東京・日本橋にある西川の店舗。うねりのある牡丹文字が特徴的なロゴも、2019年2月の再統合に合わせて一新する(記者撮影)

蚊帳の行商として1566年(永禄9年)に創業して450年以上――。

寝具業界きっての名門・西川グループ。同じルーツを持つ西川産業(通称・東京西川)と西川リビング(通称・大阪西川)、京都西川の3社が、2019年2月1日に合併し、「西川株式会社」(以下、新西川)になる。3社は1941年の分社化以来、約80年ぶりに再統合する見通しとなった。

3社の売上高を合計すると約700億円。ピーク時に比べれば低迷はしているが、それでも寝具専門メーカーとしては最大手とみられる。


新たなロゴは、海外でも認識されやすい直線的な文字で「西川」を表した(画像:西川産業)

新西川のトップには創業家の娘婿で、東京西川の社長を務める西川八一行(やすゆき)・15代当主が就く予定だ。東洋経済のインタビューに応じた八一行氏は、「東京五輪など国際的イベントも控える中、3社が得意とする商品やサービスを集約して、日本を代表する"世界の西川″となる」と意欲をにじませる。

3社はもともと滋賀県発祥の1つの会社だったが、第2次世界大戦中に会社が生き残る道を模索する過程で、東京・大阪・京都にあった支店を株式会社として独立させたことにさかのぼる。

戦時中に各支店が独立

終戦後も3社はそのまま別々の道を歩んだ。同じ「西川」ブランドを掲げながらも、地域ごとに独自の販売ネットワークを構築し、それぞれがオリジナル商品を開発している。


15代当主の西川八一行氏は「世界に出て行くブランドとして新しい西川を作っていく」と語る(撮影:尾形文繁)

東京西川が大阪西川と京都西川の株式を一部持つなど資本関係はあったが(京都西川に対しては東京西川の子会社や創業家が出資)、現場の人事交流はほとんどなく、あくまで社員や取引先からすれば別の会社だった。

潮目が変わったのは、創業450周年を迎えた2016年のこと。西川の450年史を作成するに当たり、3社の経営トップ同士が集まって話し合う場面が増えた。その際に「お互いの無意味な競争は減らして、一緒にやるべきことをやる時期ではないかと投げかけた」(八一行氏)。

八一行氏が合併を持ち出した裏には、めまぐるしく変化する寝具業界での危機意識がある。

各地域の寝具専門店への卸売りが多かった時代は、3社間で「あの西川は、この地域に強い」と物理的なエリアでの販路の差別化ができていた。

それがイトーヨーカドーやイオン、ニトリなど大手小売店が続々と低価格のPB(プライベートブランド)の寝具を発売し、問屋や地場の寝具店は徐々に減少した。

本部で仕入れを集中的に行う大手量販店への卸売りやネット通販での販売が比重を増す中、「地域的なすみ分けがなくなっていき、(西川同士が)実質的には完全なライバルになっていた」(八一行氏)。

寝具に対する消費者の意識も様変わりした。婚礼寝具や冠婚葬祭の返礼品などとしての需要は低迷し、似たような商品であれば日常使いとして低価格なものを選ぶ傾向が強まった。

一方でスポーツ選手や中高年層の間では、睡眠環境を整える高機能寝具への関心も高く、よりブランド独自の個性が求められる時代となった。

三者三様だった西川ブランド

ただ、複数の西川が存在した影響で、「西川ブランド」はイメージのばらつきが目立った。

たとえば東京西川は百貨店向けの高級布団や、トップアスリートを広告に起用したマットレス「AiR(エアー)」で知られるのに対し、大阪西川は量販店向けのカジュアルな商品が充実しているなど、「各社で商品や販売手法がかなり違うので、消費者にとって何が西川ブランドらしさなのかわかりづらい」(寝具専門店の経営者)。

今回の合併により価格競争力やデザイン力など各自の強みを集中させることで、西川ブランドの統一した発信力を強めるべきと判断したわけだ。

東京西川は「非上場のため、資本関係や経営統合のスキームについて詳細はコメントしない」としているが、東洋経済の調べでは、下記のように3社の資本関係は入り組んでいる。また12月中旬の全国紙に掲載した合併公告によれば、東京西川を存続会社として、大阪西川と京都西川を吸収合併する計画のようだ。


八一行氏は今後の商品戦略について「決して高級寝具だけではなく、たとえばニトリの商品で納得しない場合に次の選択肢として浮かぶようなものが出来ればよい」と語る。統合後の経営資源を生かして、幅広い層に訴求していく方針だ。また、睡眠時のデータ収集を基にした予防医療との連携なども視野に入れる。

開拓余地のある海外は、「コンパクトで高機能」という日本ブランドのイメージを武器に、アジアや北米で攻勢をかける。そのうえで3社合計の売上高を、現状の700億円程度から中期的に1000億円に伸ばす目標を掲げる。

15代当主が担う重責

もっとも、ルーツが同じとはいえ、80年弱にわたり別の会社として歩んできた3社の社員が足並みをそろえるのは容易ではない。


東京西川のヒット商品「AiR」マットレス。体にかかる圧力を分散させる特殊構造で、質の高い睡眠環境を整えることがウリだ(撮影:尾形文繁)

八一行氏は「みんなそれぞれにプライドはあるが、お互いが(競争で売り上げを)削り合っている状況のままでよいとは思わない。自ら動いて新しい時代を作っていく」と強調する。

西川家の娘婿である八一行氏は15代当主だが、実は歴代の当主のおよそ半分は、養子もしくは長男ではない人が務めてきたという。

「ときどきそういう人が来て、DNAに突然変異を起こす役割なのだと思う。今は大きな変革を起こすタイミングで、それが自分のある種の役目だ」(八一行氏)。

創業500年に向かう老舗の“3兄弟”の合併は、どんな変革を生むのか。