急成長を遂げていた太陽光発電関連市場だが、ここにきて不調が目立っている。写真はイメージです(写真:あずさ / PIXTA)

次世代のエネルギーとして急速に普及が進む太陽光発電太陽光発電システムの導入量は2017年には2015年比で2倍と急成長した。一方で、日系企業の中には材料価格の変動などで思わぬ損失を負う事態が相次いでいる。

京セラは511億円の損失計上

京セラは11月28日、太陽電池パネルに使うポリシリコン原材料の調達をめぐり、511億円相当の損失を計上すると発表した。これを受け、同社は2019年3月期の通期業績見通しを下方修正。従来は1540億円と見込んでいた営業利益は990億円(IFRS対比で前期比9.1%増)に減速するとした。

この損失をもたらす原因となったのが、2005〜2008年にかけてアメリカのシリコンメーカー、ヘムロック社と結んだポリシリコン原材料の長期購入契約だ。当時はドイツなどで再生可能エネルギーが拡大しており、需給が逼迫していたため、必要量を確保しようと高値での長期契約を結ばざるをえない状況だった。

ところがその後、市況は思わぬ展開を見せる。太陽電池用のシリコンは半導体用と比べて純度などの品質要求が厳しくないため、中国などの参入が相次いだのだ。

その結果、起きたのが急激な価格破壊だ。ポリシリコン原材料の価格は2018年までの10年間で8分の1ほどに下がった。かつては京セラシャープが上位を占めていた太陽電池パネルの生産世界シェアも、中国勢が上位を占めるようになった。

価格低下を受け、京セラはヘムロック社に契約見直しを要請。契約が不公正だとして訴訟まで起こしたが、11月28日に和解したという。京セラは2017年3月期と2018年3月期にも引当損失をあわせて308億円計上しており、一連の長期購入契約をめぐる損失は合計で約820億円となっている。

同様の事態は、同じくポリシリコン原材料の長期購入契約を結んでいたシャープでも起きている。

シャープは2015年、契約上の購入価格と時価との間に差額が大きくなったとして、546億円を買付評価引当金に計上。事実上の損失として処理した。契約自体は解消せず、このときの契約に従って2020年末まで材料を購入し続ける方針だという(2018年9月末時点での引当金は156億円)。

ただ、京セラ太陽光発電事業の苦戦は原材料高だけが原因ではない。太陽光を含む生活・環境部門は今期、原材料費の損失計上がなくても170億円の赤字予想だった。

そもそも中国勢との激しい価格競争にさらされているうえに、2019年には再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が開始から10年が経ち、終了するものが相次ぐ。

FIT関連の事業はすでに需要が想定以上に落ち込んでおり、黒字化への足かせとなっている。同社は拠点集約などでコスト低減を進めており、谷本秀夫社長は10月30日の決算説明会で「10月に拠点集約がほぼ完了した。来期(2020年3月期)の黒字化は難しいかもしれないが、再来期(2021年3月期)には黒字化できるとみている」と意気込んでいた。

京セラの損失計上を、市場はおおむね好意的に反応した。発表直後の11月29日に京セラ株は前日に比べ5%近く上昇。これは原材料高によって苦しんできた太陽光事業がこれで好転するとの期待からだろう。

魅力的でも危うい太陽光市場

太陽光で痛手を負ったのはこの2社だけではない。老舗の化学メーカーであるトクヤマは2016年、2000億円以上を投じてマレーシアに完成させた太陽電池用多結晶シリコンの生産拠点を減損処理し、わずか100億円で売却せざるをえなくなった。理由は同じくポリシリコンの価格下落。生産コストよりも販売価格のほうが低い「逆ザヤ」状態に陥ってしまったからだ。

最近では、太陽電池用シリコンウェハーをスライスするダイヤモンドワイヤを販売する中村超硬が2018年4〜9月期決算で、在庫評価損や減損特損を計上したことで、83億円の最終赤字を計上し、債務超過に転落した。

主戦場の中国で、2018年初からウェハーメーカーの生産調整が続いたうえ、政府が補助金削減による引き締め策に打って出たことで、販売価格が一気に7割減となった。「ここまでの価格下落は想定以上だ」(中村超硬)。


実際、急成長を続けてきた太陽光発電市場全体も、今年、突然の停滞に見舞われている。自治体や企業向けに太陽光発電導入のコンサルティングをしている資源総合システムによると、2018年の太陽光発電市場は前年比マイナス15%に落ち込んだ可能性があるという。

調整局面が続く市場環境の下、巨額損失の教訓をどう生かすのか。各社は事業戦略の練り直しを迫られている。