各ジャンルで「学歴」はどんな影響を及ぼしているのか。今回、それぞれのジャンルで強い大学を徹底調査した。第3回は「人気企業就職」について――。

※本稿は、「プレジデント」(2018年10月1日号)の特集「高校・大学 実力激変マップ」の掲載記事を再編集したものです。

■なぜ早慶が選ばれるのか

早稲田大と慶應義塾大の2強が、圧倒的に強い――。大学生に人気が高い主要企業の就職者(2018年)の出身大学ランキングを見た率直な感想だ。業種別に見ると、メーカーの一部は旧帝大の国立大学を多く採用しているが、商社や金融、サービス、情報などは有名私大が上位を占め、早慶で1、2位を独占していることが多い。なぜか。

時事通信フォト=写真

「最も頭脳明晰な学生がいるのは東京大です。でも、東大生で特に優秀な層は、国家公務員になるか大学院に進むか。残りが一般企業に入ります。そうなると1学年の人数が多い私大、とりわけブランド力のある早慶がたくさん採用される結果になります」と、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏。

だが、世は史上まれに見る人手不足。海老原氏によれば、社員数1000人以上の大企業に就職できる人数は、「1970年代は約5万人。その後、バブル経済や就職氷河期などを経て、アベノミクス景気の今は劇的に増えました」

16年の雇用動向調査によると、1000人以上の大企業に就職した大学・大学院卒業者は29.6万人にのぼる。

「これだけ人数が増えているので、学生は大企業に極めて入りやすい環境にあります。しかし、大企業でも、人気ランク100位に入る企業ともなると採用規模は約3万人と桁違いに少ない。1企業当たりの文系採用数も100〜200人程度。会社説明会に呼べるのも5000人ほどでしょう。対してプレエントリーは数万人。採用担当者が全員を面接することは物理的に不可能。学歴フィルターで多くを“門前払い”しないといけない。こうしたプロセスにより早慶の比率が高まります」(海老原氏)

また早慶は各企業にOB・OGが多数いて、実績を積み重ねているから、「信用度」が高いのだという。

最近すっかり定着したインターンシップ(就業体験)は事実上の就活となっていて、企業は早慶を中心とした人材を早期に囲い込んでいると、人事ジャーナリストの溝上憲文氏は語る。

では、学生の企業選びの基準には変化はないのか。溝上氏が続ける。

「残業時間はあるか。あるなら何時間か。面接でそうした質問をする学生が多いそうです。昨今の学生は、仕事よりもプライベート優先。大学時代、学習塾や飲食店でアルバイトしたとき給与不払いや長時間残業などブラック体質の洗礼を浴びているため、卒業後に正社員で勤める企業では、そうした体質でないことが企業選びの重要な条件となっています。よって、不祥事やコンプライアンス違反といった問題を起こした企業は敬遠する傾向にあります」

■鉄道会社に強い、2大伝統校

航空会社への就職者数で、早慶に匹敵する躍進ぶりだったのが、英語教育に定評のあるミッション系の青山学院大、立教大、上智大だ。

鉄道会社に数多く卒業生を就職させた大学で目を引くのが、日本大や芝浦工大である。日大からJR東日本に59人(1位)、JR東海に19人(2位)入っている。芝浦工大もこの2社に計58人も就職している。実は、JR系にこの2つの中堅大学が強いのは例年のことで、機械工、材料工、電気工といった工学科から就職する者が多い。

一方、商社は慶應大・早稲田大の独壇場だ。三井物産、三菱商事、伊藤忠商事などでもこの2校が1、2位だ。

「商社の平均給与は30歳手前で1000万円を超える高待遇。若いうちから大きな仕事もできるため、人気は高いですが、採用数は100〜150人程度。そのため、OBが多数いることもあり、慶應大卒、早稲田大卒が採用される率が高くなります」(海老原氏)

■近畿大学の、手厚い就職支援

メガバンク、証券、保険の業界は学生の就職人気が高い。それは慶應大や早稲田大でも同じだ。両校の卒業生の就職先の上位10社(17年度)のうち、慶應大は6社、早稲田大は4社がこの「保険・証券・銀行系」だ。

2校が激しくトップを争っているのがわかる。三菱UFJ銀行、みずほFGでは慶應大が1位に、三井住友海上火災保険や損害保険ジャパン日本興亜、東京海上日動火災保険では早稲田大が1位に輝いている。

一方、ゆうちょ銀行、かんぽ生命などを抱え、業種や勤務エリアともに幅広い日本郵政グループはどうか。早慶もランクインしているが、関西大、東北学院大など地域の代表校が名を連ねる。なかでも注目したいのが近畿大だ。

「近畿大は就職支援に力を入れている大学のひとつです。内定者やOBが就職ガイダンスで説明会を開催してくれます」(海老原氏)

1年次から将来を見据え、目標設定や自己分析を行うほか、3年次の1月には就職活動決起大会を開催。例年2000人以上の学生が参加し、理事長・学長の激励に続き、OB・内定者約100人が学生たちにアドバイスする。

■パナソニックは、地元大学を重視

自動車や家電などの大手メーカーには、国立大学が上位にランクインしている。トヨタ自動車のトップは、地元大学の最高峰である名古屋大学で、東京大、京都大があとに続く。

「クルマの重要テーマは燃費やスピードより、自動運転、IT・IoTといった通信技術をいかに搭載できるかどうかに変わりつつある。そこで、情報工学や電子工学出身者を積極的に採用しています」(溝上氏)

パナソニックは「地元大学」の採用が多い。なかでも注目なのが神戸大だ。

「神戸大と一橋大と大阪市立大は三商大と言われており、神戸大は一橋大と同じ扱いをされます。でも、偏差値では一橋大のほうが高い。神戸大は、入りやすく、就活では有利になるお得な大学といえます」(海老原氏)

一方、都内に本社があるメーカーでは、国公立大出身者も多いが、軒並み早稲田大が1位に。特に日立製作所と富士通が群を抜いて多い。同大学からは、例年、この2社に50人前後が入社している。とはいえ、「企業トップの学歴によって、役員構成や採用方針が変わることもある」(溝上氏)ので、突然潮目が変わる可能性もある。

■立教大が力を伸ばす理由

「化粧品、雑貨、トイレタリー、食品などの日用品メーカーの主ターゲットは女性。それだけに、女性を積極的に採用し、女性が働きやすく昇進しやすい傾向にあります」(海老原氏)

例えば、花王は、社員の約半数が女性で、資生堂も「客の9割、社員の8割が女性」だ。また、資生堂は「1人採用」の全国各地の国私立大学が46校もある。北は小樽商科大から南は福岡工業大までバラエティー豊かだ。

「社員の多様性を尊重し、ダイバーシティを推進している資生堂らしい採用方針です」(溝上氏)

一方、サービス業のJTBグループでは、2位の立教大が力を伸ばしている。同大学には観光学部(前身は社会学部観光学科)があり、学生の多くは受験段階から旅行業界を志望。仕事に生かせる勉強ができるのだ。さらに「06年に新設された経営学部も早慶に次ぐ偏差値で、優れた人材を企業に輩出すると高評価を受けている。『ビジネス・リーダーシップ・プログラム』といって、企業と提携して企業の課題解決などに取り組むプログラムを大学1年生のときから実施するなど、人材育成に注力しています」(溝上氏)。

■有名大学生が殺到する、外資系コンサルの魅力

15年12月、新人社員の過労死問題で大きな批判を受けた大手広告代理店の電通。今春、就職した人数が最も多かったのは慶應大だった。2位の早稲田大(21人)に比べ38人と突出。例年、慶應大卒が多いが、17年に就任した慶應大卒の新社長の存在が今後の採用にどんな影響を及ぼすのか注目される。

出版メディアも早慶が強い。講談社、集英社とも早稲田大と慶應大がトップで、同数の卒業生を送り込んでいる。

一方、情報通信のNTTデータや、外資系コンサルティングのアクセンチュアでは、早稲田大は慶應大を上回る人数となった。

「東京大、京都大などの学生も志望することが多い外資系コンサルの魅力は給料の高さだけでなく、日系の大手企業に比べ、短期間で多くの仕事を経験してスキルアップでき、転職に有利だということもあります。例えば、アクセンチュアでは売上高の7〜8%を人材育成に投じて、入社後約3年で一人前に鍛え上げる手法を持っていると言われています」(溝上氏)

なお、量販店のニトリは、本社のある北海道の最難関・北海道大のほか、大阪大、九州大など地方の旧帝大出身の学生の比率が高い。

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海老原嗣生
雇用ジャーナリスト
1964年生まれ。人材マネジメント雑誌「Works」編集長などを経て、人事コンサルティング会社「ニッチモ」設立。
 

溝上憲文
人事ジャーナリスト
1958年生まれ。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。
 

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(フリーランス編集者/ライター 大塚 常好 撮影=奥谷 仁、村上庄吾 写真=時事通信フォト)