忘年会シーズンになりました。身体に負担の少ないお酒の飲み方とは?(写真:ふじよ/PIXTA)

忘年会や新年会のシーズンを迎え、飲酒をする機会が増えてきた人も多いだろう。飲み会が増える時期を前に、アルコールのもたらす危険性について十分認識してほしい。

アルコールというとまず心配になるのが肝臓だろう。しかし、アルコールの身体への影響は肝臓にとどまらない。腹痛や下痢に悩まされる慢性膵炎も主因はアルコールであり、その他、胃腸、心臓、脳、神経、筋肉、骨、骨髄、生殖器と多くの臓器が侵されてしまう。

また意外に思われるかもしれないが、がんとも関係する。国内でアルコールが原因で死亡する人のうち、発がんによる死亡者は約6割に達するとみられている。アルコールにより発がんをきたす臓器としては、肝臓、食道、咽頭・喉頭、口腔、乳房、大腸が科学的にも確認されている。ただし、発がんは短期間の飲酒ではなく長期間の大量飲酒の結果として起きるものであり、年末年始だけの期間の飲酒で起こるものではない。

毎日大量に飲む人は要注意

死因のほかのものとして、アルコール性肝障害は脂肪肝に始まり、肝炎、肝線維症、肝硬変へと進んでしまうと、肝不全や食道静脈瘤の出血などで命を落とす危険性が出てくる。アルコール性肝硬変へと進むにも、10年以上の長期にわたる大量飲酒が原因となるのであり、忘年会シーズンに一気に肝硬変になってしまうことはないが、年末年始に悪化させる人が増えることも事実だ。


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アルコールを毎日60g以上(ビールで500mlの中瓶3本、日本酒で3合、ウイスキーダブル3杯相当)を長期にわたって飲んできた人は、気がつかない間に肝硬変に進展しており、その状態でさらに大量の飲酒が重なると肝不全へと進んでしまう。

普段は朝から飲むことはない人も、長い休暇に入るとその抑制がとれてしまい、朝晩関係なく飲んでしまうことがある。このような人の場合は特に注意が必要だ。

リスクの少ない飲み方として、日本では1日平均のアルコール量として男性で40g(ビール中瓶2本相当)、女性で20g(ビール中瓶1本相当)までに抑えることが勧められている。しかし、酒好きにとっては、こんな量では飲んだ気がしないだろう。

そこで必要となるのが休肝日だ。先ほどの目安はあくまで1週間における1日の平均量であるので、飲まない日をつくっておけば、もう少し多量に飲める日をつくることができる。男性なら1週間の総量で280g、女性なら140gまでに収める。たとえば、男性であれば日本酒3合を5日間飲むのが限度になり、後の2日間は飲まない日にすることだ。

毎日ビール1本程度で飲んでいる人にとって飲まない日をつくらなければならないというものではない。この程度の飲み方では、むしろ心臓病や糖尿病を減らす効果も確認されている。

それでは、アルコール280gを週5日ではなく、2日や3日に分けてはどうかというと、これもリスクの高い飲み方になる。1回に140gあるいは90gと大量に飲むことは勧めることはできない。1回に70gを超える飲み方は、欧米ではビンジ(大量)飲み(Binge drinking)と呼ばれ、心筋梗塞や不整脈など心臓病や脳卒中や外傷・交通事故などの危険が高くなることが知られている。

飲酒と外傷による死亡の関係

意外と知られていない飲酒と外傷による死亡の関係だが、アルコールによると考えられる死亡者のうち約10分の1は外傷による死亡である。救急外来に運ばれてくるような外傷は、半数以上がビンジ飲みであったという報告もある。

また、特に高齢者で気をつけたいのが、気持ちよく酔って風呂に入り浴室で溺死する人がいることだ。サウナ風呂にも入ってはいけない。サウナの中で居眠りをしてしまい、救急車で運ばれてきた患者さんが厳しい熱中症であったこともある。

ちなみに、大量に酒を飲んだ後には、かなり長時間にわたってアルコールが身体に残っていると考えたほうがよい。一般に70kgの体重の人で20gのアルコールを身体から消失させるには3時間〜4時間を必要とする。そうすると、前の晩に60gのアルコール(日本酒3合相当)を飲んでしまうと、身体から完全に消えるには9時間から12時間かかることになる。

特に気をつけたいのは、金曜日の夜に大量に飲み、翌日の土曜日の朝に自動車を運転してゴルフに行くなどの時だ。60g以上のアルコールを飲んでいれば、翌日早朝には確実に残っている。こんな状況で事故を起こしてしまえば、人生が破滅する道へ進むことになる。

どんなお酒なら健康によいのかと質問されることがあるが、身体への影響はアルコールの濃度と量の問題であり、酒の種類による違いはあまりない。一時、赤ワインが健康によいと言われた時期があった。欧米では元来脂肪の摂取量が多く動脈硬化からくる心臓死が多いが、フランスではそれが少ないという疫学調査から推察されたものであった。フランスは赤ワインの消費量が多いから、赤ワインが健康によいと話は進んだのだ。

しかし、その後、飲酒をしても心臓死が減少する現象は、ほかの地域でウイスキーやウォッカなどほかの酒を飲んでいる人の間でも起きることが明らかにされた。赤ワインでなくてもよかったのだ。また、フランスでは、心臓死こそ少ないが、飲酒量が多いためにアルコール性肝硬変やアルコール性膵炎の多い国であることも知っておくべきだろう。

焼酎の落とし穴

次に、焼酎がブームになって、焼酎が身体によいからと飲み始めた人もいた。確かに、焼酎は蒸留酒であり、糖分が少なく同じアルコール量なら太りにくい。ビールなどに比べてプリン体が少なく痛風や高尿酸血症にはよさそうだ。さらに、蒸留酒では不純物が少ないため悪酔いしにくいし、翌日に残りにくいということもある。

一方で、日本でアルコール依存症になる人では最後に焼酎に行きつくことも知られている。結局、大量にアルコールを飲もうとする人は、経済的理由から安い酒へと流れてしまうのだ。

蒸留酒は悪酔いしにくいので、大量に飲みやすい。大量に飲むと体内のプリン体が壊され尿酸の生成が多くなり、一方で腎臓からの尿酸の排泄も悪くなるため、プリン体は少なくても痛風発作の原因にはなりうる。 

濃度の高いアルコールは口腔、咽頭・喉頭、食道などのがんをもたらす。これらの上部消化管のがんを減らすためには、できれば10%以内に、高くても15%までに抑えておいたほうがよい。したがって、焼酎もお湯割りや酎ハイで飲むほうが身体には優しい飲み方になる。チェイサーによる水補給では、胃の中では薄められても、咽頭や食道への影響は変わらない。

誤解されていることが多いが、二日酔いになるのはアルコールの分解の過程で生まれるアセトアルデヒドがたまって高い濃度になっているためではない。二日酔いは、大量の飲酒に伴うさまざまな体調の変化が重なり症状として出てきたものだ。症状の出方に個人差も大きい。ALDH(アセトアルデヒド脱水素酵素)の弱い人はそもそも二日酔いになるほどには大量に飲酒はできないのだ。

残念ながら、医学的に二日酔いを予防する薬はない。もし、そんなものが開発されていれば、酒メーカーが世の中にもっと広めているはずだ。

二日酔いは、こんな飲み方をしていると身体を潰してしまうと人間の身体が出すイエローカードと考えたほうがよい。良心ある医師ならば、二日酔い対策を研究することはない。二日酔いを抑えてしまうとその人は健康を冒されることになるからだ。

飲酒をするときの食事

それでもどうしても苦しいときには薬のお世話になることもあるだろう。頭痛なら消炎鎮痛剤(ロキソニンやボルタレンなど)ではなく、アセトアミノフェンを使うほうがよい。前者では胃症状を悪化させたり、出血させやすくしたりする可能性があるからだ。

頭痛でズキンズキンとするのが血管の拡張によるものであれば、コーヒーなどで血管を収縮させることも有効だが、胃症状があるときにはコーヒーが悪化させてしまう。このように、薬を使うときには状態を見極める必要があるのだ。

それでは飲酒をするときにはどのような食事が望ましいのだろうか? かつては、酒好きの人は食べる物も食べずに飲むことが多かったために、飲酒するときにもしっかりと食事をとるようにと勧められてきた。

しかし、現代は肥満社会である。肥満のある人が酒飲みでは肝障害による死亡率が高いことが知られている。したがって、飲酒時にも食事をとり過ぎないための注意が必要だ。果糖や砂糖は脂肪肝をもたらす。アルコールによる脂肪肝も進めやすい。甘いものや果物の食べすぎにも注意したい。

また、動物実験により高脂肪の食餌(しょくじ)では、アルコールによる肝障害が進展しやすいことが判明している。したがって、食事の中の脂肪はある程度制限し、良質のたんぱく質と適量の炭水化物をとることがオススメだ。揚げ物や油の塊は避けて、野菜をしっかりととることが飲酒時にも望ましい食事ということになる。節度ある飲み方と上手な食べ方を心がけて忘年会・新年会シーズンを乗り切ってほしい。