医療費の負担を抑えるには、なにがポイントになるのか。「プレジデント」(2017年2月13日号)では11のテーマに応じて、専門家にアドバイスをもとめた。第8回は「長寿生存保険」について――。(第8回、全11回)

男性の4人に1人、女性の2人に1人が90歳まで生きる時代。そう聞いてぞっとする人も少なくないだろう。リタイア後は公的年金が生活の柱になるが、それだけで暮らすのは難しく、不足分は資産で補う必要がある。90歳、95歳と長生きすれば、貯蓄が底をつく可能性も。そういった「長生きリスク」への手立てとして「トンチン年金保険」が注目されている。

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トンチン年金保険とは一生涯、年金を受け取れる終身年金(民間保険会社の商品)の一種で、名称は仕組みを考えたイタリア人の名前に由来する。

年金保険は10年、15年など、受取期間が決まっている「確定年金」が主流で、一生涯受け取れる「終身年金」は保険料が高くなるため、加入が難しい。そこでトンチン年金では、年金受取開始前に死亡した人への死亡保険金などを抑え、その分を長生きした人への年金に回すことで保険料を抑えている。言い換えれば、早く亡くなった人には不利になり、長生きする人ほど有利、というのが特徴である。

日本ではあまりなじみがないが、16年、日本生命保険が「長寿生存保険(低解約払戻金型)グランエイジ」の販売を開始した。

もともとのトンチン年金保険は、加入者が亡くなっても年金は支払われないが、掛け捨てが嫌いな日本人には理解されにくいためか、7割程度の解約払戻金が支払われる設計となっている(契約からの経過年月数によっては、まったく支払われない、わずかしか支払われない場合もある)。

長生きする人にはメリットが大きい半面、そうでない人はモトがとれないケースも。何歳まで生きるかで有利不利が分かれるわけだが、命の長さは「神のみぞ知る」であり、損得を考えるのは意味がない。

長生きして貯蓄が底をついてしまうのは不安だし、貯蓄に手を付けずにつましく暮らしている人は少なくない。とはいえ、前述のように普通の終身年金では保険料が高くて加入はままならない。それをふまえれば、長生きできなかった場合の「損」は覚悟のうえでトンチン年金に入り「長生きリスク」に備える、という考え方もあるだろう。

年金形式でお金が入ってくる

いつ命を終えるかはコントロールできず、長生きも一種のリスクであることは否定できない。そもそも保険はリスクに備えるためのものであり、その意味ではトンチン年金も選択肢になる。

また年金形式で自動的に口座にお金が入ってくれば使いやすく、貯蓄を取り崩すことに抵抗感を持つ人にも使い勝手がいい。

加入例として、50歳男性が5年保証期間付終身年金に加入する場合についてみてみよう(図参照・日本生命の例)。

保険料を20年払い込み、70歳から年額60万円を受け取る場合、月額保険料は4万7496円。保険料の総額は約1140万円で、19年年金を受け取ればモトがとれる。それより早く亡くなると払い損だが、長生きすればもらえる額が多くなるし、なにより「安心」が得られることは大きいだろう。

なお、女性は男性より長寿な分保険料も高く、先のケースでは月額5万8680円となる。もちろん、長生きしても困らないだけの資産を用意できるなら、払い損になるリスクをとる必要はない。保険料を払うより運用したほうが効率的かもしれない。トンチン年金は、あくまでも「長生きした場合の安心感」を買うものと考えたい。

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損得より安心感。「長生きリスク」に備える選択肢

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深野康彦(ふかの・やすひこ)
ファイナンシャル・プランナー
ファイナンシャルリサーチ代表。マネー商品全般、資産形成、資産運用に詳しい。著書に『ジュニアNISA入門』(ダイヤモンド社)など。
 

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(ファイナンシャルプランナー 深野 康彦 構成=高橋晴美 写真=iStock.com)