NBAは早くもシーズンの3分の1が終了した。イースタン・カンファレンスではボストン・セルティックスがスタートダッシュに失敗したものの、徐々に成績を上げて勝ち星を増やし、おおむねシーズン前の評価が高かったチームが上位争いを繰り広げている。


ルーキーながらチームに欠かせない存在となった19歳のルカ・ドンチッチ

 一方、ウェスタン・カンファレンスは空前の大混戦。デンバー・ナゲッツ、ゴールデンステート・ウォリアーズ、オクラホマシティ・サンダーの3チームが頭ひとつ抜け出しているが、4位から14位までの11チームが5ゲーム差の中にひしめき合い、連日のように順位が乱高下している(12月26日現在)。

 そんな大荒れのウェスタンで注目したいチームが、ダラス・マーベリックスだ。

 マーベリックスは昨季のオールルーキーセカンドチームに選出されたデニス・スミス・ジュニア(PG)の欠場もあって、現在はウェスタン12位(15勝17敗)。ただ、開幕10試合で3勝7敗だったことを考えれば、それほど悲観するものでもないだろう。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 さらに、12月13日には左足首の手術で開幕から欠場していたダーク・ノビツキー(PF)が復帰し、徐々にコンディションを上昇させている。スミス・ジュニアもすでに練習を再開しているので、後半戦に向けてチーム力の向上は必至だ。

 そしてなにより、今年のマーベリックスは、「欧州のワンダーボーイ」こと19歳のルーキー、ルカ・ドンチッチ(SF)の成長が著しい。

 ドンチッチは、16歳の時にスペインのレアル・マドリードでプロデビュー。「100年にひとりの逸材」と呼ばれ、昨シーズンはユーロリーグ優勝、オールユーロリーグ・ファーストチーム選出、さらには史上最年少でのユーロリーグMVP、そしてリーガACBのMVPも獲得するなど、チーム&個人タイトルをほぼ総ナメにした。

 2018年のドラフトでは、全体3位でアトランタ・ホークスから指名。その後、ドラフト当日のトレードで交渉権を手にしたマーベリックスに入団している。

 シーズン開幕前は期待されつつも、同時に「身体能力不足で苦戦するのでは?」とも囁かれていた。ちなみに、ノビツキーもNBA1年目は、「パワー不足からディフェンスができない」と酷評されていた。

 だが、ドンチッチはその評価が正しくないことを、シーズン開幕と同時に証明した。

 現在、ドンチッチの成績はチームトップ、さらには全ルーキートップとなる1試合平均19.0得点をマーク。また、得点だけでなく平均6.6リバウンド・4.9アシストと、万能ぶりも証明している。

 12月16日のサクラメント・キングス戦で28得点を記録したドンチッチについて、キングスのデイビッド・イェーガー・ヘッドコーチは、「ドラフト前は彼の能力について懐疑的な意見があった。それは我々にとって不運だった」と、ドラフト2位指名権を持ちながらドンチッチを指名しなかったことを後悔するようなコメントを残している。

 また、手厳しいコメントが多いウォリアーズのドレイモンド・グリーン(PF)も、マーベリックスとの試合後、「彼はすごくうまい。すでに厄介な存在だが、これからさらに厄介になるだろう」とコメント。さらに「スペインの至宝」と呼ばれるリッキー・ルビオ(ユタ・ジャズ/PG)も、「彼は特別な選手だ。過度な期待が生まれるのを避けたいから、あまり言いたくはないが、史上最高の欧州出身選手になれる」と絶賛している。

 ドンチッチの現在のキャリアハイは、12月20日のロサンゼルス・クリッパーズ戦で記録した32得点。しかし、彼は記録以上に記憶に残る、スター性を帯びた選手だ。

 たとえば、12月8日のヒューストン・ロケッツ戦。この試合、ドンチッチは試合残り3分まで10得点に抑え込まれて精彩を欠いていた。

 しかし、94-102と8点のビハインドで迎えた第4クォーター残り2分48秒、まずはコーナーからスリーを決める。そして残り2分5秒にはアイソレーションからステップバックのロングスリーを、さらには残り1分34秒にはパワーでマークマンを押し込んでフローターを決め、102-102の同点へと持ち込んだ。そして最後は残り57秒。ドンチッチはふたたびアイソレーションから、軽快なステップバックでスリーを沈め、なんと11連続得点でチームを勝利に導いたのだ。

 さらには、12月23日のポートランド・トレイルブレイザーズ戦。104-107で迎えた試合終盤、エンドラインからマーベリックスのスローインという場面で、残された時間はわずか0.6秒。そんな絶体絶命の状況のなか、ドンチッチはマークマンを振り切りコーナーでボールを受けると、同時にループの高いシュートを放って同点となるブザービーターを沈めた。

 もはや、そのスター性を疑う者は誰もいない。あまりにも衝撃的すぎて、「すでに完成度が高すぎるので、伸びしろがあるのか?」という声も聞こえ始めている。

 201cmのサイズながら、ボールハンドリングもアウトサイドシュートもうまく、フローターのようなテクニックや器用さを有し、視野の広さも抜群。たしかに、選手として完成の域に達しているようにも見える。

 しかし、ドンチッチが現状に胡座(あぐら)をかくような人柄ではないことを、チームメイトのディアンドレ・ジョーダン(C)がこう伝えている。

「彼は次の段階に進んでいる選手だ。普段は1日中、テレビゲームをしているような穏やかな青年だけど、一度コートに立てば殺し屋になる」

 また、ドンチッチ自身も、現状に満足することは決してないだろう。

 10月31日のロサンゼルス・レイカーズ戦。この試合は、ドンチッチにとって単なる1試合ではなかった。

「レブロン・ジェームズ(SF)は、僕のアイドル。彼に憧れ、これまで彼のプレーを数えきれないくらい見てきた」

 この試合で憧れのレブロンと初めて対戦し、初めてマッチアップしたドンチッチは、試合後、レブロンにこの日着ていたジャージーをもらえないかと打診している。そして、快諾したレブロンから手渡された紫のジャージーにはサインとともに、こう書かれていた。

「Strive For Greatness(偉大な選手になるために努力しろ)」

 シーズン後半、さらには数年後……ドンチッチはどれほどの成長を遂げているのか。「欧州のワンダーボーイ」のNBAでのキャリアは、まだ始まったばかりだ。