ーこの人と離婚して新しい人と再婚すれば、簡単に幸せになれると思っていましたー

これは、高い恋愛偏差値を誇る男女がひしめき合う東京で、

再び運命の相手を求め彷徨うことになった男女のリアルな”再婚事情”を、忠実に描いた物語である。

時間軸にシビアな女たち、女性に幻想を抱き続ける男たち。

そんな彼らが傷つき、喜び、自らが選んだ運命に翻弄されてゆく…

さぁ、では。彼らの人生を、少しばかり覗いてみましょうか。

夫の不倫によって離婚を決意した秋元カナ。女友達に離婚パーティを開催してもらい何とか立ち直るが、デート相手に暴言を吐かれたり、社内の年下男子に振り回されるなど再婚活はうまくいかない。

親友・亜美にルームシェアを提案されるもののなんとか断り、ようやく自分らしい日々を取り戻した矢先、カナは同じバツイチでエリート弁護士の岡部と出会う。ついには、知り合ってから2ヶ月というスピードでプロポーズされたのだった。

その頃、亜美は…?




上本亜美:友人の幸せを喜べない醜い自分を、必死で抑え込む


「やっぱり素敵なところだと、ワンルームでも最低家賃は13万円かぁ…」

上本亜美(31)は、六本木・けやき坂のスターバックスで、スマホを片手にもう20分も広尾周辺の物件情報を眺めている。

ー離婚したばかりの親友のカナとルームシェアをすれば、広尾や白金で暮らせるかも?

一度は都心のオシャレなエリアで暮らしてみたい。そう感じた亜美が思い切ってルームシェアを提案してみたものの、カナからの返事はつれないものだった。

学生の頃は、まるで姉妹のように一緒に過ごしていたカナと奈緒子。だが2人とも結婚してしまい、奈緒子には子供までいる。

ー私だけが、置いてきぼりだ…。

そんな風に焦りや不安が押し寄せていた頃に、カナがバツイチとなり、自分と共に婚活をすると言ってくれた時は、不謹慎ながら実はとても嬉しかった。

だが、カナは次第に食事会には行かなくなった。それなのに、離婚して1年もしないうちに再び男性からプロポーズされたというのだ。しかも、同じバツイチのエリート弁護士から熱烈にアタックされているのだと。

「どうしてカナばっかり…」

最近は仕事も上手くいかず、イライラ・モヤモヤする日々が続いている。

友人の幸せを素直に喜べない自分に素直に落ち込む亜美だったが、不運はまだまだ始まったばかりであった。


絶不調の亜美が、婚活のため食事会に繰り出すも…?


お食事会相手からスタンプ1つで対応されてしまう、over30の女。


「では、カンパーイ!」

今夜は、エントランスから神秘的な水中スペースが広がる恵比寿のレストラン『ラグシス』で、亜美の後輩女子から誘われた2on2のお食事会だ。




「本当にすごーい!ここ、ウミガメもいるんですよね〜♡」

職場の後輩である絵里子は、28歳。小柄で童顔、なのに胸は大きいという、一緒に戦うには不利な相手だが仕方がない。最近は食事会の誘いも減りだしているので、こうして呼んでもらえるだけでもありがたいのだ。

亜美は、ウミガメを必死で撮影しようとする小動物系女子・絵里子を横目で眺める。

ーウミガメなら、私は美ら海水族館でたっぷり見たことあるからいい…!今夜はウミガメより、未来の結婚相手を探しに来たんだもの!

亜美は落ち着いて、先ほど自己紹介をしてくれた男性陣の顔を改めて眺めた。

1人は渋谷でウェブメディアを運営するスタートアップのイケメン経営者・33歳で、見かけは少々チャラい。こちらが絵里子の友人であるという。

そしてもう1人は、いかにも爽やかな公認会計士・34歳。外見の清潔感といい物腰といい、亜美の超・タイプである。

ーこの人、久々に当たりだ…!

しかも、いわゆる大手の監査法人ではなく、父親の経営する会計事務所に勤めているという。カナや奈緒子に恋人として紹介するとしても申し分ないレベルだわ、と亜美は早まった計算をする。

ところが。

「そうなんです、亜美さんは職場の先輩ですごくお世話になっています!この通りすっごく美人だし、それに面白くて優しくて、ランチに行くといつも楽しいんです」

食事会の間中、絵里子は終始亜美を褒め、持ち上げる。しかもそれが裏のある感じではなく、まるで心地よいボサノバのような、よどみないテンポで繰り出されるのだ。

こちらが褒めかえす隙もなく、亜美はただただ癒されてしまう。

そしてそれは男性陣も同じだったようで、スタートアップも会計士も、小動物な見た目にして聖母のようなキャラの絵里子に前のめりになっているのが分かった。

ーこりゃ私はダメだわ…。

全員でLINEを交換したので、会計士に"今夜はごちそうさまでした!また是非飲みに行きましょうね♩"とメッセージを送ってみたものの、彼からはおざなりにスタンプがひとつ送られてきただけ。

「脈なし過ぎるでしょ…」

全身のやる気が抜けた亜美だが、やっとの思いでメイクを落とし、根性で美容液を塗りこむとすぐにベッドに倒れこんでしまった。


不運はさらに続き、ついに亜美がとんでもない行動に?


…なんで私だけ不幸なの?


「うそ、2kgも増えてる…」

忘年会シーズンということもあり、たしかに最近夜に飲み歩く日々が続いていた。

しかし、たった数日間体重を計ってなかっただけなのに、2kgも太っているとは予想外だった。心なしかフェイスラインも浮腫んでいる。

ー今日はせっかく美香にホームパーティを開催して貰う日なのに…!

カナにエリート弁護士を紹介したという美香に、自分から”素敵な独身男性を紹介して”と頼んでおいたというのに、今日のルックスのコンディションは最悪と言って良い。

昨晩は実りのない食事会だったため、ついついその後ストレス発散に女友達とカラオケに行き、帰宅は2時。

結局、洋服もきちんと選べぬままミカの家に向かうことになってしまった。




「亜美、いらっしゃい!」

重厚な扉が開かれ、幸せがそのまま顔に表れているかのような、バラ色の頬をした美香が出迎えてくれた。

傍で微笑む彼女の夫も、いかにも成功者という風貌をしている。

ーいいなぁ。こんな素敵な家でこんな素敵な旦那さんと暮らせるなんて、美香、本当に幸せそう…。

高級レジデンスでのホームパーティには呼ばれ慣れている亜美だが、そこで実際に暮らしている友人には心の底から憧れてしまう。

そして自分と仲間だと思っていた親友のカナも、もうすぐこんな暮らしを手に入れるかと思うと、得体の知れないモヤモヤとした感情が胸を刺激した。

そんな亜美の様子とは対照的に、美香は朗らかな声を出す。成功者の余裕だ。

「今日はね、少人数だから私がお料理したのよ。簡単なものも多いけど、クリスマスを意識してみたの」

促されるまま席に着くと、ドアのインターホンが鳴った。

「こんにちは、梅田です」

ミカの夫の知人だという梅田は、37歳。郊外の、父親の経営する歯科医院で歯医者として働いているという。

ーという事は将来は跡取りっていうことよね…?でも都心じゃないのか…。

亜美は自分のことは棚に上げ、ついつい相手を値踏みしていた。良くないことは自覚しているが、32歳ともなると、出会った男性の分だけどんどん理想が高くなってゆく。

さらに、なまじ美人とチヤホヤされてきた亜美には、斜め目線で相手をジャッジして、無意識に横柄な態度になる癖まで付いていた。

そんな亜美の態度に気がついたのか、梅田はあまり亜美に対して興味を示さない。

美香が必死に盛り上げようとしてくれるが、会話は盛り上がらなかった。

そのうちにミカの夫と梅田が仕事の話を始めたので、話についていけない亜美はいたたまれなくなってしまう。

ー私の何がダメなのよ…!ルックスなら美香やカナに負けてないのに、私だけ何もないなんて…。

手持ち無沙汰の亜美は、おもむろにInstagramを開く。

すると、まずハリー・ウィンストンで買い物をしているらしいカナのストーリー投稿が目に入る。

…どうしようもなくイライラした。

亜美は、自分が今、とても醜い顔をしていることには全く気がついていない。紅茶を淹れてくれた美香にカナの投稿を見せ、こんなことを口走ってしまう。

「ねぇ、見て。カナ、もう指輪買いに行ってるみたい。離婚してまだ1年も経ってないのに、再婚するなんて本当に大丈夫なのかねー。親にも反対されてるらしいよ。まぁ、私でもどうかと思うもん。だってカナって…」

「…え?カナって、何かあるの?」

夫の同僚を紹介した手前、気になるのだろう。美香が前のめりになってきたので、ここのところ冴えない日々が続いていた亜美は、無意識に親友の悪口を口走っていた。

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思わず友人の悪口をふきこむ亜美。カナは無事に、岡部と再婚できるのか?