サラリーマンは所得税と住民税を会社から天引きされてしまう。だが、「副業」があれば、その赤字で税還付を受けられる。会社勤めを続けながら、40年にわたりイラストレーターを副業としてきた只野範男氏は「40年間で1000万円超の税還付を受けました。いま政府は副業を推奨しており、『無税の人』には追い風が吹いています」と語る――。

※本稿は、只野範男『完全版 無税入門』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/takasuu)

■「副業解禁」宣言は追い風

実は私、10年前に「無税入門」という本を出した元サラリーマンです。「無税」とは、非課税という意味ではありません。給与から天引きされた税金が、ブーメランのように自身の財布に戻ってくる現象をいいます。旧著のテーマは「私の“無税人生”を完全公開しよう」でした。所得税を全額還付してもらうためのハウツー本で、おかげさまでベストセラーになりました。

私は「無税」で40年間暮らし、支払いを免れた所得税と住民税は1,000万円を超えます。もっとも、そのお金は生活費に消えてしまいましたが。

では、なぜ今、このタイミングで新作を世に問うのか。旧作から新作までの10年間で、状況が大きく様変わりしたからです。「副業で税金を取り戻せ」をコンセプトにした新作にとって、2018年初めの政府による「副業解禁」宣言はまさに追い風です。

今までは85%超の企業が副業禁止でした。今年、政府はこの固く閉ざされた扉にガシッと両手をかけ、新しい風を入れようとしています。無税生活のメリットは、今こそ最高潮に達しているといっても過言ではありません。何が変わり、時代の流れはどこに向かうのか。本書では、それをしっかりとお伝えできればと思います。

副業はカネを稼ぐためだけにあるのではありません。副業を使って“無税の人”になることもできるのです。それにはどうすればいいのか? 人生100年時代の今、拙著があなたにとって「これからの生涯設計」の一助になれるなら幸いです。

■「赤字の副業」を続けられるサラリーマン=無税の人

副業の赤字と給与所得の黒字を相殺することで、天引き所得税が還付されます。これが「無税の人」になるスキーム(枠組み)です。副業の種類は問いませんが、一定の売り上げが確保でき(そうでなければ、事業所得の認定がおりない)、そこから必要経費を引くと赤字になる副業を営めるサラリーマンだけが、「無税の人」になれるのです。

要するに、「赤字の副業」を続けられる「ヘンなサラリーマン=無税の人」といえます。他方、副業が大化けし、税金をいっぱい払うようになり、ついには脱サラ・起業に成功という「夢の展開」もありえます。

人生この先、何が起こるか、それは誰にも読めないのです。私は「無税の人」としておよそ40年間過ごしましたが、残念ながら、イラストレーターとしては大成できませんでした。イラスト販売は必要経費を引くと常に赤字でしたが、この副業の赤字を使って所得税と住民税がゼロになったのです。

これが「副業で税金を取り戻す」カラクリです。

■なぜ副業で「無税」になったのか

私の収入は、給与と副業の2本立てです。2つの所得(給与所得と副業の事業所得)がある場合は、次のような流れで所得税を算出します。

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1.2つの所得を合算します。その際、赤字と黒字の所得は相殺できます。
2.合算した所得から各種所得控除を引き、課税所得を出します。
3.課税所得に対応する税率をかけて所得税を出します。
4.課税所得がマイナスになれば、所得税はゼロです。
5.すでに納付した所得税があれば、確定申告をすると還付されます。

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給与所得は常に黒字ですが、副業の所得は売り上げや、必要経費がかさむと赤字になります。私のイラスト制作・販売は売り上げが少ないため、必要経費を引くと赤字です。

確定申告の際に、黒字の給与所得と赤字の事業所得を相殺(損益通算という)し、その金額から所得控除(扶養控除、基礎控除など)を引くと、課税所得がゼロ以下になります(確定申告書にはゼロと記入)。課税所得がゼロ以下になれば、所得税は当然ゼロです。このゼロ円が赤字の副業を持つ私の「正確な税額」です。

私はすでに給与から所得税を納付しており、その分が納め過ぎになるので、確定申告をして取り戻すわけです。この還付金が「ブーメラン税金」で、副業を持たない給与所得だけの人には、決して起こらない現象です。このように「副業で税金をゼロ」にできるのは、副業が赤字経営の場合のみです。

■必要経費のほうが多いから赤字になる

確定申告とは、個人事業主が国に自身の税金を申告・納税する作業です。副業を持つサラリーマンも個人事業主ですから、副業が黒字の場合は確定申告によって税額を算出し納税する義務があります。

私のように赤字の場合は、納税額がないので確定申告の義務はありません。ただ、源泉徴収で所得税を納めている場合は、申告するとその分の所得税が還付されます。

副業の必要経費としては、家賃、光熱費、通信費、車のガソリン代と維持費などを計上しました。これらの経費を家庭用と仕事用に6対4に按分し、4割を仕事用とし、画材費全額を足すと副業の必要経費全額がでます。売り上げから必要経費を引くと、事業所得(イラスト制作・販売)がでますが、必要経費の方が多いため、事業所得は赤字になります。

■「食えるほど」もうけが大きいか

私のイラスト販売は、波はありましたが月5万〜10万円程度は売り上げていました。ただ、これでは食えないので、副業としてサラリーマンをせざるをえなかったのです。私の胸中では本業がイラスト描き、サブがサラリーマンです。したがって、イラスト販売で得る所得は事業所得として確定申告をしていました。この理屈が、国税当局に通用するかどうか。

事業所得とは個人事業主が行う「事業」のもうけであり、雑所得とは10種類ある所得のうち、どれにも属さない所得のことです。一般的にサラリーマンの「副業」から得たもうけは、雑所得に区分されます。ただし、「食えるほど」もうけが大きい場合は、事業所得になります。

国税庁は事業所得と雑所得の境界線をあいまいにしており、明確な線引きをしていません。事業所得は給与所得と損益通算が可能ですが、雑所得はそれができません。言い換えると、副業収入が事業所得として当局から認められず、雑所得に区分替えされると損益通算ができないため、「副業で税金ゼロ」は不可能になります。

■節税は「長期積立貯金」と同じ

課税所得(年収のうち税金がかかる部分)がゼロ円なら、天引きされた所得税の全額が戻ってきます。戻ってくる金額は、納めた所得税次第ですから、人によって違います。所得税がゼロ円になれば、本来払うべき住民税もゼロ円になります。住民税がゼロ円になると非課税世帯になり、市町村の公共サービス(国民健康保険料、教育補助費、市営住宅の家賃など)の負担が、課税世帯より大幅に優遇されます。

では、「無税」になると、一体どのくらいの稼ぎになるのか? この答えは何年間、無税を継続し、その間に所得税がいくら返ってきたか、住民税タダ状態が何年続いたか──この2つの要素から算出できます。

1年や2年だけ「無税の人」であっても、大した金額にはなりません。また、副業が黒字になった年は、所得税は1円も戻ってこないばかりか、黒字分の税金を納めるので、給与と副業のダブル納税となります。長期間、「無税」を続けるには、課税所得をゼロ円にする「赤字の副業」を長期間、続ける必要があります。生活を圧迫しない「赤字の副業」を永続的に営めるかどうか、ここがポイントです。

節税は「長期積立貯金」と同じで、地道に長年続けなければ、何百万円という大きな金額には膨らみません。何十年も(できれば定年まで)、還付金を受け取り続ければ、累積額は1000万円超も不可能ではないでしょう。ただ、1000万円の中には、本来払うべき住民税も含みます。

■副業を長く続けるコツとは

繰り返しますが、還付金を長年受け取るには、副業を長年継続することが必須条件です。では、副業を長年継続するコツはなんでしょうか? 簡単です。好きなこと、得意なこと、時流に合ったこと、自分にできること──この「4つのコト」を軸に副業を選択すればいいのです。

只野範男『完全版 無税入門』(飛鳥新社)

最後にもうひとつ、「コト」があります。これは副業開始後の注意事項ですが、頑張り過ぎないコトです。自分の限界(リミット)を超えると、本業に支障がでたり、健康を害したりする恐れがあります。健康を犠牲にしてまでする副業は存在しません。

「ボチボチ副業、コツコツ節税」

このモットーこそが疲れをためず、「無税の人」を長く続けられるコツです。商いは牛のよだれといいます。粘り強くやっているうちに道が開け、会社もやめられた──そうなればまったく違った展開ですが、万々歳です。

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只野範男(ただの・のりお)
神戸市出身、繊維関係の中小企業に勤める総務第2課営繕係長だったが、このたび定年。イラストレーターの副業をすることで、40年にわたり「無税」を継続。およそ1,000万円の節税をしたまま逃げ切ることに成功。『完全版 無税入門』(飛鳥新社)ではそのノウハウが惜しげもなく開陳されている。著書に、2007年に出版されベストセラーになった『無税入門』(飛鳥新社)がある。

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(只野 範男 写真=iStock.com)