12月31日まで東京都内を走る「どん兵衛タクシー」。写真右が日清食品マーケティング部ブランドマネージャーの三井利宏氏(写真:筆者撮影)

12月5日から12月31日まで、東京都内を走る50台の「どん兵衛タクシー」。車体の全体や内装を日清食品による交通広告として使用する。

仕掛けたのは、ディー・エヌ・エー(DeNA)だ。

配車可能エリアは、渋谷区、新宿区、港区、中央区、千代田区付近で、行き先は東京23区全域。乗客の料金は、なんと無料である。


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こうした無料のタクシーサービスは世界的に見ても極めて珍しい。また、期間限定とはいえ、国や地方自治体から補助を受けず、民間企業同士で連携する事業という点にもメディアの注目が集まっている。

これまでの交通広告では、電車の中吊りやバスの車内を対象とする場合が多く、電車1両やバス1台を広告でラッピングするケースを見かける機会も増えた。だが、そうした場合、広告主からの広告収入で乗車料金を無償化してはいない。あくまでも、空いたスペースを広告として販売するもので、交通事業者にとって広告収入は乗車料金に上乗せされるかたちとなる。

ところが、今回の事例では広告費用で乗車料金を賄おうというのだ。

そうなると、広告費用はかなり高いのではないかと考えるのは普通だろう。

だが、日清食品マーケティング部関係者は「一般的な交通広告と比べてけっして高い金額ではない」という。

いったい0円タクシーは、どのようなビジネスモデルなのか?

「タクベル」成功体験が生んだ「MOV」


MOVに参画するタクシー事業者関係者。中央はディー・エヌ・エー執行役員の中島宏氏(写真:筆者撮影)

今回の0円タクシーが可能となった背景には、マッチングプラットフォーム「MOV(モブ)」がある。

タクシー事業者にとっては、契約スポンサーとMOVの双方から広告宣伝費を得られる。つまり、仮に乗車料金分が契約スポンサー収入とほぼ同じならば、MOVからの収入がタクシー事業者にとっての利益となる。さらに、新しい顧客層へのタクシー利用を促進することで顧客数が伸びる可能性がある。

MOVの開発のため、ディー・エヌ・エーは2018年4月から神奈川県で配車サービス「タクベル」の実証試験を行い、導入前と比べて、タクシー乗車数が大幅に伸びたことを証明できたとしている。

「タクベル」の特徴は、他社の配車アプリが「無線機連携方式」として有人オペレーターシステムにつながるのに対して、「アプリ連携方式」としてAIを活用した自動配車システムと有人オペレーターシステムを並行して稼働されている点だ。


「どん兵衛タクシー」の運転席には「MOV」を使うスマートフォンが(写真:筆者撮影)

ディー・エヌ・エー執行役員オートモーティブ事業本部長の中島宏氏は、日本は都市部での渋滞や地方部での鉄道バスの廃止など、「交通不全」が社会課題化しており、「この国の旧態依然とした交通をインターネットとAI(人工知能)で仕組みそのものからアップデートしていく」と抱負を述べた。

さらには、「タクシー配車アプリ戦争が、2019〜2020年で起こる。我々は不退転の覚悟で臨む。十分勝てる」と意気込みを語った。

ライドシェアリングは日本には不向き?

配車サービスといえば、海外では2010年代中頃から、一般の人が所有するクルマを使った、いわゆる白タク行為によるライドシェアリングが爆発的に普及し始めた。

火付け役となったのは、アメリカのUber(ウーバー)とLyft (リフト)の2社だ。2010年代初頭のサービス開始期は、乗車に対して料金ではなく寄付金を支払うという形をとってきたが、利用者数が急増したことでアメリカ各地の州、郡、市などそれぞれの地方自治体が個別の判断で有料営業の許可をはじめ、現時点では一部地域を除いてアメリカ全土で利用できるようになった。

こうした動きは欧州や東南アジア、インド、そして中国へと波及。中国では滴滴(ディディ)が最大シェアを誇る。

ただし、世界各地でタクシー・ハイヤー事業者とライドシェアリング事業者との間で、各地の政府や地方自治体を交えた「ライドシェアリング合法化に対する議論」は続いており、ライドシェアリング導入を認めていない国や地域も多い。日本もそうした国の1つだ。

日本では、福祉活動、または中山間地域など公共交通の維持が困難な地域に限り、2006年の道路運送法の一部改正で生まれた自家用有償旅客運送制度という仕組みがある。これは、商用車向けの緑ナンバー車ではなく、乗用車向けの白ナンバー車を利用し、運転者も2種免許の所持が必要とされない。

ウーバーなどが、この自家用有償旅客運送制度を活用したサービスを地方部で実験的に行ったケースはあるが、継続的な事業化に結びつける計画は立っていない状況だ。

結局、日本では欧米や中国と比べて、タクシーサービスの質が高い。タクシー利用者の一部からは、「禁煙や分煙が当たり前の時代に、煙草のにおいが衣服に染みついた運転手と同じ空間にいるのが嫌だ」という声があるなど、タクシーに対する意見はさまざまある。だが、予約の時間を守らない、過度の速度超過、さらには車内での強盗といった悪質なタクシーがいまだに存在する国や地域では、配車アプリシステムでしっかり管理されているライドシェアリングがタクシーと比べて、安心で利便性が高くなる。

世界的に見て、タクシーサービスの質が高い日本。その中でタクシー配車サービスをめぐる競争がにわかに激しさを増している。