退役が迫る陸自AH-1S「コブラ」対戦車ヘリの後継機選定に関し、候補のひとつと目されるAH-1Z「ヴァイパー」について、メーカーであるベル社が自信をのぞかせています。

アメリカ海兵隊員の頼れる相棒

 2018年11月28日より東京ビッグサイトにて3日間の日程で開催された「国際航空宇宙展2018東京」へ、アメリカのベル・ヘリコプター(以下「ベル社」)は、攻撃ヘリコプターAH-1Z「ヴァイパー」のモデルを展示しました。これはアメリカ海兵隊にて、AH-1W「スーパーコブラ」攻撃ヘリを置き換える形で、2010年代から本格的な運用が始まったばかりの新しい攻撃ヘリで、日本にとっても今後、縁深い機体になるかもしれません。


米海兵隊 駐沖縄部隊のAH-1Z「ヴァイパー」攻撃ヘリ(写真左)と、UH-1Y「ヴェノム」汎用ヘリ(画像:アメリカ海兵隊)。

 AH-1Z「ヴァイパー」は、機首に装備する20ミリ機関砲や、機体両側面の翼に装備するロケット弾や爆弾、さらに誘導式対戦車ミサイル「ヘルファイア」によって、敵歩兵や装甲車両を攻撃可能で、また翼両端に装備する空対空ミサイルによって敵航空機をも攻撃できます。

 機体の重要部分には防弾性が付与されているほか、携行式地対空ミサイル(MANPADS)や、より本格的な地対空ミサイルによる攻撃への備えとして、敵が発するレーダー波やレーザーなどを検知し、万が一ミサイルが発射された場合にはこれを妨害する自己防御システムを搭載するなど、敵の脅威がある地域でも機体と乗員を防護するための最大限の工夫がなされています。


ベル・ヘリコプターのAH-1Z「ヴァイパー」攻撃ヘリは艦載も可能な仕様で、アメリカ海兵隊などに採用されている(画像:ベル・ヘリコプター)。




 このように、さまざまな種類の強力な兵器を搭載でき、それによって敵の脅威がある地域においても、地上部隊に迫るあらゆる脅威を排除できるAH-1Zは、対テロ戦争から、時には国家間紛争にも関わるアメリカ海兵隊にとって、まさになくてはならない存在です。そのため、アメリカ海兵隊ではこのAH-1Zを将来、数十年間にわたり運用することになっています。また、沖縄県の普天間基地にも、既存のAH-1Wを置き換える形で2016年末から配備されています。

陸自次期戦闘ヘリ選定でAH-1Zが有利なワケ

 このAH-1Z、陸上自衛隊の将来に深く関わってくるかもしれません。というのも現在、陸上自衛隊は、老朽化したAH-1S「コブラ」攻撃ヘリ(陸自では「対戦車ヘリコプター」と呼称)を更新するために、新たな戦闘ヘリコプターの導入を模索しているのですが、その有力候補のひとつが、まさにこのAH-1Zなのです。


「国際航空宇宙展2018東京」におけるベル・ヘリコプターのブースに出展された、AH-1Zの大型模型(2018年11月30日、稲葉義泰撮影)。

「国際航空宇宙展2018東京」の会場で話を聞いたベル社の担当者によれば、AH-1Zが誇るふたつの特徴が、陸上自衛隊の次期戦闘ヘリ選定において同機の有利な点といいます。

 まずひとつは、艦艇での運用能力です。現在、陸上自衛隊は島しょ防衛を喫緊の課題としていて、そのための専門部隊である「水陸機動団」も2018年に編成されました。ベル社の担当者はこの状況を踏まえて、「島しょ防衛においては、沖縄本島などから島しょ部へ向かうにせよ、その移動距離が問題となります。つまり島しょ防衛においては、戦闘ヘリを海上自衛隊の艦艇に載せて運用することが大前提となります」と説明します。そこで注目すべき点が、AH-1Zの艦艇における運用能力です。

 そもそも同機は上述のように、アメリカ海兵隊で運用されていた攻撃ヘリを置き換えるために開発された機体です。そのため、海兵隊が世界中に展開するために必要不可欠な存在である強襲揚陸艦(敵地への上陸作戦などを実施するための母艦となる、空母のような全通甲板をもつ艦艇)での運用能力が当然に付与されています。たとえば、強襲揚陸艦の狭い艦内スペースを最大限活用できるよう、ローターには折り畳み機構が備わっており、さらに洋上での運用という観点から欠かせない、潮風などによる塩害への対策として、機体への腐食防止コーティングや、部品の接続部分などに対する徹底した密閉措置が施されています。

 このような能力や仕様は現在、陸上自衛隊が運用しているAH-1SやAH-64D「アパッチ・ロングボウ」といったヘリコプターにはなく、ベル社の担当者は「艦艇での運用能力ならば、他機種よりも一日どころか百日の長があります」と説明し、自信をのぞかせました。

さらに有利なもうひとつのポイントとは?

 ベル社が陸自の次期戦闘ヘリ選定において有利な点とする、AH-1Zのもうひとつの特徴は、高精度のTSS(ターゲットサイトシステム)「AN/AAQ-30A」です。AH-1Zの機首に装備されているこのTSSは、世界でも最高精度を誇る光学および赤外線センサーと、目標指示用のレーザー照射装置などを組み合わせたもので、これにより遠距離にいる目標を識別し、誘導兵器との組み合わせによって正確に攻撃できます。ベル社の担当者はこのTSSについて、島しょ防衛に際し戦場の狭さなどに起因して敵味方が入り混じった状況が発生した場合、非常に有意義と説明します。

「島しょ部での戦闘で、敵味方が入り混じる、あるいは民間人が事実上、人質に取られてしまうという状況が発生した場合に、この『TSS』があれば、敵の攻撃が届かない安全な遠距離から、敵味方を正確に識別することができ、誤射や副次的被害を防止できます」(ベル社の担当者)

 またTSSは、島しょ防衛と同等、あるいはそれ以上に、敵味方や民間人が複雑に入り混じると予想される対テロ作戦においても有効といえるでしょう。


AH-1Z「ヴァイパー」の訓練用シミュレーター(画像:アメリカ海兵隊)。

 現在、喫緊の課題となっている島しょ防衛作戦から、「東京オリンピック・パラリンピック」などを控えて注目が集まる対テロ作戦にいたるまで、幅広い事態に対応できるAH-1Zは、陸上自衛隊の次期戦闘ヘリ選定において大きく注目される存在になるでしょう。

【写真】AH-1Z「ヴァイパー」、大阪城の空に舞う


大阪城上空を飛行する、アメリカ海兵隊 駐沖縄部隊の攻撃ヘリAH-1Z「ヴァイパー」(画像:アメリカ海兵隊)。