一流企業のエース社員は、どうやって資料を作っているのか。今回、5つの企業にプレゼンテーションのスライド資料を提供してもらい、その作り方の極意を聞いた。第5回は大和ハウス・石塚隆之氏のケースについて――。(第5回、全5回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年7月30日号)の特集「できる人の資料術」の掲載記事を再編集したものです。

■鳥の鳴き声など環境音まで加える

パワーポイントの活用法は日進月歩で進化している。その最先端の例が、パワポをほかのソフトと連動させ、動画や音声などのデータを取り込むことで、以前と比べて5倍超の受注率へ引き上げた大和ハウス工業の石塚隆之さんの活用法だ。

社内コンペで最優秀賞の石塚さん担当の物件。

一級建築士の資格も持つ石塚さんの担当は、オフィスビルや店舗、そして病院や図書館といったデザイン性も要求される大型施設について、全体の構想を施主に提案する「企画設計」だ。

その石塚さんが4年ほど前から始めたのが、「BIM」という3D設計システムで作成した建物の設計図に基づく完成予想図のパワポへの落とし込み。「それ以前は、よくある平面の設計図を単線で書き込んでいたのですが、立体図のほうがわかりやすいからです」(石塚さん)。

しかも、3Dの建物を回転させ、あらゆる角度から外観や内観を見ることもできる動画なのだ。さらに、CG(コンピュータ・グラフィックス)のイラストや実際に撮影した風景の動画なども挿入し、建物の具体的なイメージが湧きやすくしている。また、鳥の鳴き声などの環境音やBGMまで加えるといった凝りようだ。

M市の図書館建設でのプレゼンでは介護施設も併設し、そのなかには多目的用途の大会議室も提案。そして、大会議室の3D画像をパーティー会場に切り替え、料理を並べたテーブルや招待客のイラスト、歓談している人の声などを入れる凝った演出も加えられ、見ている人をあたかもパーティーに参加しているような気分にさせる。

驚くことにそうした動画を、石塚さんは外注せずにすべて自分でつくっている。組み入れるイメージ画像の撮影なども自前でこなすという。「そのほうがコストも時間もかからないし、自分たちのイメージどおりの資料がつくれるからです」(石塚さん)。その動画制作のスキルは独学で身に付けたそうだ。

写真=iStock.com/Asurobson

もちろん動画だけではない。石塚さんのパワポ活用の工夫は多岐にわたっている。最初のつかみも重要で、心に刺さるキャッチコピーを練ってプレゼンする建物のイメージを一言で伝える。「M市へのプレゼンでは図書館に介護施設を併設したことで、『本でつながる交流の広場』というキーコンセプトを考えました。そして、冒頭で高齢者と幼児が一緒に遊んでいる動画を背景に入れることで、聞き手の印象に残りやすくするわけです」と石塚さんは話す。

■イメージどおりで、リピートも増加

また、聞き手にアピールするための動画を組み込んだシートと、説明用データを詳細に盛り込んだシートを分ける。後者では色使いに気を配る。「環境を重視する建物であれば、文字や図表にも“緑”を多用して、プレゼン内容のイメージ全体に統一感を持たせます。そして、個々のシートのなかに強調したい文字や図表があれば、緑の補色に近い“オレンジ”を使って少しでも目立つようにしています」と石塚さん。

パワポ資料には建物の設計図も入れるのだが、無味乾燥なものではなく、机やイスなどの備品を描き込むことで、見た人がイメージしやすいように努めている。また、建物の外には線画を使って手描きした木々や植物を配する。まさに“神は細部に宿る”を実践しているわけだ。

実は、動画のメリットはプレゼン以外にもある。「実施設計を現地の事業所に引き継ぐケースが多いのですが、立体動画があると、事業所の設計担当者にも建物のイメージが正確に伝わるのです」と石塚さんは話す。その結果、「プレゼンのときのイメージどおりに建物ができた」と施主の満足度も高く、リピートの受注も増えるそうだ。

時間もコストもかけられる高額案件のプレゼンであれば、ぜひ見習ってみたい。

Getty Images=写真

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石塚隆之
企画開発設計部 企画・デザイングループ主任。1980年、愛知県生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科(妹島和世研究室)修了。2012年に入社し、企画開発設計部に配属される。パワポは独学で、利用歴6年。
 

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(ジャーナリスト 野澤 正毅 撮影=石橋素幸 写真=Getty Images、iStock.com)