世の中には、なぜか“女に嫌われる女”というものが存在する。

女がその女の本性に気づいても、男は決して気づかない。それどころか男ウケは抜群に良かったりするのだ。

そんな、女に嫌われる女―。
あなたの周りにもいないだろうか?

明治大学卒業後、丸の内にある証券会社に勤務する高橋太郎(28)は、ただいま絶賛婚活中。

さまざまな女性と出会う中で、太郎は女友だちから「見る目がない」と散々ダメ出しを受ける。

これまでに、清楚系美女なのに腹黒い女やアドバイスをしてくる女がいた。今宵、そんな太郎が出会った女とは・・・?




「この前付き合ってもらったお礼に、太郎ちゃんに食事会を開くから!」

同期の宏美が、前回の埋め合わせとして食事会の提案をしてきてくれたのは、先週のことだった。

街はもうすっかり冬景色。お洒落なカフェにうっかり入ると、無駄に明るいクリスマスソングが流れている。食事会の開催は、有難いことこの上ない。

「本当?ありがとう。別に無理しなくてもいいからね」

そう言いつつも、持つべきものは女友達だなぁと心の中で思う。そして太郎は男性陣を引き連れ、期待に胸を膨らませて食事会に参加したのだった。



「太郎ちゃん、こちら綾乃。前に別の会で知りあって、それ以来仲良くしているの。あと、こちらは綾乃の友達で、穂花ちゃん」

宏美がテキパキと紹介すると、綾乃と穂花はにっこりと微笑んだ。二人とも似たような雰囲気で、色で表現するなら白やパステルカラーなどの淡い感じだ。

「太郎さんと宏美さんは、何のお繋がりなんですか?」
「あぁ、僕たちは会社の同期なんだよね」
「へぇ〜会社の同期。何だかいいなぁ、そういう関係」

和やかな雑談から始まった食事会。しかし宏美の計らいも虚しく、太郎はこの食事会でまた女性特有の面倒な一面を知ってしまったのだった。


男女の友情は成り立つ?共学出身と女子校出身の価値観の違い


「じゃあ綾乃ちゃんと穂花ちゃんは、小学校からずっと一緒なの?」

太郎たちは『マルゴ丸の内』で、楽しく食事会をしていた。ここは今日太郎が連れてきた同期のチョイスだが、手ごろな値段で食事もワインも楽しめる、いい雰囲気の店だった。




「そうなんです〜。大学までずっと一緒で。しかも私たちの学校は卒業してからも頻繁に集まりがあるから、しょっちゅう顔を合わせているんですよ」

綾乃と穂花の出身校は都内でも有名な女子校で、泣く子も黙るお嬢様学校である。

そのお嬢様学校出身だと聞いて、太郎は二人の醸し出す独特の“女の子らしい”雰囲気に納得した。所作が丁寧で、話し方もゆっくり。そして女性同士の距離も近い。

「女子校とか未知の世界すぎて分からないけれど、楽しそうだね」

太郎は大学から共学だが、中高は男子校だった。

男子校は楽しかったが、むさ苦しい男ばかりの学生生活には、花が全くなかった記憶しかない。彼女と一緒に登下校したり、女子マネージャーがいる学生生活に大層憧れたものだ。

「今になっては良い思い出だけど、大学に入ってから、女子と一緒に机を並べて勉強するのに最初は戸惑ったな〜。戸惑うというか、嬉しさの方が勝っていたけど」

そう懐かしがって笑うと、宏美が不思議そうな顔をしている。

「そっかぁ〜。私も女子校だけど、そこまで意識しなかったなぁ」

聞くところによると、宏美も2人に負けず劣らずの名門女子校出身のようである。宏美はさっぱりしているタイプで男友達も多い。すると、綾乃が素っ頓狂な声を出す。

「そうなんだ〜!宏美さんって男女問わずオープンだし、こういう場も慣れてるから意外〜!」

“分かる〜”と言いながら、綾乃と穂花も同感だったようで、二人でキャッキャとしている。

「そうかな?男性だからと言って、そこまで特別視はしないかも?男友達と二人でご飯とかもたまに行くし」

宏美がビールを飲みながら答えると、綾乃と穂花は更に驚いたような顔になる。

「え〜!!二人でご飯って、友達同士で?男性と二人で食事って、デート以外考えられないもん。まぁ向こうは何かしら狙いはあると思いますけどね」

「というか、宏美さんと太郎さんは、本当に何もないんですか?こんなにも仲良くて同期で、男女の関係にならないんですか!?」

「いや、本当に太郎ちゃんとは全く何もないけど」

宏美も慌てて否定するが、綾乃と穂花のゴシップ魂に火がついてしまったらしい。二人は追求の手を一向に緩めない。

しまいには、二人の窮屈な女同士のルールに巻き込まれてしまったのだ。


果たして太郎は幸せになれるのか?厄介な女同士の掟とは


「私、宏美さんに誰か紹介しようと思っていたけれど、太郎さんでいいじゃないですか!こんな素敵な人、中々いませんよ」

「あ、でも二人が付き合うことになったら、絶対報告して下さいね!今日プッシュしたのは私たちだから、ちゃんと報告待っていますよ!」

「そうそう。たまに付き合っても報告ない子とか、こっそり裏でデートしている子とかいるけど、ありえないよね。紹介したのに何も報告がない、とかは最悪だけど」

綾乃と穂花の会話を、他の参加者たちは黙って聞いている。

「なんでも話すのが、友達だから!宏美さんも、お願いしますよ♡」

「社会人になってから出会った人達って、そういうことに関して鈍感と言うか、礼儀知らずな人が多い気がして・・・。もし報告がなかったら、その時は“村八分”ですから気をつけてくださいね!なんちゃって♡」

-め、め、面倒くセェ・・・・

綾乃と穂花の発言に、太郎は思わず心の声が顔に出てしまった。女性同士の“ホウレンソウ”。こんなにも厄介なことがあるだろうか。

ふと隣を見ると、宏美の顔に“面倒くさい”と書いてある。

解散後、結局今夜も宏美と二人でパレスホテルの『プリヴェ』にて反省会コースとなった。




「私さ、友達とかに何でもかんでも明け透けに、プライベートのことを話すの嫌いなんだけど」

宏美の発言に、太郎は黙って頷く。明らかに、宏美と彼女たちはウマが合ってなさそうだ。

「たしかにね・・・プライベートでも“ホウレンソウ”求められたら辛いかも」

世の中には、様々なタイプの女性がいる。

今回の場合、2人の性格が悪いとは思わないが、男としてはなるべく勝手にやってほしい領域の話だ。何か言ったら完全にこちらも巻き込まれそうな雰囲気だった。

「まぁでも二人とも可愛かったし、良しとしよう!」

太郎の発言に、宏美はケタケタと笑っている。

「出た!このお人好し!でもさ、男女の友情って成立すると思うんだけどなぁ。太郎ちゃんは、どう思う?」

太郎も男女の友情は成立すると思っているし、何人か女友達もいる。しかし宏美のように“成立する”と思っている子もいれば、実は2人で食事に行くだけでデートだと思っている女の子もいたのだろうか。

「僕は成立する派かな。とは言え、あの子達を敵に回すと大変そうだね・・・」

「何といっても“村八分”にされるからね(笑)女同士の付き合いって、ややこしいのよ」



これまで「女を見る目がない」と散々言われてきた太郎だったが、最近はようやく女性の本性が分かってきた。

女性たちの世界は、男が考えるよりずっと大変そうである。複雑な思惑が飛び交う場面でも、男たちはほとんど気づかず、表面的な部分だけを見ていることが多い。

でも、もしかしたら気がついていたとしても、巻き込まれたくないゆえに敢えて見ないフリをしているのかもしれない。

先ほどからずっとスマホが光っている。太郎を特に気に入っていた綾乃からのLINEだろう。宏美はそれを目ざとく発見しこう言った。

「まぁ何でもいいんだけど、太郎ちゃんも変な女にだけは引っかからないようにね」

「ふふ。気長にのんびり探すよ」

こんな忠告をしてくるなんて、もしかしたらさっぱりしてるように見える宏美にも、違う一面があるのかもしれない―。

太郎はそんなことを考えながら、バーから見える美しい東京の夜景を眺めていた。

―Fin.