11月26日午前、衆議院予算委員会で答弁する河野太郎外相(写真:共同通信)

「ポスト安倍」を目指すとされる河野太郎外相の記者会見での対応が、国会だけでなくメディアでも炎上している。

河野氏は2017年8月に外相に抜擢されて以来、超ハイペースの外国訪問と政界でも有数とされる語学力で、近い将来の総理総裁候補としての存在感をアピールしてきた。しかし、ここにきて、安倍晋三首相が早期合意への意欲をみなぎらせる日ロ交渉をめぐり、河野氏の国会答弁や記者会見での問答無用の態度が、「傲慢の極み」(立憲民主党)などと野党や一部メディアの批判にさらされている。

河野氏はもともと、自民党内の「異端児」として知られ、自らのブログ「ごまめの歯ぎしり」でも、政府与党の方針を厳しく批判することが多かった。しかし、外相に就任すると人が変わったように持論を封印したことで「大人になった」との評価も得た。

党内外で噴出する外相批判

ただ、自民党の行政改革推進本部「無駄撲滅プロジェクト」の推進役だった河野氏が、国会質疑や外相記者会見で「無駄な質問には答えない」という、無駄嫌いの性格を丸出しにしたことで、党内外から「狭量で、トップリーダーとしての資質に欠ける」との批判が噴出した。来るべきポスト安倍レースへの障害ともなりかねない。

時ならぬ「河野批判」の発生源となったのが12月11日午後の外相定例会見だった。首相が意欲を示す北方領土返還と日ロ平和条約締結交渉にからめて、ロシア外相が「日本が第2次大戦の結果を認めることが第一歩だ」とけん制したことについて問われると、「次の質問どうぞ」とだけ返す回答を4回も繰り返した。業を煮やした記者団が「公の場での質問にそういう答弁をするのは適切ではない」と難詰しても、「交渉に向けての環境をしっかりと整えたい」と、表情も変えずにかわした。

世界に発信される外相会見だけに、外交交渉への影響を考慮するのも当然だが、「『答えられない』とさえ回答せずにスル―するのはほとんど例がない」(閣僚経験者)。それだけに、大手紙やテレビ、ネットで大きな話題となった。

ロシアとの平和条約交渉で交渉責任者を務める河野氏は、臨時国会の質疑でも首相と歩調を合わせる形で「(自らの発言が)交渉に影響を与えることが十分に考えられるので、政府の立場を申し上げるのを控える」などと繰り返し、野党から「説明拒否だ」と批判されていた。外務省記者クラブは11日夕、外相宛ての「国民に対する説明責任を果たしているのかどうか、疑問を禁じ得ない。誠実な会見対応を求める」とする異例の申入れ文書を提出し、河野氏が「神妙に受け止めます」とのコメントを出す騒ぎとなった。

近年、永田町では事あるごとに政治とメデイアの関係が話題となるが、「答えたくない質問は一切無視」という河野氏の対応は「極めてまれな事態で、国民の知る権利の軽視ともみえる」(外交評論家)との批判が相次ぐ。河野氏の後見人とされる当選同期の菅義偉官房長官は記者会見で「(河野氏のことには)コメントしない」とかわしたが、与党内にも「記者の背後には国民がいるのに、『答えないのは分かっているだろう』という態度は傲慢としか受け止められず、政府の外交交渉への国民不信も拡大させかねない」(外相経験者)との苦言が相次いでいる。

この「次の質問どうぞ」騒動の前日に閉幕した臨時国会では、「移民政策への大転換」ともみられる改正出入国管理法を与党が強引な手法で成立させた。野党から「具体的内容がまったくないスカスカの法律で、政府もまったく説明しない」(立憲民主幹部)と激しく批判されたばかり。それだけに、自民党内にも「時間をかけて議論し、野党だけでなく幅広く国民の理解を求めるという本来の民主主義のルールが軽視されている」(自民長老)との危機感が出ている。

持論を曲げない「自民党の変人」

河野氏は首相とも並ぶ政界でも有数の「政治家ファミリー」の一員。父親は外相や官房長官を歴任した河野洋平元衆院議長、祖父は河野一郎元建設相で、文字通りの「名門3代目の政界エリート」というわけだ。ただ、自民党を飛び出して新自由クラブを結成した若き日の父・洋平氏と同様、政界入り後は「持論を曲げず、独自行動をおそれない」という行動もあって「自民党の変人」とされてきた。

とくに、行政改革がライフワークで、自民党の「無駄撲滅プロジェクト」のリーダーとして各省庁の行政の実態に斬り込み、民主党政権下の「事業仕分け」の原点となった。ただ、自ら「無駄の典型」と縮減を要求してきた外務省の一部予算について、外相に就任すると「間違っていた」と姿勢を転換した。他の先進国や中国の外相のように有事即応で外交交渉に臨むために必要として外相専用機の購入を求めて反発を買う場面もあった。「まさに君子豹変」(自民若手)なわけだ。

一方、こうした変身が永田町では「政治家としての幅が広がった」と評価され、菅官房長官らが河野氏を「ポスト安倍の有力候補」と後押しすることにつながった。過去に総裁選出馬の経験をもつ河野氏も、外相就任以来、「いつかは総裁に挑戦する」と意欲を隠さない。河野氏は、父・洋平氏の側近だった麻生太郎副総理兼外相の率いる麻生派に所属しており、麻生氏は河野氏の政治資金パーティで「間違いなく将来が期待されるが、一般常識に欠けている」とあいさつ。「あなたがそれを言うか」(麻生派幹部)との爆笑が会場を包んだ一幕もあった。

ただ、首相に忖度したような最近の河野氏の言動に「ゴマすり専門の“ヒラメ政治家”のようで、幻滅した」(自民若手)との不信感も広がる。河野氏に期待してきたベテラン議員からも「小泉純一郎元首相の様に、変人を貫く潔さが人気の秘密だったのに、これでは単なる権力志向の政治家にしか見えない」(有力議員)との声が出始めている。

政界で河野氏は「超合理主義者」で知られている。「時間の無駄」「お金の無駄」などの理由で、政治家同士や省庁幹部との昼食時の打ち合わせなどでも「ほとんどハンバーガーで済ませていた」との伝説も残している。麻生氏の冗談もそこを突いたわけだが、そのこと自体が「旧来の自民党政治家らしくない河野氏の行動が、地元有権者だけでなく、多くの国民の期待につながってきた」(麻生派幹部)ことも事実だ。

首相が9月の自民党総裁選で3選を果たして以来、政界ではポスト安倍レースが大きな話題となっている。今回の騒動を受けて、「党内での河野氏に対する期待度も低下する」(竹下派幹部)との見方が広がる。政界関係者の間では「総裁選不出馬で『戦わない男』と評価を下げた岸田文雄政調会長のあとを追うように、河野氏への期待もしぼむ」(同)との声も出始めた。「このままでは、我が道を行く石破茂元幹事長がポスト安倍で相対的に有利になってくる」(石破派若手)との観測にもつながる。

日ロ交渉が河野氏の「災い」に

今年の新語・流行語大賞のトップテンの中で、政界関連で選ばれたのは「ご飯論法」だった。「朝ご飯を食べたか」との質問に「(パンを食べたのでご飯は)食べていない」とはぐらかすことで、「政治家が質問に対して論点をずらしたりごまかしたりする」ことへの揶揄でもある。外交の機微に触れることを聞かれて「次の質問どうぞ」とスルーする河野氏の応答ぶりは、河野氏自身がかねてから行政改革に絡めて情報公開の必要性を訴えてきたこともあり、「余計な質問は時間の無駄、という上から目線にしかみえない」(国民民主幹部)との批判は免れそうもない。

父・洋平氏は、河野氏の外相としての活動ぶりについて問われた際、「息子のことは一切論評したくない」と苦々しげに答えたとされる。今年の漢字に「災」が選ばれると、ネットでは流行語大賞の年間大賞となった「そだねー!」という書き込みがあふれた。その際、首相は「自分の今年の漢字」を問われると、従来の状況を一転させつつある自らの日ロ交渉に絡めて「転」を挙げたが、河野氏にとっては自身の「転」(姿勢転換)が、ポスト安倍レースでの「災」につながっているようにもみえる。