【家事・子育て】つらいのはADHDが原因かも!?研究者に聞いた診断基準と対処法

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忘れ物、なくし物が多かったり、どうしても待ち合わせの時間に間に合わなかったり、ママになってもこうした症状で悩んでいませんか?

育児も家事も手抜きしちゃダメ?実は要らない「ママのハードル」10選

ADHDは子どもの発達障害というイメージで長くとらえられてきましたが、近年は大人にもADHDの症状が残ることがわかってきたそうです。ママだからこそ、必要以上に自分を責めてしまうことにもなりかねません。

『もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で「生きづらさ」を解決する』の著者中島美鈴さんに、ADHDに悩むママへの、子育てが少しでも楽になるアドバイスや考え方、具体的な対処方法についてお聞きしてきました。

大人のADHDは増えている?

――最近、大人のADHDについて、よく耳にするようになってきましたが、実際に、大人のADHDの数は増えているのでしょうか。

中「そうですね。まず、その背景には、最近、ADHDかどうかを判断する基準が、ゆるくなったことが挙げられます。以前は、小学校に上がる以前の行動が診断基準だったのですが、これが12歳以下に変わりました。

6歳以下のことは、本人だと覚えていなかったり、本人の親御さんに聞いても記憶があいまいだったり、亡くなっていたりしますよね。12歳以下のことなら、本人が結構覚えているものですよね」

――自分から、ADHDを疑って病院に来るのはハードルが高いと思うのですが、どうやって自分がADHDだとわかるのでしょうか。

中「実際に診断に来るかどうかは、普段の生活の中でどれだけ”困り感“、機能障害とも呼ばれますが、それがあるかにかかっています。今、社会が変わってきているために、機能障害が出やすくなっていると言われています。

たとえば、核家族化が進んで、ワンオペで子育てすることで子育てに悩む人もそうですし、ネットの発達で情報量が一気に増えてきて処理能力が追いつかなくて適応できない人もその一例です」

――それは「生きづらさ」と言われることにもつながるのでしょうか。

中「そうですね、それを証拠に、発展途上国ではADHDってすごく少ないそうです。ラテン系の国などは、多動やルーズでもそれが普通という感覚だったりしますからね。

本人が直接病院に来る場合は、他の要因がきっかけであることが多いです。うつ症状や不安障害のために来院して、実はADHDだとわかるケースや、お子さんがADHDで病院に来られて、医師に”お母さんもね“と言われたりするケースです」

――へえ、それは運がいいケースなのではないでしょうか。子どもだけでなく、ちゃんと親のことも見てくれて、いいお医者さんですよね。自分がADHDだと気づかないまま、ADHDのお子さんを育てることは、相当大変なことなのではないでしょうか。

ADHDタイプのママにとっての子育て

――一般的な家事や子育てに加えて、ADHDの子どもの世話となると、さらに大変になるのではないかと想像できます。

中「そうなんです。ゴミを決まった日に捨てられないだとか、部屋を片づけられないだとか、そういったことだけでも、“私はダメなママなんだ“と必要以上に自分を責めてしまうところに、遊園地に子どもを連れていきたいのに子どもが騒いでしまい、感情的に怒ってしまって、”私は外出もできない“とさらに落ち込んでしまったり。

本当なら、子どもが眠くなる時間帯を避けるだとか、おやつを持っていくだとか、いろいろ準備すれば問題を回避できるのに、それをやらないで根性で乗り切ろうとする方が多いので・・・」

――玉砕するんですね。それで、どうしてできないんだろう、がんばらなきゃ、そしてまたできない、どうして・・・という悪循環にはまってしまう。

中「ADHDのことを知らないと、自分がだらしないからだ、もっと努力しなくては、という方向に行ってしまうんですね。そういったママは多いと思うので、ママにこそADHDの概念を学んでほしいですね」

――本当の原因がわかれば、対処法がわかりますね。

中「大人のADHDに悩む当事者の方たちのグループセラピーの中でお会いしたことがあるのですが、一見、普通よりも社交的で身なりもきれいで、時間通りに来て、仕事も家庭もちゃんとしてって人がすごく多いです。ADHDと診断された、もしくはADHDタイプの方には、人間的な魅力や社交性がある人が多いと言われているんですね。

彼女たちの名言があって、“私たちは白鳥と一緒で、人並みのことをするために、水面下ですさまじい苦労をしています”というものなんです」

――子育に悩まないママの方が少ない気がするので、もしかしたら、けっこうな割合でADHDの傾向があるママはいるのかもしれないと思いました。

バリバリのトップセールスから専業主婦になって苦境に陥ったAさんのケース

中「自分の特性を生かした仕事で活躍していたAさんという女性がいます。ADHDならではの社交性が功を奏して、すぐに不動産の営業でバリバリ売り上げをあげていたのですが、結婚して生まれたお子さんが発達障害だったんですね。

それを機に、療育のために仕事を辞め、専業主婦になったのですが、家庭に入った途端、家事にも育児にもやる気が出なくなってしまった、と相談に来られました」

――それまでの生活とのギャップがありますよね。

中「ADHDの人に見られる“報酬遅延の障害”が、彼女の状態をまさに言い当てています。

この障害は、すぐに結果や報酬が得られないことが我慢できないということを意味するのですが、家事でも子育てでも、誰かにほめてもらうわけでもありませんし、すぐに結果が出るわけでもないし、時になんのためにやっているのかわからなくなることですよね。

言ってみれば報酬が遅延しまくるわけです」

――たしかに。すぐに売り上げにつながる仕事とは雲泥の差がありますね。

中「24時間ほぼすべて家族のために使って、へとへとになっている彼女に、“あなたらしい報酬が得られていない生活ですよね。

意外と仕事をした方が元気になるんじゃないですか“って言ったところ、最初は絶対無理と言っていましたが、ご自分でADHDのことを調べれば調べるほど、家事と子育てがいかに自分に向いていなかったかがわかったようで、働きはじめたんです」

――変化はありましたか?

中「めちゃくちゃいきいきして、表情も全然ちがうんです。子どもは今、小学生ですごく楽になった、ストレスが減った、と言っていました」

――よかったですね。「ママはこうあるべき」というイメージより、その人らしく生きることを優先させていいんですよね。

どんな問題も最初の一歩を踏み出すことが大事

中「また別の方でBさんという方は、体の弱い子どもの通院や入院の付き添いでてんてこ舞いになっていました。独身の時は仕事に没頭されていましたが、やはり子育てのために専業主婦になったんですね。

Bさんの場合、とにかく家がゴミ屋敷のようになっていて、一部屋のドアが開かなくなるほどだったそうです。最初に、“時間管理のために手帳を使いましょう“と言ったのですが、手帳を置くスペースがないとおっしゃるんです」

――ええ!

中「“ダイニングテーブルを置いたらどうですか?“と言ったら、”なだれが起きる“とおっしゃって。手始めに、物の置き場を決めるところから始めて、最初に子どもの薬といった一番大切なものを管理するために、ファイルを3種類用意してもらいました。

すると、整理整頓のコツが少しわかったようで、ゴミだらけだった部屋も、少しずつやれば片づくのかも、と言い出して、3日できれいにできたんです」

――物事には順序があることがわかったんですね!

中「そうやって自信がついたのか、どんな難題も、最初の小さなステップを踏み出すことで、解決できるんだとわかっていったようです。その後、お仕事に戻られて、ご活躍されているようですよ」

精神論は功を奏さない

中「Bさんに、“今まではどうやって難所をくぐり抜けてきたんですか?“とお聞きしたことがあるんです。彼女の答えは”やる気を出してやっていました“でした」

――やはり根性論なのですね。根性論は向き不向きがありますし、がんばれない時に味わう挫折感が大きいのでは、と思います。

中「忘れ物をする子どもも、同じことを言われがちですよね。“絶対忘れないようにする”“がんばる”というだけでは、まったく非論理的ですよね」

――でも、そういったことが普通に言われています。

中「子どもの方も、よくわからないなりに“がんばる!”と答えたりして、それができないと自分をダメだと思ってしまったり」

――子育てに関しても、根性論、精神論的なことを言われることが多いですよね。

中「そうですね。ふわっとしていながら、ママを苦しくさせるような表現が多いですよね」

――大切なのは、自分のADHD的な性質を受け入れてその人らしい子育てを手に入れることなのではないか、と思いました。そのための対処法が『もしかして、私、大人のADHD?』にはいろいろ載っていますよね。

中「少しでも、子育てに悩むママの参考になればと思っています」

――本日はお忙しいなか、どうもありがとうございました。

ADHDママにオススメ対処方法とは?

最後にいくつか、中島さんに教わったADHDママの生活に取り入れられる対処方法をご紹介します。

デジタル時計よりアナログ時計、カードより現金で!

ADHDタイプの人は、デジタル時計よりアナログ時計がよくて、クレジットカードより現金がいいのだそうです。

どういうことかというと、時間とか数字といったものを視覚や重量で感じられないと、体感しにくいからなんだとか。

遅刻が多くなるのも、デジタル時計では時間の差し迫った感覚がわからないためかもしれません。お金に関しては、請求が来てから青くなるのを避けるためにも、ぜひ現金払いの習慣をつけたいものです。

手帳はバーティカルなものを

ADHDママが手帳を持つなら、情報を一元化できる、1日を細かく区切ったバーティカルのものがおすすめだそう。

視覚でみてイメージがわきやすい工夫としては、イラストを入れたり、シールを貼ったりなど、いろいろできそうですね。

また、TO DOリストを達成するために、ひとつの作業をさらにいくつかの「スモールステップ」に分ける習慣をつけましょう。

それぞれのステップをする日にちと時間を手帳に書き込んで、決めてしまえば、あとはそれを実行するだけ。「いつかやること」ではなく、「予定として確定させてしまうこと」が大事だそうです。

まとめ

ADHDに対して正しく知ることで、たとえ軽度であってもADHDの傾向がみられるママには、ずいぶん子育てが楽になるのではないかと思いました。

たとえば、ついすぐにSNSを覗いてしまうのは、ADHD(タイプを含む、以下略)の人に見られる行動のひとつです。これは、インタビューの中に出てきた「報酬遅延の障害」の表れなのだとか。

このことを知れば、“またスマホばかり見てしまった”と後悔するよりも、子どもといる時は、スマホの電源を切る時間をつくるなど、具体的な解決案が出てきますよね。

ちゃんとできたら自分にごほうびを設定するのも効果的ですが、達成感、成功体験そのものが報酬になる習慣をつけることも重要です。

「自分にふさわしい報酬を得られる環境」は人それぞれ。自分らしい子育てとは、その環境でこそできるのかもしれませんね。

【取材協力】中島美鈴さん

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。

他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。