天皇杯優勝を呼ぶ決勝点を決めた浦和レッズMF宇賀神【写真:Noriko NAGANO】

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前半13分、練習通りこぼれ球に右足を振り抜き鮮やかなダイレクトボレー弾を炸裂

 浦和レッズのMF宇賀神友弥にとって、積み重ねたトレーニングが報われた瞬間が訪れた。

 9日の天皇杯決勝戦でベガルタ仙台と対戦した浦和は1-0で勝利。決勝ゴールを生み出したのが、宇賀神の鮮やかなダイレクトボレーだった。

 決勝戦らしく落ち着きのない立ち上がりになった試合が動いたのは前半13分だった。右コーナーキックを得た浦和はショートコーナーでリスタート。MF長澤和輝が入れたクロスはクリアされたが、その落下点にいち早く飛び込んだのが宇賀神だった。ボールの落ち際を右足インステップで捉えたダイレクトボレーは、ドライブ回転とともに美しい軌道を描いて仙台ゴールに突き刺さった。

 このプレーは、オズワルド・オリヴェイラ監督就任以降にセットプレーを重要視していた浦和にとって練習で繰り返したものだった。チームメイトのGK西川周作は「こぼれたところにはウガ(宇賀神)が常に練習から良い準備をしていたので。練習ではよくゴールの上にボールが飛んでいましたけど(笑)、打っていたからこそ今日につながったと思いますからね」と少し冗談めかして話した。

 主将のMF柏木陽介は、ゴールが決まった後に「練習の賜物だね」と宇賀神に声を掛けたという。キャラクターの明るさからイジられることも多いタイプだが、チームのために全力でプレーする姿は誰もが敬意を払っている選手だけに、決勝ゴールのスコアラーとして名前を刻んだことを誰もが喜んだ。

今季限りで引退する平川に「『宇賀神、任せたぞ』と言ってもらえるようにしたかった」

 宇賀神にとって、この今季最終戦となる天皇杯決勝は特別だった。大学卒業後のプロ入りという同じキャリアの流れを持つ先輩のDF平川忠亮が、今季限りでの現役引退を表明していたからだ。常に「ヒラさんの背中を追いかけてきた」という宇賀神にとって、優勝カップを掲げて現役を締めくくってもらうというのは大きなモチベーションだった。それに加え、浦和ユース出身でもあり、浦和一筋のプロキャリアを積んできただけに、ここ数年のシーズン最終戦とチームを離れる選手たちの関係にも思いがあった。

「レッズの歴史に貢献してきた選手を良い形で送り出せてこなかったのが近年なので、本当に良かった。そういう選手たちが浦和を去っていく時に、自分はいつもピッチで何もできずにいましたからね。ヒラさんがカップを掲げる姿を見られて良かったし、ヒラさんに『宇賀神、任せたぞ』と言ってもらえるようにしたかった。こういう決勝で、自分がこういう立場になるのは想像できなかったですね。いつも最後まで出ていられずに交代ばかりでしたから」

 天皇杯で言えば3大会前、浦和が前回に決勝進出した試合が、元日本代表MF鈴木啓太さんが引退を表明してから迎えた最終戦だった。それでも、その時はガンバ大阪に敗れた。そうした過去からの積み重ねが、宇賀神にこうした言葉を選ばせたのだろう。

 殊勲の決勝ゴーラーは「努力に勝る天才はないですから」と話した。1シーズン、大きな負傷離脱もなくタッチライン際でのアップダウンを繰り返してきた背番号3に、最高のプレゼントが舞い降りた。そしてそれは、敬愛する先輩を送り出す最高の瞬間を生み出していた。(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)