■消費者金融を元手に、一発逆転の勝負

2017年、話題を集めた仮想通貨だが、現在その話題性は一気に失われたと言わざるをえないだろう。

田中さんのアカウント「@PON_PON_SAN」。

「もう本当にカネがない。仮想通貨引退を毎日考えています」

ため息交じりにそう語るのは、IT関連企業に勤める田中涼(仮名)さんだ。プレジデント誌2018年5月14日号でもコラム「保有高1億円の乱高下! 仮想通貨で泣いた人、笑った人」に大損した仮想通貨保持者として登場してもらった。その後、どうしているのか。

そもそも、彼が仮想通貨を始めたのは17年夏、ユーチューブの競馬予想チャンネルを見て仮想通貨の存在を知ったのがきっかけだった。

「ビットコインのチャートを見たら、すごい勢いで値上がりしているのがわかり、自分でも買える仮想通貨のネムとリップルを3万円分購入しました」

■「17年末には1度は借金を返済できたんです」

それから田中さんの激動の仮想通貨ライフが始まった。ツイッターに専用アカウントを持ち、投資家同士で交流し情報交換した。田中さんは男だが、ツイッターの自己紹介欄では当初、冗談で「女子大生」と名乗っていた。そのキャッチーさもあり、フォロワー数は次第に増加。田中さんは本格的に仮想通貨にのめり込んでいった。

「勢いにのって消費者金融から50万円を借り、高騰していたビットコインキャッシュに全資産を投じました」

もともとギャンブラー気質の田中さん。すべては人生の一発逆転を狙った決断だった。しかし――。

「17年末には1度は借金を返済できたんです。でも、ほかのコインが急上昇していたこともあり、ここで引くわけにはいかなかった。再度、消費者金融に“増資”してもらい、当時高騰中だったXPコインなどを購入しました」

■消費者金融で借りた合計額は150万円に

だが、それから1週間後にコインは大暴落。さらにコインチェックの流出騒動がこれに拍車をかけた。

気づけば、田中さんが投資のために消費者金融で借りた合計額は150万円にまで膨らんでいた。軽い気持ちで始めた投機目的の仮想通貨ライフは後に引けない状況になっていた。

「実は、消費者金融で借金することに抵抗がなくなってしまいまして……。競馬などのギャンブルや、パソコン購入のためにも借金してしまいました」

むろん、一時的に保有しているコインが値上がりしたときもあったそうだ。だが、田中さんは利確をしなかった。

「このまま持っていたらまた値上がりしそうな気がして、借金はもう少しコインが値上がりしてから返せばいいやという気持ちで続けてしまいました」

■手元に残っているのは3万円だけ

だが、それが裏目に出て、借金額はさらに増える事態になった。そこで保有コインをビットコインにほぼ集約し、なんとか値上がりの時期を待ちながら毎月3万5000円ずつ借金を返す。そんな生活を続けていると、18年9月、消費者金融からある連絡が届いた。

「毎月返済はしていたので借り入れ枠が増え、増えた分の20万円の一部をビットコインFXに投資しました」

ビットコインFXとは、未来の仮想通貨の価格変動を予測して取引するという仕組み。最大の特徴は、少ない証拠金で多くの利益を狙える「レバレッジ」で保有額の最大200倍まで投資ができること。一発逆転を狙うにはアリだが、当然リスクも大きい。案の定事態は最悪の方向に進む。

「増資分の金はFXであっという間に消えました。手元に残っているのは3万円。計167万円の損失です」

■ファンからは「逆神」と慕われていたが……

田中さんが買ったコインはフォロワーの間で「必ず値下がりする」と言われ、ファンからは「逆神」と慕われていた。だが、仮想通貨市場自体が冷え込む中でそんな和気あいあいとした雰囲気も次第になくなっていったという。「次第に『疫病神は仮想通貨をやめろ』『銘柄について喋ったら刺すぞ』などの殺気立ったコメントが届くようになりました」。仮想通貨から引退をする人も増えてきた。

「仮想通貨を一言で表すなら、幻想です。すべては、夢だったんです。でも借金は現実でした」

仮想通貨ブームは、田中さんに代表される誰かの犠牲とともに、本格的な終息を迎えそうだ。

(編集者・ライター 鈴木 俊之 撮影=プレジデント編集部)