職場や生活の停電リスクは「ポータブルバッテリー」が救う! シーンズ杉田氏が目指す「人の役に立つ」製品

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電気は、水道やガスと同様に、今や最大のライフラインだ。
日常生活やビジネスで欠かせないスマートフォンやパソコンも、バッテリーが無ければ、ただの文鎮と変わらない。

もし急なバッテリー切れや停電が発生しても、個人のスマートフォンやノートPCであればモバイルバッテリーなどを利用すれば、何とか対応することはできる。

しかし、仕事場やオフィスではどうだろうか?
仕事場のパソコンや作業機器など、市販のモバイルバッテリーが利用できる機器は限られている。

そんな企業の危機をポータブルバッテリーで救っているのが杉田真浩氏(44歳)だ。

杉田真浩氏は、株式会社シーンズ代表取締役。
2003年3月、コンタクトレンズと化粧品を販売する株式会社ネットランドジャパンを起業。
2018年4月1日より株式会社シーンズに社名を変更。
コンセント付き防災用バッテリー「Power Go(パワーゴー)」シリーズの販売を展開。
毎日の生活がちょっとハッピーになるようなプロダクトやサービスを日夜作り出している。


株式会社シーンズ代表取締役 杉田真浩氏



■東日本大震災が教えてくれた人の役に立つ商品の大切さ
杉田真浩氏は、元々は化粧品を販売していた。
それがなぜバッテリーを扱いはじめたのか?

きっかけは、同社エネルギー事業本部開発本部長 川口辰彦氏(65歳)との出会いから始まったという。


株式会社シーンズエネルギー事業本部開発本部長 川口辰彦氏


川口辰彦氏は、パソコン関連の周辺機器を30数年にわたり開発してきた。

川口辰彦氏
「15年くらい前から、これから優位なビジネスは何だと考えました。
LEDとバッテリーはパソコンなみに需要がある。
そう考えて、製品を開発していくことになりました。」

その思惑は当たり、LED事業は好評だった。
しかし大手企業がLED分野に参入してきたことで、価格競争が激化する。

大企業の参入で価格と営業の両面において、LED分野でのビジネス成長は困難と判断したという。そんな状況の中、東日本大震災が起こったのだ。

川口辰彦氏
「3.11(東日本大震災)のとき、LED投光器とバッテリーを現地に持って行きました。
夜にLED投光器をつけると、現地の方々が酒盛りを始めたのです。

人間は明かりがあるところに集まってくる。
その時、人の役に立つ商品を作ることは良いことだと思いました。
それで、本格的にポータブルバッテリーを手がけることにしたんです。」

実際にポータブルバッテリーの初号機が完成したのは7年前で、翌年から販売を開始した。
シーンズが扱うバッテリーは主に中型のポータブルバッテリーと言われる商品だ。


初号機を改良したポータブル大容量電源「PG-1500」



UPS機能も付いた薄型ポータブル蓄電池「PG-462」


シーンズのポータブルバッテリー「Power Go」は、本体にACコンセントが搭載されている。
このACコンセントに、仕事場の
・パソコン
・電気機器
を繋ぐことで、停電など災害時でも電源を確保することができる。
また、人の手で持ち運べるサイズのため、仕事場内で必要な場所に移動して利用することもできるので状況にあわせた使い方ができる。

ACコンセント付きの大型モバイルバッテリー
と言っても良いかもしれない。


個人向けのモバイルバッテリーや、病院や企業などの施設に設置する蓄電池の市場には競合他社が多かったが、幸いにも中型のポータブルバッテリー市場には競合がまだ少なかった。

当時、企業向けのバッテリーといえば、
・発電機
・鉛蓄電池+インバーター
とった大規模な設置型バッテリーの時代だ。

ACコンセント付きポータブルバッテリーは非常に珍しく、
「バッテリーからAC電源をとれる」
といった認識も、企業や市場にはなかった。

シーンズのポータブルバッテリー「Power Go」は、
・ACコンセントから電力がとれる
・可搬型でメンテナンスフリー
こうした使い勝手の良さが企業から高く評価されたという。

とはいえ、当時は、こうした製品が少ないことから、販売においては試行錯誤を繰り返していたそう。

「Power Go」の転機になったのが、3年前の「震災対策技術展」だ。
「震災対策技術展」は、国内の地震・自然災害対策関係者が一堂に会する日本唯一の技術見本市である。

杉田真浩氏
「震災対策技術展に出てみたところ、
エンドユーザーさんもいらっしゃいますし、
防災商品を扱っている商社さんも(Power Goを)売りたいと、
お声をかけいただきました。
そこから引き合いや問い合わせが多くなり、出荷も増えていきました。

2016年熊本地震の震災があり、その後も地震があるたびに、(Power Goの)引き合いがありました。さらにその後、台風の電源対策ということでも引き合いがあります。

危機管理アドバイザー国崎信江さんも『Power Go』を評価くださっていて、ご自宅での撮影や様々な番組で紹介してくださいました。」

現代社会の災害時で生活を脅かすのは、
・水
・食料
これらに加えて
・電気(バッテリー)
である。

最近では、2018年9月6日北海道胆振東部地震で、我々は嫌というほど思い知らされた。
スマートフォンを充電したくても、停電する場所がない。充電器が設置された札幌市庁舎でも、長蛇の行列となり、一部の人しか充電ができないこのため、災害状況の情報を知りたくても、多くの人が十分な情報を得られず、不安な生活を強いられることも多くあった。
そうした経験から、電気(バッテリー)を確保することの重要さが再認識されたのだ。

さらに
・もっと小型で移動できるバッテリー
・もっと大きな電力が使えるバッテリー
など、エンドユーザーや商社からの要望があった。
こうした現場での声を開発陣にフィードバックしたことで、新機種を開発。
現在のPower Goのラインアップとなっているという。

一方で、企業や一般でのバッテリー選びの認識が、まだ十分ではないという。

杉田真浩氏
「小型機の人気が高いのですが、本当は、どの機種がいいか? 
これを判断するには、電気の話を避けては通れません。

いま使っている電子機器が、どれくらいの電気を消費するのか?
これを使う人がわかってないことが多いのです。」

そこで一番わかりやすい普段使っているスマートフォンやノートPCで、説明することにしたそう。
スマートフォンの場合なら、
・PG-223モデルで、22台をフル充電できる
・PG-462モデルで、46台をフル充電できる
こう説明することで、一般の方にも理解してもらえるようになったという。


UPS機能付き軽量型ポータブル蓄電池「PG-223」(画像提供:シーンズ)


杉田真浩氏
「携帯電話の基地局が落ちて、繋がらなかった場合でも、
ONU(光回線終端装置)に電源を付け、15〜20Wくらいあれば、ノートPCのWi-Fiを利用してインターネットに繋げることができます。

今の課題は、
災害時や緊急時でも電気製品が使える、こういうバッテリーがあるんだというのを(多くの方に)お知らせすることです。」


■日本品質にこだわった製品作り
川口辰彦氏
「何十年も昔の話ですが、ペットボトルの水が売り出されたとき、
水と安全はタダという考えから、ペットボトルの水が売れるわけはないと言われました。
いまでは、それが間違いであることは、誰でもが知っています。

同じように電気が止まる、使えなくなる、という概念はこれまでなかったのです。
電気はいつでも安定供給されている、生活のリソースだと思い込んでいました。

それが今年みたいに大きな災害で、電気がとまり、停電による都市のブラックアウトがあるとは誰も考えられなかったわけですが、それがおきてしまった。

これが、ポータブルバッテリーが社会的に認知されたエポックになりました。
ようやく我々が作ったポータブルバッテリーが社会に必要であることが認知されたのです。」

ちなみに災害時、ポータブルバッテリー本体の充電が切れてしまった場合は、どうなるのか?
実は、専用ソーラーパネルを使って約10時間でフル充電することができるのだそうだ。

杉田真浩氏
「ソーラーパネルは各機種用に専用のものを作っています。
たまたま川口はソーラーも、LEDも、バッテリーも知識がありました。
ポータブルバッテリーの充電が切れたら、ソーラーパネルで再充電すればよいわけです。」

この「ソーラーパネルで再充電する」というのは、
言うのは簡単だが、実用レベルで実現するには、試行錯誤があったそう。
持ち運べるポータブルバッテリーに合わせて、ソーラーパネルも小型で軽量でなくてはならないからだ。さらに充電効率を考慮した結果、折り畳み式のソーラーパネルを各機種用に用意するに至った。


開発したソーラーパネルについて語る川口辰彦氏


川口辰彦氏
「実用的に使えるものをキープするのがコンセプトなのです。
カタログスペックで使えますよ、と言ったものが、実際は使えなかったりしないように。

ポータブルバッテリーはまだ黎明期です。ようやくメディアでの露出も増えてきました。
しかし、まだ正当に評価されていない面も多くあります。
たとえば、Amazonで売られているバッテリーの中には『何十万W』という表記の商品がありますが、その数値は3.7Vで計算されていたりします。」

表示ワット数が大きくても、3.7Vでの計算であれば、実際の現場では、あまり役に立つとは言えないそう。

また最近は、スマートフォンやモバイルバッテリーの発火などが問題になっている。
それについては、川口辰彦氏は言う。
「中国の会社を使って安く作るだけじゃ駄目です。
日本人のメンタリティにあるクオリティで作っています。」

日本で流通しているバッテリーの多くは中国で生産されている。
これは大手メーカーの製品でも同じだ。
では、
「中国のバッテリー=危ない」
こう考えるのは、正しい判断ではない。
品質管理が重要なのだ。
日本のメーカーが日本品質にこだわり、製品の品質を管理し、維持することが安全に繋がるという。


■意外なシーンでポータブルバッテリーがリスクを回避しはじめた!

株式会社シーンズ代表取締役 杉田真浩氏


現在、ポータブルバッテリーは、意外な場所でも活躍しているという。

杉田真浩氏
「我々の想像もしなかったニーズもあります。
元々テレビ局との関係はなかったんですが、音も静かであることから、使いたいという声があります。
また夜中の工事では、ポータブルバッテリーなら発電機よりも静かに作業ができます。
さらにトンネル工事の場合、
今までは外で発電機をまわしてケーブルを引き回していたわけですが、
ポータブルバッテリーなら、作業するすぐそばに持ち込んで使えますので、ケーブルを長く引き回す必要がありません。」

実は、北海道の牧場でもポータブルバッテリーは活躍しているそう。
杉田真浩氏
「サラブレットは超音波診断装置で馬体のさまざまな検査をします。
ここでもポータブルバッテリーが役に立っています。」


大出力大容量ポータブル蓄電池「PG-3000」(画像提供:シーンズ)


このほかにも、EV車への対応が検討されているそう。

杉田真浩氏
「我々の(ポータブルバッテリーの)マーケットとリンクしないと思っていたのが電気自動車(EV車)。
EV車の開発の方が来て、『これいいな』と。
万が一、EVがすべて止まったときに、これ(ポータブルバッテリー)で8〜10km動いて、最寄りのガソリンスタンドや、ディーラーまでたどり着ければ、危機を回避できると。
ぜひ、一緒にやろうという話もあります。」

ポータブルバッテリーが、万が一のリスクを回避できるのはEV車だけでない。
医療の現場にも、可能性はある。

杉田真浩氏
「調剤薬局さんの話ですが、高額な薬剤を補完する冷蔵庫があります。
人がいるときに停電した場合は蓄電池を使えばよい。
ですが
人がいない夜中に停電して駆けつけられない場合にはどうするのか?

UPS電源付きのバッテリーがあれば、9時間は持ちますので、緊急時の判断や対処するための時間を確保することができます。」

UPS(Uninterruptible Power Supply)とは、
交流入力・交流出力に対応した無停電電源装置。

市販のUPS電源は、パソコンをシャットダウンするための非常用電源だ。
そのため5分くらいしかもたないが、シーンズのUPS機能付きポータブルバッテリーは、長時間動かすことができるという。

シーンズでは今後、すべてのポータブルバッテリーにUPS機能を付けていく方針だ。

電気の備蓄 ポータブル蓄電池 PowerGo(パワーゴー) | シーンズ


執筆:ITライフハック 関口哲司
撮影:2106bpm