災害発生時、自衛隊のなかで最初に動き出す「FAST-Force」と呼ばれる部隊があります。彼らの担う役割とはどのようなもので、先の北海道地震ではどのように機能したのでしょうか。

北海道地震、夜明け前に11個部隊が出動

 2018年9月6日午前3時7分頃に、北海道胆振東部を震源とした震度7の地震が発生しました。


FAST-Force指定車両に取り付けられるマグネットのマーク(矢作真弓撮影)。

 未明の地震発生でしたが、防衛省は地震発生の2分後には災害対策本部を設置し、午前3時25分には航空自衛隊三沢基地所属のF-2戦闘機2機が、情報収集のために離陸しています。本来であれば「対領空侵犯措置」のために待機していた戦闘機なのですが、大地震発生にともなって「任務転用」され、被災地上空に向かったのです。

 陸上自衛隊は午前3時39分に、北部方面総監部(札幌市中央区)の連絡官(LO)2名が北海道庁に向け出発し、午前3時40分には北海道恵庭市の南恵庭駐屯地から、第7師団隷下第73戦車連隊の隊員35名が陸路で情報収集に向かいました。その後、丘珠駐屯地(札幌市東区)の第7飛行隊に所属するUH-1J多用途ヘリコプターやOH-6D観測ヘリコプターが次々と札幌飛行場(丘珠空港)を離陸していき、被災地上空からの情報収集を開始しています。

 また、海上自衛隊の掃海艇「いずしま」は、発災から約1時間後には38名の全乗員が集合して、すぐに函館から出港できる態勢を整えていて、青森県の海上自衛隊八戸基地に所属するP-3C哨戒機とSH-60哨戒ヘリコプターがそれぞれ上空からの情報収集のために離陸しています。


被災地に真っ先に駆けつけるFAST-Forceの1/2tトラック(矢作真弓撮影)。

機体の右側に映像伝送装置を取り付けるFAST-ForceのUH-1J多用途ヘリコプター(矢作真弓撮影)。

写真奥の救急車にはFAST-Forceのマグネットシートが取り付けられている(矢作真弓撮影)。

 まだ夜が明けない時間でも航空機を飛ばす理由は、暗闇だからこそわかる情報があるからです。それが、停電と火災です。

 日本の都市部や人家がある地域は、おおむね夜間であっても街灯が煌々と光り輝いていますが、停電となると非常用電灯や走行しているクルマのライト以外は真っ暗になります。また、火災が発生している場合は、夜間のほうが目立ちます。もし、飛び立った結果として「上空からの偵察結果異常なし」であったとしても、これは貴重な情報として活用されます。なぜならば、この後送り込む地上部隊の行き先を決めることができるからです。

 北海道胆振東部地震では、発災から1時間以内に、陸海空自衛隊の8個部隊が動きだしていて、午前5時3分の日の出時刻までに計11個部隊が出動しています。彼らこそ自衛隊の災害対応における初動部隊「FAST-Force(ファスト・フォース)」です。

そもそも「FAST-Force」とは?

 多くの自然災害に襲われる日本では、各自治体などによって防災対策が進んできています。それは防衛省・自衛隊にも言えることで、自衛隊はこうした災害発生時に真っ先に対処する、「FAST-Force」と呼ばれる部隊を待機させています。


被災地での救援活動もFAST-Forceの役割。写真はイメージ(矢作真弓撮影)。

 この「FAST-Force」とは「F=Fast(発災時の初動において)」「A=Action(迅速に被害情報収集、人命救助及び」「S=Support(自治体等への支援を)」「Force(実施する部隊)」として、2013(平成25)年9月から自衛隊内で呼称されているもので、従来は「初動対処部隊」と呼ばれていました。

 FAST-Forceの具体的な動きとしては、「震度5弱以上の地震が発生した場合は、速やかに情報収集することができる態勢」を保持し、「震度5強以上の場合は、航空機による情報収集することができる態勢」の保持が陸海空の共通項目となります。陸上自衛隊では、全国の部隊で約3900名、車両等約100両、航空機約40機が待機していて、発災から1時間以内に出動できるよう、指定部隊の隊員たちは24時間待機しています。

 海上自衛隊は、地方総監所在地ごとに1隻の対応艦艇を指定し、航空機は各基地で約20名の隊員が15分から2時間以内に出動できる態勢を保持しています。

 航空自衛隊は対領空侵犯措置のため、すべての戦闘機基地で発進命令後5分以内に2機の戦闘機が離陸できる体制「5分待機」を実施していて、ほか航空救難や緊急輸送のために約10機から20機の航空機が待機しています。震度5強以上の地震が発生した場合には、これらの航空機を「任務転用」し上空からの情報収集活動を行えるようにしていて、その離陸までの所要時間は15分から2時間と決められています。

遠出をするにも制限がつく場合が

 FAST-Forceに指定されている部隊の隊員たちは、自宅か基地(駐屯地)内で待機しています。それぞれの場所で待機している時に災害が発生し、その災害規模が基準に達していれば、24時間いつでも出動できるようにしているのです。そのため、遠出をすることができず、陸上自衛隊の場合は所属する部隊によって、外出時の行動範囲も定められています。


地上偵察部隊は、道路状況を確認しながら被災地へと向かう。写真はイメージ(矢作真弓撮影)。

 陸上自衛隊のFAST-Forceとして、広島県、山口県、岡山県、島根県、鳥取県を担当する第13旅団を例に挙げると、初動対処部隊先遣部隊という真っ先に出動する部隊が18個あり、計540名の隊員たちが待機しています。

 この部隊は、偵察オートバイや軽装甲機動車、高機動車といった車両で編成されていて、発災後、速やかに地上からの情報収集に出動し、おもに「倒壊家屋の状況」「道路の通行状況」「火災や水害の発生の有無」「人命救助の有無」などの情報を収集します。

 特に「道路の通行状況」は重要な情報で、もし、道路が陥没していたり、倒壊家屋によって通行できなかったり、橋が崩壊していたりする場合などは、後続の救援部隊本隊の移動経路を変更しなければならないため、必要な場合は迂回路の確認にも向かいます。

 こうして先遣部隊から得られた情報は、速やかに連隊などの司令部に伝達され、その情報は旅団(師団)司令部などに集約されます。また、各自治体からの救援要請も集まってくるので、司令部などでは各情報を基に、それぞれの部隊の規模と派遣先を決定します。

FAST-Forceが機能するための「当直」とは

 このFAST-Forceを機能させるために重要な役割となってくるのが、「当直」の存在です。ここでいう「当直」とは、勤務時間外において部隊の行動を統括する特別勤務者のことを指します。

 自衛官は「特別職国家公務員」ですので、通常であれば1日7時間45分の勤務時間を基準として、8時15分から17時までの時間を「勤務時間」といい、それ以外の時間を「勤務時間外」といいます(ただし、駐屯地などの規則によって、勤務時間に違いはあります)。


深夜の出発にも関らず多くの隊員に見送られる災害派遣出動部隊(矢作真弓撮影)。

 当直にもいくつか種類が存在し、陸上自衛隊の場合は駐屯地を統括する「駐屯地当直司令」、連隊などの部隊を統括する「部隊当直」、中隊などを統括する「中隊当直」などがあり、勤務時間外における発災時の情報収集と人員の管理がおもな役割です。この人員の管理にはFAST-Forceも含まれているため、当直の判断によって、必要となればFAST-Forceの隊員たちに呼び出しが掛かります。

 当直とは、決して表に出ない地味な存在ですが、部隊が休んでいる時には部隊の目となり耳となり、万が一の災害発生時には迅速に対応することが求められる存在として、重要な役割を持っています。


災害派遣部隊の装備を身につけて行進する石川県の金沢駐屯地第14普通科連隊の隊員たち(矢作真弓撮影)。

航空自衛隊の災害派遣用ベストを着用した隊員(矢作真弓撮影)。

FAST-Forceには航空自衛隊の輸送機も含まれている(矢作真弓撮影)。

 災害発生時に、その能力を最大限発揮して、様々な役割を果たすFAST-Forceですが、彼らがいるからこそ、自衛隊は迅速な人命救助活動を展開することができるのです。

 迅速な対応には、平素における各自治体や関係機関との緊密な連携も重要になってきます。防衛省・自衛隊は、各地で行われる防災訓練や協議会などを通じて、地域に密着した防災組織の一部として常に備えているのです。

【写真】被災地へ向かう陸自FAST-Force隊員の、リュックの中身の一部


陸上自衛隊のFAST-Forceが持つ装備品の一例(矢作真弓撮影)。