1982年12月4日、スティーヴン・スピルバーグ監督の名作『E.T.』が日本公開されたことを記念して、12月4日は「E.T.の日」とされている。

『E.T.』は、1997年にアニメ映画『もののけ姫』に抜かれるまで、国内上映の映画史上最高額の配給収入を記録していたモンスター級大ヒット映画。この作品により、世界的ヒットメーカーの名を不動のものとした。

スピルバーグといえば、多くのSF映画を世界に送り出した映画監督というイメージがあるが、実は監督ではなく製作者として関わる作品も多い。

今日は「E.T.の日」にちなんで、スティーヴン・スピルバーグがこれまで監督または製作総指揮を担ったSF映画10本をご紹介しよう。

製作総指揮

『グレムリン』(1984)

発明家の主人公が、チャイナタウンの骨董店で珍しい生き物を見つけ、息子のクリスマスプレゼントとして購入したが、飼育方法の手違いが原因で、街がパニックに陥ってしまう。

監督はジョー・ダンテ。グレムリンとは小鬼のことで、飼い主が3つの約束を守れなかったことにより、普段は愛らしいペットから凶悪なグレムリンが発生して大騒動を起こすSFブラックコメディである。サターンホラー映画賞を受賞。続編の『グレムリン2/新種誕生』(90)もスピルバーグが製作総指揮を務めている。 

グレムリンは宇宙より飛来した生命体(宇宙人)であるという設定で、当時大学生だった若者が執筆した脚本をスピルバーグが気に入り、大抜擢をして映画化。その後彼は、スピルバーグ設立の映画会社に入社し、再びスピルバーグと組んで『グーニーズ』(85)『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』(85)の脚本を担当。のちに『ハリー・ポッターと賢者の石』(01)の監督を務めたクリス・コロンバスである。

『インナー・スペース』(1987)

人間縮小計画の実験で、ミクロ化されてウサギの体内に入るはずだった主人公は、研究施設がスパイに襲撃されてしまったトラブルにより、誤ってスーパーの店員の尻に注入されてしまう。

監督はジョー・ダンテ。アカデミー賞視覚効果賞を受賞したSFコメディである。体内で繰り広げられる冒険映画としてはすでに名作『ミクロの決死圏』(66)があるが、こちらは、主人公がその店員と協力して脱出するという奇想天外なストーリー展開が特徴。ちなみに、言語アドバイザーはビートたけし。

スピルバーグはエグゼクティヴ・プロデューサーの1人として参加しているが、コメディとアクションが絶妙に融合されたこの脚本に、最初は大変興味を示していたらしい。しかし、結局スピルバーグはプロデュース業に回ることを決意。スピルバーグという人は、やはり総合的な視点から興行的判断を下せる映画人なのである。

『ニューヨーク東8番街の奇跡』(1987)

1980年代のニューヨークの東8番街では、再開発の波が押し寄せ、安アパートの住民たちが立ち退き騒動で疲れ果てていた。そこへUFOのような物体が現れ、彼らを地上げ屋から守ろうとする。 

監督はマシュー・ロビンス。心温まるSFコメディである。そのUFOは自我のある生命体で、意志を持って住民たちを助けようとしているところが、単なるUFOとの遭遇とは違っていて斬新。なので、人間と理解しあう姿が天使か妖精のよう。SFというよりファンタジーに近いだろう。

この監督は、『コルベット・サマー』(79)で監督デビューを果たして注目されたものの、当時は不遇の時代に甘んじていた。そんなとき、スピルバーグが与えてくれたチャンスに応えて見事に復活。CGを駆使する時代ではなかったので、全てミニチュアを使用して特撮で作られ、その手作り感が温かい物語にマッチしている。

『メン・イン・ブラック』(1997)

ニューヨーク市警察の刑事は、追い詰めた犯人が飛び降り自殺をしてしまった時、様子がおかしかったことに気がついたが、のちに謎の黒服の男から彼が宇宙人だと知らされる。

監督はバリー・ソネンフェルド。アカデミー賞最優秀メイクアップ賞のほか、ゴールデングローブ賞最優秀作品賞(コメディ/ミュージカル)受賞。“メン・イン・ブラック”とは、UFOや宇宙人に遭遇した人たちのところに現れ、脅迫的な圧力をかける黒服の男たちのこと。これはそのアメリカの都市伝説をパロディ化したSFコメディ・アクション映画である。大ヒットによりシリーズ化され、のちTVアニメにもなった。

当初はエージェントK役にクリント・イーストウッド、監督にはクエンティン・タランティーノが打診されていたという。映画では、有名人の姿をして地球に潜伏している宇宙人としてスピルバーグの名前が挙げられるといった笑いを誘うシーンがある。ちなみにスピルバーグは、2019年公開予定のスピンオフ作のプロデューサーも務めるそうだ。

『トランスフォーマー』(2007)

2003年、火星に打ち上げた探知機とNASAとの交信が途絶えてしまうなど、世界中のあらゆる場所で同時期に奇妙な現象が起きる。それは地球上のテクノロジーをスキャンする知能を持つ金属生命体「トランスフォーマー」の仕業だった。

監督はマイケル・ベイ。“変型するロボット”をテーマとした玩具・アニメーション・コミックシリーズを実写化し、地球外生命体と人間との攻防を描いたSFアクション超大作である。ちなみにシリーズ最終章第一弾『トランスフォーマー/最後の騎士王』(17)は、スピルバーグから「シリーズ最高!」というお墨付きをもらったそうである。

当初はスピルバーグが監督するつもりだったが、多忙のために時間が割けず、脚本を読んで「自分よりも若い監督が撮るべきだ」と判断。製作総指揮として作品に関わることになり、監督には経費節減のアドバイスをして、制作費を大幅に抑えることに成功したという。

『カウボーイ&エイリアン』(2011)

1873年アメリカの砂漠で、体に傷を負い、記憶を失くした主人公が、自分を襲ってきた強盗たちをすさまじい殺傷能力で倒してしまう。

監督はジョン・ファヴロー。ダニエル・クレイグとハリソン・フォードという夢の競演が話題を呼んだ。自分が何者かを探る手掛かりが、手にはめられた腕輪と女性の写真だけというサスペンス的なSFアクション。設定が『ボーン・アイデンティティー』(02)を彷彿とさせるが、人間同士の争いではなく、宇宙からの脅威に立ち向かうヒーローものである。

スピルバーグは、監督と脚本家に『駅馬車』(39)や『砂塵』(39)、『荒野の決闘』(46)といった西部劇の名作を見せて、映画の作り方について直接レクチャーを行ったという。タイトルからもわかるように、この作品が西部劇の要素を色濃く反映しているのは、そのためである。

製作

『SUPER 8/スーパーエイト』(2011)

1979年アメリカのオハイオ州で、8ミリカメラで映画撮影をしていた主人公と友人たちは、たまたま貨物列車の衝突事故を目撃してしまい、脅迫めいた口止めをされる。

監督はJ・J・エイブラムス。アメリカで実際に起こった事故をもとに、政府が隠す極秘事項の一部始終を偶然カメラに記録してしまった少年たちが、真実を暴いていく過程で成長する冒険物語。貨物の正体は何か。そのあっと驚く展開がみどころだ。今やハリウッドのトップ女優の一員となったエル・ファニングが出演。

ストーリーの制作にはスピルバーグも参加したそうで、スピルバーグが1970〜80年代に監督したSF映画『未知との遭遇』(77)や『E.T.』(82)などに対するオマージュ的な要素を含んだ作品だといえよう。

監督

『未知との遭遇』(1977)

電力会社に勤務する主人公は、停電の知らせを受けて出勤する途中、強い光に包まれた車の中で物体が宙に浮くのを見てしまい、空を見上げると謎の物体が飛び去っていくところだった。

砂漠で数十年前に行方不明になっていた飛行機が、新品同様の状態で発見されたり、航空管制塔に、赤と白の光を放つ飛行物体とすれ違ったという報告があったりと、どれも現実にありそうな出来事である。宇宙人と人間がどのようにコミュニケーションをとるのかがみどころ。アカデミー賞撮影賞と特別業績賞(音響効果編集)受賞。

のちに『特別編』(80)と『ファイナル・カット版』(02)がリリースされ、それぞれの差異については詳細な解説がある。自作映画にしか出演しないSF嫌いの監督フランソワ・トリュフォーが出演しているのは、スピルバーグが出演を懇願し続けて実現したとか。スピルバーグ監督にとっては、SFファンタジー映画の原点。

『E.T.』(1982)

主人公の少年が、自宅の物置で音がしたことに気づいたが、中には誰もおらず、不思議な形をした足跡だけが残されていた。

当時の映画史上最大の興行収入を記録し、日本でも社会現象になるほど大ヒットした。スピルバーグは製作も手がけ、ゴールデングローブ賞ドラマ部門作品賞ほか、アカデミー賞音響効果賞視覚効果賞や作曲賞を受賞。1994年には、アメリカ連邦議会図書館がアメリカ国立フィルム登録簿に登録した。

この作品はスピルバーグの両親の離婚がテーマになっており、少年がE.T.に別れを告げるシーンは、両親の離婚を受け入れたことを表しているという。また、『未知との遭遇』(77)にトリュフォー監督が出演した時、「これから子供たちに向けた映画を撮りなさい」と言われたことが、この作品を作るための強いモチベーションになったという。

『宇宙戦争』(2005)

妻から離婚を突きつけられ、子供たちからは軽蔑されている主人公は、ある日たくさんの稲妻が同じ場所に落ちていく異様な光景を目撃する。

それまでの二枚目ヒーローとは正反対のダメ親父をトム・クルーズが演じ、異星人と人類の友好的な交流を描いてきたスピルバーグが、宇宙人の侵略小説を映画化したということで話題となった。人類は最先端の武器を手にして戦うものの、凶悪で強すぎる宇宙人にやられっぱなし。その宇宙人との決着が、これまた意外な。

墜落するジャンボ旅客機。壁にびっしり貼られた人探しの紙。公開当時はそれらの光景が2001年9月11日の同時多発テロ事件を連想させたが、実はそれはスピルバーグの狙いだったそうで、突然空からやってきた未知なる来襲は、アメリカ人にとって無差別テロに匹敵するほどの衝撃なのだろう。現代的な要素もきちんと取り入れ、ただの娯楽映画にしないところがスピルバーグである。

いかがでしたか?

スピルバーグが監督だと思い込んでいたハリウッドのSF映画、ありませんでしたか?

製作総指揮として名前を連ねていても、その知名度があまりにも高すぎるために、場合によっては監督名よりもインパクトがあるスピルバーグ。

しかし、監督であってもプロデューサーであっても、スピルバーグが関わったSF映画は、大人から子供まで楽しむことのできる極上のエンターテインメントだし、新作は必ず世界から注目され、その名前を見つけると「観てみようかな」と思わせるところは、さすが。

ハリウッドのSF映画界には、やっぱりスピルバーグがいてくれなきゃ。これからの新作が楽しみである。

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