昭和期から現在にかけて、多くの人に親しまれているカラオケ。ただ、底堅い人気のレジャーではあるものの、閉塞感が漂い始めている。それは、カラオケ参加人口(以下、カラオケ人口)やカラオケボックスルーム数が微減、もしくは横ばいとなって久しいからだ。

一般社団法人全国カラオケ事業者協会がまとめた「カラオケ白書2018」によると、1995〜1996年頃、カラオケ人口は約6,000万人だったが、2017年は約4,700万人にまで減少。カラオケボックスルーム数も全盛期は16万件を超えていたが、2017年には13万件ほどにまで減っている。

折れ線グラフが店舗数、棒グラフが参加人口。急激な落ち込みではないが、微減傾向だ(一般社団法人全国カラオケ事業者協会「カラオケ白書2018」より)

この最大の原因はバブル崩壊だが、それでもレジャーとしては健闘しているといえる。たとえばスキーと比べてみる。スキー人口は一時期2,000万人を超えていたといわれるが、今ではスキー・スノボ合わせても約700万人ほどまで減っている。釣りに関しても、2,000万人ほどの需要があったが、こちらも約700万人まで減少したそうだ。ともに全盛期の1/3ぐらいまで需要は減ったが、カラオケ人口は全盛期の約75〜80%ほどで抑えている。冒頭で「底堅い人気」と記したのは、“落ち込みがほかのレジャーほどではない”という印象を受けたからだ。

とはいえ、不安材料がないわけではない。真っ先に思いつくのが「人口の減少」。これはすべてのレジャーに当てはまることだが、将来的にレジャー需要が下がるのは容易に予想できる。そして、カラオケの“お供”ともいってもよいお酒需要が減少していることも不安材料だ。特に“若者のお酒離れ”といわれて久しく、なかでもビール人気が落ち込んでいる。さらに、国民的な大ヒット曲が生じにくくなっているという背景も、カラオケ需要の減少を後押しする可能性があるだろう。

こうした状況に対し、カラオケ産業に関わる企業は、新たな収益源を模索している。なかでも積極的な姿勢をみせているのがシダックスだ。シダックスといえば、カラオケの大手企業と思われがちだが、2018年5月にカラオケ事業からの撤退を発表している。カラオケ事業を行っている子会社、シダックス・コミュニティの株式をカラオケ館を運営するB&Vに譲渡し、今後は“食の仕事”を収益の柱にしていく。

カラオケ事業を切り離し本来の姿に回帰

そもそもシダックスは、給食や食堂などの受託運営が本業で、レストランやホテル、コンビニ、エステ、道の駅などを手がけている。もとはカラオケ事業もこうした食の仕事の派生で、外食産業のノウハウを生かした「レストランカラオケ」という分野を築いた。だが、カラオケのイメージが消費者に強く浸透したため、シダックス広報担当者によると「外食ではなくカラオケ専門企業」という印象を持つ人がほとんどだそうだ。実は筆者もカラオケの企業だと信じ切っていた。

そんなシダックスが力を入れているのが、中伊豆での総合リゾート業。首都圏からアクセスしやすく、伊豆の名瀑「萬城の滝」「浄蓮の滝」や「天城山」といった見所もある。そしてワサビ田に代表されるように、山の幸・海の幸が豊富で、何よりも名湯が集まっているところだ。そして天気がよければ、富士山を眺められるロケーションであることもポイントだろう。何よりもシダックス創業者・志太勤氏が生まれ育った地で、伊豆に対しての思い入れが深かったことが、「中伊豆に総合リゾート業を!」という原動力になったのかもしれない。

首都圏から約2時間ほどで修善寺駅へ。そこからシャトルバスで20〜30分で、シダックスのリゾートにアクセスできる。写真は伊豆箱根鉄道駿豆線・修善寺駅

天気がよければ富士山を眺められる。富士山に近いロケーションなので、首都圏から眺めるよりも迫力のある光景が楽しめる

伊豆箱根鉄道線沿いには史跡も豊富。左は国指定史跡「韮山反射炉」。右は重要文化財の「江川邸」。反射炉建設や幕末の海防政策で活躍した江川英龍の屋敷だ

この地をリゾートの一大拠点にしたいシダックスの考えに、地元観光協会も期待を寄せており、伊豆市観光協会 中伊豆支部 支部長 内田幸利氏は「今後、オリンピックの影響などで、インバウンドの需要が増すと思う。シダックスには中心となっていただき、中伊豆の観光活性化を引っ張ってもらいたい」と話す。

中伊豆を総合リゾート&一大ワイン生産地へ

中伊豆の観光資源について軽く触れたが、特筆したいのがシダックスのワインへの積極的な取り組みだ。同社は「中伊豆ワイナリーヒルズ」を2016年にリニューアルしたが、ここには「ヴィンヤード」(ブドウ農園)のほか、本格ワイナリー「中伊豆ワイナリー シャトーT.S」、温泉を備えたホテル「ホテルワイナリーヒル」といった施設が集まっている。そのほか、野球場やサッカー場、テニスコート、チャペル・式場、さらには乗馬コースなども用意され、総合リゾートとしての存在感を示している。

「中伊豆ワイナリーヒルズ」の中心的建物「中伊豆ワイナリー シャトーT.S」。周囲には約10ヘクタールのブドウ農園が広がり、9種・約30,000本のブドウが栽培されている

ブドウ農園の近くに乗馬コースがあり、乗馬体験が可能

シャトーにはワインコレクションセラーがあり、貴重なボトルが保管されている

シャトーにはレストラン「ナパ・バレー」が併設されている。ブドウ農園見学だけでなく、アクティビティや食事ができる総合リゾートとして、意識していることが伝わってくる

ここが、ほかのワイン産地と差別化できるところといってよい。一般的にワイン用ブドウというと、山梨県や長野県などがおもな産地。というのも、ワイン用ブドウの栽培地は、降雨量が少なく寒暖の差が大きいところが選ばれるので、標高数百メートルの山腹にヴィンヤードが造成されることが多い。そのため、総合リゾート施設とヴィンヤード・ワイナリーの併設は難しい。だが、中伊豆ワイナリーヒルズは急激に傾斜している山腹ではなく、高原の広々とした場所にある。そのため、グラウンドなどを併設可能で、日中にワイナリー見学や球技、乗馬を楽しみ、食事やワインが味わえ、そして温泉で疲れを癒やせる施設になっているのだ。

シャトーから歩いて10分ほどのところにある「ホテルワイナリーヒル」。サッカー場や野球場、テニスコートやプールもあり、スポーツの合宿所としても利用できる

宿泊客にはワインが1本サービスとなる。サービスウォーターはよくあるが、サービスワインは珍しい

露天風呂を備えた大浴場。日帰り温泉としても利用されている

さて、シダックスはあるスローガンを掲げている。それは「500の仕事、シダックス。」というもの。これは文字通り、500の事業を展開することを目標にしたものだ。前述した総合リゾートのほかに、多岐にわたる事業を行っている。外食産業もレストランのほか社員食堂、寮、研究所などの食事提供、医療・高齢者施設向け給食、カフェ、ケータリングなど多岐にわたる。そのほかにも食材や冷凍総菜の販売なども手がけている。

これら以外にも食器用洗剤、洗濯用洗剤、アルコール除菌ジェルといった衛生製品の販売、役員車の運行管理、路線バス、貸し切りバスといった交通業務、秘書、受付、案内業務といった企業サポートも行っている。

すべての事業の紹介はできないが、“500の仕事”というかけ声は、あながちウソとはいえない。シダックスのカラオケ店舗名は、しばらくは残るということだが、いずれは消えることが考えられる。ただ、撤退を発表したカラオケは、シダックスにとって事業の一部でしかなく、今後は“食”を中心にしたビジネスで存在感を示すだろう。