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美しい嵐が通り過ぎ、新しい朝がきた!

フィギュアスケートGPファイナル・女子シングル。この試合は女子シングルに新しい時代がきた節目の試合として語られることになるでしょう。女子シングルの新女王・紀平梨花さんの登場。シニア参戦初年度での優勝というトピックも話題性はありますが、それ以上に、この優勝は女子シングルの新時代が訪れたことを示すという意味で節目となるものでした。

「高難度ジャンプを組み込まなければ、もう勝てない」

技術・構成を煮詰めていくなかで、近年の女子シングルは天井に到達していました。平昌五輪ではルール上のわずかな得点上昇を狙って、演技後半にすべてのジャンプを組み込むような演技構成まで生まれたほど。ほんの少しの出来栄えの差…0.01点の積み合いで勝負を決するような戦い。それは明らかに天井であり、ある種の「閉塞」でもありました。

その天井付近での戦いを制したオリンピックチャンピオン・ザギトワを、同じレベルで競い合える土台の上にトリプルアクセルという冠を載せた紀平梨花さんが軽やかに上回っていったこと、それこそがまさに時代が移行していくことの象徴です。

土台の部分で隙や不足を見せるような選手がいなくなるほど全体の質が向上していけば、そこに大技を載せた選手が勝つのは当たり前の話。男子シングルが真・4回転時代を迎え、4回転ナシでの勝ち負けはあり得なくなったように、女子もまた一歩先へと戦いが移行した。トリプルアクセル、あるいは4回転がなければ「もう勝てない」という時代に。

紀平さんを「上回って勝つ」には、もはや高難度ジャンプで基礎点を伸ばすしかありません。ほかの要素で引っくり返すには、トリプルアクセルとダブルアクセルの基礎点の差である4.70点×3本は大きすぎます。「ミス待ち」とか「体型変化待ち」という消極的な作戦もゼロではないでしょうが、時代が移行してしまえば「待つ」対象はひとりだけでは済まなくなります。

同じ日のジュニアGPファイナルでは、ロシアのトゥルソワ選手やシェルバコワ選手が複数の4回転ジャンプを含む構成の演技を披露していました。ふたりともまだ14歳ということで、この先もずっと同じ演技構成をできるかはわかりませんが、まるで男子のような演技構成へのトライはすでに始まっています。多くの選手が新時代の構成に挑むようになれば、紀平さんでなくとも誰かがノーミスの演技はするでしょう。絶対に「金」を欲しいと願うなら、新時代の演技をするしかないのです。

それが紀平さんが壊し、再生した、新時代の女子シングルなのだろうと思います。

この先の3年、北京五輪までの時間を「相手が下回ってくれるのを待って過ごす」か、相手を上回るために自分を変えていくことに費やすか、それは選手それぞれの考え方です。ただ、絶対に金を欲しいと願うなら自分を変えるしかないのだと、日本の紀平梨花さんが2018年のGPファイナルで答えを出しました。むしろ、その答えがいち早く出たことを世界は喜ぶべきかもしれません。北京五輪まで3年、自分を高める時間があるのですから…!



迎えたフリーの舞台。1番滑走のサモドゥロワはミスなく、全体の質が高い演技。曲調とマッチした振り付けは印象的で、試合なのにショーを見るかのような楽しさがあります。フリー136.09点トータル204.33点という素晴らしいスコア。しかし、たったひとり滑り終えた段階で「メダルはないだろうな…」とわかってしまう。それぐらい異次元なファイナルとなっている今季です。

2番滑走は日本のエース・宮原知子さん。ジャンプ改革に挑んだという今季、ここまで好調だったジャンプでこの日は苦しみます。見た目にはミスのなく、速報の技術点でも高いスコアが出ていきますが、最終のスコアは回転不足の指摘で大きく目減りすることの連続。演技序盤のトリプルルッツ+トリプルトゥループのコンボ、演技後半のトリプルルッツは回転の不足で大きくマイナスとなり、順位は上げられず。

ただ、演技最後のレイバックスピンは、自身二度目の「出来栄えオール+5」となる素晴らしい実施。前回の+5よりも、この日のもののほうがよりよかったと個人的には思いますので、出来栄え+6をあげたくなるようなスピンでした。「同門の後輩が大活躍」というのは状況としてなかなか難しい部分もあるでしょうが、そういう人間としての戦いで頑張れるだろうことも宮原さんの強み。できることをひとつずつ。全日本でこれぞ宮原知子の演技というものを見せてください。

↓200点超えて不調と言われるのも厳しいが、そういう世界にしてきちゃったのは自分たちだからしょうがない!

むしろ全日本のほうがチカラ出るはず!

吐き気がするような緊張感のなかでこそ、変わらない強さが光る!


3番滑走は日本の坂本花織さん。「五輪に出たのがまぐれと言われないように」というコメントも流れていましたが、逆にコチラが「そんなこと気にしてたのか」とパーンと背中でも叩きたくなるような演技で、この日も堂々と表彰台争いに臨みます。

その意味で惜しまれるのは演技後半の3連続ジャンプでの転倒。転倒をすれば出来栄えで「−5」されるなかで、このコンボは必ずしも全員が「−5」をつけたわけではありません。マイナス5してもなお残るだけのプラスが本来はあったということです。ふたつめのジャンプの時点でグラッときていたわけですから、そこでのとっさの「跳ばない」判断というものがあれば、出来栄えのロスや転倒のマイナス1点を抑えていけたように思います。ショート、フリーあわせて6選手で転倒はこの1本だけでしたので、今の女子シングルでは4位もいたしかたないところでしょう。次、次、全日本では完璧な演技をしていきましょう!

↓コケても自己ベスト付近なのだから、ちゃんとやればもっと上にいける!

「私、思ったよりすごい選手かも…」とか今頃思ってたりするのかな!

思ってるよりすごいから!パーン!!

注目のザギトワは4番滑走。身体の成長か、一層伸びやかな手足から繰り出す大きな演技は、さすがオリンピックチャンピオンというもの。冒頭のコンビネーションでセカンドジャンプが1回転となる場面はありますが、ミスと言えるのはそれだけ。演技後半に組み込んだトリプルルッツ+トリプルループの大技も美しく決め、フリー148.60点、総合226.53点の高得点で残りの演技者を待つことに。

演技後の表情はやや険しく、満足のいかない試合だったでしょうか。追う立場であった五輪とは一転して追われる立場で迎えたGPファイナル、難しくも貴重な経験となったことでしょう。こちらもまだ16歳、これから本格化する未来の選手だけに、この試合がまたひとつキッカケとなるといいなと思います。平昌のザギトワよりも北京のザギトワのほうが上になる、それでこそこれからの3年がまた面白くなるというものです。

5番滑走は日本の坂本さんと表彰台を争うトゥクタミシェワ。冒頭のトリプルアクセルはやや乱れますが、しっかり決めて、つづくルッツ+トゥの3回転コンボにつなげます。トリプルサルコウ+ダブルアクセルのジャンプシークエンスは、得点を伸ばすためにも効果的な新しい取り組み。アクセル大好きっ子界隈では、今後流行していくパターンかもしれません。演技後半にはクリムキンイーグルから観衆を煽っていく、今季イチ盛り上がるムーブも披露し、この舞台そのものを楽しんでいくかのような場面も。まぁとにかく、リーザがここまで戻ってきてくれたのは「実質日本勢」という意味でも嬉しいですね!

↓「山あり谷あり、それが私」という人生の名言が、別の意味に聞こえてしまったので、ちょっと滝にでも打たれてきます!

山ボンッ!谷キュッ!

エキシビションもよろしくお願いします!



そして最終演技者として登場の紀平梨花さん。「ノーミスなら勝ち」「ワンミスでもたぶん勝ち」「ツーミスでようやく微妙」というあたりを自覚していたかはわかりませんが、この日も「A Beautiful Storm」は美しく吹き荒れます。まず冒頭のトリプルアクセルはダウングレードでGOEも−5となりますが、お手付きで止めて転倒にはいたりません。1本目がミスとなるなかでも調子自体は悪くないということで、つづけて跳んだもう1本のトリプルアクセル、こちらは見事に決めてコンボもつけます。演技後半に持ってきたトリプルルッツ+トリプルトゥループのコンボ、トリプルルッツから始まる3連続も含めて、大技を次々と決めていきます。

そういった大技だけでなく、ジャンプからつづけざまに入るスピンや、曲調とよくシンクロしたつなぎの演技、出来栄えでも高く評価されたレイバックスピン、ひとつの蹴りで大きく伸びるスケーティングなど、質の高さを全方位的に見せていきます。大会を通じてシットスピンのポジションには課題があるのかなというところもありますが、そうした課題は新時代の演技によって当面覆い隠せる部分ですし、将来的に言えば伸びしろでもあります。

すでにオリンピックチャンピオンと伍する土台がありつつ、まだ伸びしろもある。フリー160点台、総合240点台の戦いまでは「今できることを完璧にやれば」見える。世界で誰も出したことのないスコアを、今持っているものだけで出せるチカラが紀平さんにはある。北京へ向けてこれから伸びていく新女王。すごい選手をまた日本は輩出してしまいましたね!

↓北京五輪でどれほどの選手になっているか、今から楽しみです!


直すところはなくて、伸ばすだけ!

日本のフィギュアはますます華やか!

新女王となったことで、これからの3年間というのは注目度も高まり、重圧というのも増していくことでしょう。ただ、そのあたりの不安というのが少ないのも紀平さんの凄み。肉体へのケアの意識も高く、高みを目指して自分の「仕事」に打ち込んでいくような姿勢もあります。周囲にいい先輩がいることも、重圧を和らげ、自分を高めていく後押しになるでしょう。

フィギュアスケートに限らず、スポーツは技術体力だけですべてが決まるものではなく、人間性こそが最後の鍵になってきます。一瞬だけ頑張るのではなく、何年もずっと頑張りつづける覚悟がなければ、頂点にはなかなか届きません。そのためには自分ひとりのチカラだけでなく、たくさんの人が「この選手を支えたい」と思い、その想いを自分のチカラに変えていける人物であることが必要だと僕は思います。そこが何となく大丈夫そうだなと思えるところが、とても心強い。

みんなのチカラを束ねて放つ、そんな北京へ。

期待と楽しみしかない時間が始まりました!

↓戦いのあとの笑顔もイイね!

敵は相手じゃなくて自分!

ライバルは自分を高めてくれる味方!

そういう選手が最後は勝つ!




新しい時代が五輪後すぐに始まったのは、みんなが進化できるチャンス!