「このまま年を取っていくだけの人生は嫌だった」普通の主婦が「萌え」を追い求め、マンガ家になるまで

平成の終わりのマンガ制作風景を動画付きでリポートする「デジタル時代のマンガ家の机」シリーズ。
今回は、多くの女性に支持される電子コミックレーベル「comic Berry's(コミックベリーズ)」を舞台に、トキメキが詰まった恋愛マンガで昨年デビューされた、新進マンガ家・シラカワイチさんにインタビューしました。

撮影/和久井幸一 取材・文/鈴木麻子 デザイン/桜庭侑紀

就職してからは、マンガ家になりたいという夢を諦めていました

どんな経緯でマンガ家デビューに至ったんですか?
昔から趣味でマンガを描いてはいたんですけど、今みたいにデジタル作画が普及していなかったので大変な作業が多かったんですよ。トーンの使い方も全然分からないし。絵に関われる仕事をしていたので、「まぁ、忙しいしマンガは諦めよう」と。転機になったのは、出産を機に退職し、育児期間に入ったことです。

子どもが小さなうちって育児が大変で、自分の時間がないイメージです。

はい、そうです(笑)。ただ家事や育児に追われる毎日だったので、逆に「気持ちを切り替えられるようなことがしたい」と。子どもが寝た後に3時間だけ絵でも描こうかな? と思って、またマンガを書き始めたんです。でも、そんなに本格的な活動はできなかったですね。子どもが学校に入ってから少しは落ち着いたので、同人誌を作ってコミケで発表したり、新人賞に投稿したりということを始めました。pixiv(ピクシブ。イラストコミュニケーションサービス)にも定期的にアップして。
マンガ家を目指す人がされているような活動を始めたんですね。直接のデビューは、どのルートでしたか?
個人で出展していたコミケで、出版社の方に「うちの新人賞に応募してみないか」と声をかけてもらったのがきっかけです。
そこで佳作をいただいたんですけど…。「じゃあ次のネームが通ったら、読み切りを本誌に掲載しましょう」と言ってもらった、そのネームが全然通らなくて。迷走しちゃったんです。
絵を描くのは好きだったけど、マンガの描き方を専門的に勉強してきたわけではないので、「そもそも、ネームとは?」と行き詰まってしまい…。物語の作り方がまったく分からなくて、モヤモヤしていた期間が2年くらい続きました。

▲シラカワさんの本棚からも、ネームや画力向上のための努力の跡が伺える。
どこで一念発起したんですか?
くすぶっていたその頃、ふと「このまま時間が過ぎていくだけなのかな」って思ったんです。自分以外の人はみんな成果を上げているように見えるけど、私は前に進んでない。「あ、これじゃいかん」と。
当時も家でデザインやイラストのお仕事をやっていたんですけど、不定期のものだったので。定期的に締め切りがある仕事がしたかったし、「マンガ家になりたい」という夢を中途半端のままにしたくなかった。それで「よし、もう一度プロのマンガ家を目指そう!」と決意。ネームの勉強をしに行きました。
勉強できる場所があるんですか?
期間限定のマンガスクールみたいな教室があるんです。1日9時間授業で隔週土曜日、合計3日間、受講を終えるまでに32ページのネームを1本書き上げました。
そのとき書き下ろしたネームと過去の受賞作を作り直したものを、コミティアの出張マンガ編集部(展示即売会の会場でプロの編集者のコメントがもらえるイベント)に持ち込みました。そこで「comic Berry’s」さんに声を掛けていただき、デビューに至ります。
憧れていた、締め切りのある毎日に。
はい。基本的に引き込もりなので、月イチの担当さんとの打ち合わせが癒しタイムです(笑)。

“スーツ”が大好き! オフィスラブを極めたい

シラカワさんは「速水社長、そのキスの理由(わけ)を教えて」(2018年9月に最終巻が発売)でマンガ家デビューされたわけですが、もともとラブストーリーを志望されていたんですか?
そうですね。ラブストーリーは、読むのもすごく好きです。特に好きなのが、オフィスラブものなんです。
シラカワさんご自身は、一般企業にお勤めした経験が?
うーん、以前、勤めていた会社は、小規模なところだったので、大企業のような人がたくさんいる環境に憧れがあるのかもしれません。オフィスラブマンガを初めて読んだ時に、「こんな世界があるんだ!」ってすごくときめいたのを覚えています。
▲新たな「スーツ男子」キャラを模索中のシラカワさん。作画プロセスをムービーで紹介します。

どんなところにときめきを感じるんですか?
大人数がひしめく組織に興味がありますし、男性のスーツ姿がたまらないです。もともと、スーツが大好きでスーツ男子フェチなんですよ。編集部にお邪魔することがあるんですけど、スーツの男性が多いので、打ち合わせ中もずっとドキドキしてしまいます(笑)。

“リサーチ”と称して、オフィス街をウロウロすることもあります(笑)。東京駅の八重洲側とか歩いていると、キュンとしますね。京橋辺りでお昼休みにベンチでゴロンと寝転んでいるビジネスマンのスーツのシワとか…目で追っちゃいます(笑)。
楽しみながら描けるのは、いいですね。
スーツを描くのは本当に大好きですけど、パーツでいえば“手”も好きです。ゴツゴツしていて節のあるような手が好きなので、作品の中でもつい描いてしまいます。
▲制作中の新作にも、手が印象的なシーンが。
次回作も準備中とのことですが、やはりオフィスラブものですか?
はい。同じく社長ものです。社内外の重圧を抱えながら仕事に励む“社長”という立場は本当にカッコイイし、大好きなんです。

「ここ、キュンとする!」見せ場のシーンを盛り上げてメリハリを

「速水社長〜」は原作付きでしたよね。原作があったほうが描きやすいものですか?
まだ2作目なので分からないのですが、「速水社長〜」の時は、楽しかったです。原作者の紅カオル(くれない かおる)先生が毎回、作品を読んでコメントをくださるんですけど、それが励みになりました。いつもうれしいお言葉を掛けてくださるので、「よし、先生のためにも頑張ろう!」って。心の支えになっていました。
原作では全体をひとつのストーリーとして読ませていても、連載では1話ずつ進めていくことになりますよね。構成に工夫が必要なのかな、と思いますが?
1話ごとの山場となるシーンや、原作をどう展開していくかについては毎回担当編集さんと打ち合わせをします。本当はここを“盛りポイント”にしたいけど、次の話との辻褄が合わなくなるから「今回はこうしよう」とか。紅先生はすごく優しい方で、そういう変更にも柔軟に対応していただきました。
結構、変えていたんですか?
軸はもちろん変えませんけど、エピソードを入れ替えたり、シチュエーションを変更したりしています。
▲「速水社長、そのキスの理由を教えて」3巻より
ちなみに“盛りポイント”というのは?
例えば、顎クイ、壁ドン、バックハグみたいな「キュンとする」ポイントです。原作を読み込んで、どのページに何を入れていこうかな? と考えながら、プロット兼ページ割り付けのような、ミニネームみたいなものを、ざっと手描きしてみます。

それを見ながら担当さんと相談して、「ここはもっと盛り上げましょう!」と、“盛りポイント”を、付箋で入れていきます。ひと目で「キュン!」とする場所が分かるように作っています(笑)。
▲“盛りポイント”が描き込まれたミニネーム。

BGMは戦闘モノ! 自分を追い込み仕事をはかどらせる

1日のスケジュールって、だいたいどんな感じですか?
朝起きて10時頃から描き始めて、そのまま18時くらいまでやってます。忙しい時期は子どもが寝た22時以降にも作業することもあります。
フルタイムの会社員と同じですね。疲れないですか?
マンガを描くのが楽しくて仕方ないので、毎日あっという間に時間が過ぎています。
どんな作業が一番楽しいですか?
机に向かっていること自体が、楽しいです。頭の中の世界が、日常と全然違うものになるので、刺激的です。くすぶっていた時期は机に向かうのもつらかったので、今は幸せだなと思います。
「この作業は大変で、イヤだな」って思うものは?
どの段階も大変ですけど、イヤだとは思いません。たまに「大変だな」という気持ちが大きくなったら、時間を計ってモチベーションを上げています。「1時間に何ページ分進めるか、チャレンジ!」とか。

アニメを観ながら仕事をすると楽しくできることも。最近はよく、テレビアニメ「SSSS.GRIDMAN(グリッドマン)」(TOKYOMXほか)を流してます。原作が円谷プロ(の特撮ドラマ「電光超人グリッドマン」1993年、TBS系)で、TRIGGERがアニメーション制作を担当している戦闘モノなんですけど、ストーリーも音楽もキャラも面白いです。

▲仕事中は、工程に合わせてセレクトした音楽をいつもかけているそう。
「SSSS.GRIDMAN」を流しながら、ラブストーリーを描いている?
そうですね(笑)。流しているアニメは戦闘モノが多いです。登場人物と一緒に自分も戦っているみたいな感覚というか。「この線、うまく引けないな」とか、自分も技術との戦いをしているので。

基本的にペン入れとトーンは、アニメを見ながら。ネームの時は、アプリで雨音とジャズなど、好きな音を組み合わせて聴いています。下絵の時は好きな曲を掛けつつ、自分も歌いながらテンションを上げています。

足りなくなった“萌え”は、恋愛マンガで補充

恋愛マンガを描く上で、”ときめき”は欠かせない要素だと思います。先ほど「戦闘モノのアニメが好き」とおっしゃっていましたが、ラブストーリーの映画を見たりはしないんですか?
うーん、映画は好きですけど、そこまで詳しくはないと思います。基本的には2次元というか、ほぼマンガでトキメキを補充しています。気になるタイトルを見つけたら即購入。Amazonの「おすすめ」に出てきたマンガとか、買ったマンガの中に入っているフライヤーとか。あらすじを読んで「好みかも」と少しでも感じたらポチるようにしてます。
どんなストーリーが好みなんですか?
男の人が頑張っているのにヘタレ、みたいな(笑)。そういうあらすじを見ると、買っちゃいますね。「枯れたな〜」「萌えを補給したい…」と思った時は、まずAmazonのレコメンド欄を見ています。
▲「ペルソナ」シリーズ(アトラスのRPG/アニメ)の好きなキャラクターを目に付く場所に飾って、モチベーションアップ。
やっぱり枯れちゃう時もあるんですか?
育児などで忙しいと、余裕がなくなります。それに、好きなマンガを繰り返し読み過ぎた時も行き詰まってくるんです。同じマンガを読んでいるうちに、だんだん構図とかコマ割りとかが気になってきて、純粋にストーリーを追えなくなるんです。勉強モードになっちゃうと、もう“萌え”が補給できなくなってしまうので…。
最近“萌え”が不足しているなと思った時は、担当さんに「”萌え”のある作品、教えてください」とマンガや小説をお勧めしてもらいます。そうやって2次元の萌えからいただいたエネルギーを、作品に活かしていけたらと思っています。
▲少女マンガや恋愛小説の新作&名作を常にウォッチして、作品に取り入れているそう。
「速水社長〜」のヒーロー、速水社長のようにSッ気のある男性が好みのタイプですか?
そうですね…細かく言うと、Sッ気がありつつも、何だかんだ女の子に振り回されちゃうみたいな(笑)。カッコイイつもりでいるのにダメな人、というのが好きです。自分の好みはやっぱり作品に出ていると思いますよ。
▲シラカワさんのマンガ作りの工程の詳細を教えていただきました。

デジタルで読まれるために

作品づくりはアナログとデジタルが半々くらいですか?
アナログでやっている部分も多いです。実は「速水社長〜」の9話くらいまでは、トーン以外をアナログで作っていたんですけど、筆圧が強過ぎて描き終えた後は手が固まってしまい…。腱鞘炎になったのをきっかけに、デジタルも取り入れるようになりました。それまでも表紙の線画とかはデジタルで描いていたので、割とスムーズに移行できました。
付箋で“盛りポイント”を入れたりするところも、思い切りアナログでしたものね。
▲手描きで作成しているネーム。
画面全体を見る時に、私はアナログの方がやっぱり見やすいんです。デジタルだと1シーンだけがズームになっちゃうので、全体が見づらくて、どこに人物の目線を向けていったらいいのか、分からなくなってしまうんです。手法は調整中ですし、今後も状況に応じて、アナログとデジタルの割合も変わっていくとは思いますが。
作品はデジタルで読まれることも多いと思います。読みやすくするための工夫はしていますか?
書き文字は、小さくしないようにしています。あまり見開きのシーンを使わないように、というのも意識しています。


あとはモアレが出ていないかな? とか、この線の細さできれいに見えるかな?とか。たまにトーンが飛んでしまっていることもあるので、入稿したものは一度データをいただいてiPadで確認しています。デジタルで縮小した時にどこまでならキレイに見えるのか、線の細さは研究中です。
ほかにも描く上で意識していることはありますか?
「comic Berry’s」さんで描くようになって、絵柄の研究をしました。大人の読者の方が多いので、それに合わせて目を小さくしたんです。昔描いていた絵を今あらためて見ると「目、でかっ!(笑)」って思います。
▲「速水社長〜」(左)と、デビュー前の投稿作品(右)。瞳の描き方が変化している。
読者の好みを意識しているんですね。
読みやすい作品を目指して、絵柄以外にも演出やコマ割りなどを日々勉強しています。自分も読者さんも萌えらえる“社長モノ”道を追求したいですね(笑)。

シラカワイチ(しらかわ・いち)
マンガ家。comic Berry's 「速水社長、そのキスの理由(わけ)を教えて」(スターツ出版)でデビュー。次回作は2019年3月より配信予定。

「【動画あり】デジタル時代のマンガ家の机」特集一覧

あなたの名前入り、直筆イラストをプレゼント!

今回インタビューをさせていただいた、シラカワイチさんの直筆イラストを抽選で1名様にプレゼント。マンガ「速水社長」から速水社長のイラスト+サイン入りで、当選者様のお名前を入れさせていただきます。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT

受付期間
2018年12月24日(月)8:00〜12月30日(日)8:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/1月7日(月)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、発送先のご連絡 (個人情報の安全な受け渡し) のため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから1月7日(月)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき1月10日(木)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
  • 当選結果に関してのお問い合わせにはお答えすることができません。
  • 賞品の指定はできません。
  • 賞品の不具合・破損に関する責任は一切負いかねます。
  • 本キャンペーン当選賞品を、インターネットオークションなどで第三者に転売・譲渡することは禁止しております。
  • 個人情報の利用に関しましてはこちらをご覧ください。
ライブドアニュースのインタビュー特集では、役者・アーティスト・声優・YouTuberなど、さまざまなジャンルで活躍されている方々を取り上げています。
記事への感想・ご意見、お問い合わせなどは こちら までご連絡ください。