

「日本にはブロックの上から打ち抜けるような選手がいないので、急激に攻撃力がアップすることはありません。だから私を含め、すべての選手が個人のスキルをひとつ、ふたつ上げていく必要がある。束になったときの組織力の高さが日本の強みではありますが、1対1で決め切る力など、個人で伸ばせるところは最大限伸ばさないと勝つことは難しいと思います」

――世界の”スーパーエース”と相対する時の対策はありますか?

「まず、そういった選手に万全の状態で打たれたスパイクは、決められてもある程度割り切ること。それを引きずっていると、相手がミスショットをした時に冷静に対応できなくなってしまいますから。また、ブロックでコースを限定し、『このコースに来るよ』というメッセージを後ろの選手が感じられるような”呼吸”を高めていきたいです。

 勝敗を大きく左右する20点以降の点数の取り方、取られ方も大事ですね。単純な打ち合いでは分が悪いですから、そこに持ち込ませないように、相手の思うようにさせない仕掛けをしないといけません」

――積極的にサーブで崩し、拾って粘るということでしょうか。

「サーブで崩すことはもちろんですが、逆に自分たちが崩されてボールを返す時に『少しでも相手に楽をさせないためには、どの選手にボールを取らせたほうがいいのか』といった瞬時の状況判断も大切です。そういう細かいところのクォリティーをどれだけ上げられるかで、勝敗が変わってくると思います」

――そういったスキルを上げるためにも国内のリーグが大事になると思いますが、”ママさんアスリート”として「V.LEAGUE」で活躍されている全日本の選手は荒木選手だけです。ロンドン五輪の翌年に休養し、出産を経て1年足らずでコートに戻るという流れは事前に考えていたのですか?

「そうですね。約10年間、国内リーグと全日本で試合を繰り返してきて、ロンドン五輪で銅メダルを獲得できた達成感がありましたし、環境を変えるなら今かなと。バレーを長く続けたかったので、夫や母と相談して休養と復帰の時期を決めました。

 復帰後、『また全日本に』と打診された際は悩みましたけどね。代表に入ったら海外での試合がありますし、夫にも仕事がある。母が子育てをサポートしてくれなければ、もう一度全日本で戦う決意はできなかったと思います。今もかなり助けてもらっているので、本当に感謝しています」

――娘さんは来年1月で5歳になりますが、日本で行なわれた世界選手権の試合も観戦に来てくれたそうですね。

「はい、何試合か。いざ会場に来たら、ゲームなどをしてあまり試合を見ていなかったみたいですけど(笑)。でも、家を出る時はいつも『フレー、フレー、ママ!』と応援してくれます。それはすごく励みになりますね」

――復帰後も全日本のレギュラーとして活躍されていますが、「自分の立場を脅かすような若手の選手が出てきてほしい」という思いもありますか?

「それは私がどうこう言えることではないですけど、この先の全日本を考えると、もっと出てきてもいいですよね。私のサイズ(186cm)以上で動けるミドルブロッカーとなるとなかなか……。でも、タイのチームに移籍した(奥村)麻依とかもあの身長(177cm)ですごく頑張っているし、機動力があるので私も学ぶことがたくさんある。互いに成長しながら東京五輪を目指せたらと思います」

――荒木選手が東京五輪のメンバーに選ばれたら、大会期間中に36歳を迎えます。「30代後半のオリンピアン」というと、クインシーズを率いる多治見麻子監督も36歳で北京五輪を戦いました。

「麻子さんにはいつも、『大丈夫。いけるよ』と背中を押してもらっています。正直、2020年に東京でオリンピックが開催されると決まった時は、『もう少し早かったら……』と思ったこともありました。でも今は、自分に出場できるチャンスがあるので、チームで結果を残してそこにつなげたいです」

――現在、トヨタ車体クインシーズはウェスタンカンファレンスの3位(7勝3敗)で、1位の久光製薬スプリングスとは2ポイント差です。年明けに再開されるリーグに向けて目標を聞かせてください。

「優勝しかないです。昨季はチーム最高の3位になり、ここまでの戦いにも手応があります。自分の経験を少しでもチームに還元して、初優勝を目指します」