24時間体制で"驚安"商品を提供するMEGAドン・キホーテ渋谷本店。インバウンドや若者でにぎわう(筆者撮影)

パーティーシーズンの到来で、お酒の市場も活気づく頃だ。とはいえ、物価が上昇する昨今、ディスカウントストアで安く買い込み、家飲みで楽しむという人も多いだろう。季節柄話題になるのがボージョレー・ヌーボー。今やスーパーやコンビニで入手でき、価格的にも気軽に飲めるお酒になってきた。しかし、総合ディスカウントストアのドン・キホーテが、8年前から激安ならぬ"驚安(きょうやす)"のボージョレー・ヌーボーを販売していたことはご存じだろうか。

オリジナルの「ボージョレー・ヌーボー」

11月15日の解禁を待って発売されたのは、「ドン・キホーテオリジナル ロベール・サルーボジョレー・ヌーヴォー2018」(549円)など5種だ。

同社では、2010年からオリジナルのボージョレー・ヌーボーの展開を開始。国内で販売される最安値に挑戦し続け、同社調べという限定付きではあるが、9年連続で市場最安値を実現しているという。

ドン・キホーテといえば、あらゆるジャンルの商品が入り乱れる”るつぼ”のような店内が共通のイメージ。そんな同社で、なぜオリジナルのボジョレーを開発したのだろうか。

「ボージョレー・ヌーボー自体の取り扱いは10年以上前からありましたが、当時の市場価格は2000円前後と高額でした。現地フランスと同等の価格または近い価格でお客様に提供できないかと考えたのが、取り組みを始めた理由です」(ドンキホーテホールディングス広報室)


地下1階から6階まで、すべてがドン・キホーテ(筆者撮影)

ドン・キホーテグループは、純粋持株会社ドンキホーテホールディングスの下に、ドン・キホーテや長崎屋といった小売業のほか、テナント賃貸事業会社などが集う企業集団。小売業では、中核を担うドン・キホーテのほか、ファミリーをターゲットとした、売り場面積3000平方メートル以上の「MEGAドン・キホーテ」、食料品をメインに取り扱う「驚安堂」など、業態を拡大している。

同社では以前は「激安の殿堂」と称していたが、現在はさらに進化し「驚安の殿堂」をキャッチコピーとして掲げている。価格に「驚き」という要素を加え差別化したいというのがその意図だ。買い物を通じお客に「便利さ」「安さ」「楽しさ」を提供するため、価格もお客を驚かせ喜ばせる演出の1つとしているそうだ。


国内最安値の「ロベール・サルー」。ペットボトル入りではあるが、1本1本デザインの異なる限定ラベルを使用するなど、こだわりが見られる(筆者撮影)

確かに、ボージョレー・ヌーボーとして価格が500円代というのは驚くような値段であり、かつ、ちょっとあやしくも感じる。どのようにして安くしているのだろうか。

「バイヤーが現地に足を運び、生産者と関係を構築していることから、安い価格が実現できています。そのほかにも輸送のコストを抑えたり、ペットボトル入りにすることなどで、全体コストを抑えています」(広報室)

特徴として商品説明では「力強いフレッシュでフルーティーな味わい」と説明されている。実際に飲んでみた。ボジョレーといえば、あっさりと軽い飲み口が特徴。熟成されることによる奥行きやまろやかさは当然ないものの、その分生の果実を搾ったジュースのような、フレッシュさと香りが楽しめるのが、季節ものならではのおいしさだ。その点では、最安値のワインはもう少し香りが欲しいというふうに感じた。好みによるが、和食や魚に合うかもしれない。

初心者からワイン通まで楽しめるラインナップ

同社では上記の最安値のもののほか、1480〜2180円と、なじみのある値段のものも発売している。


(左)公式コンテストにおいて最高金賞を2年連続で受賞した「カーヴ デュ シャトー デ ロージュ キュヴェ ノン・フィルター」。フィルター濾過せず瓶詰め醸造し、ぶどう本来の味わいを引き出した/(右) 「ロベール・サルー」のロゼ。飲み終わると模様が浮かび上がる特殊ボトルを採用している(写真:ドン・キホーテ

「初心者からワイン通まで、幅広く楽しんでいただけるように」との意図で、品ぞろえに工夫。たとえば、「ロベール・サルー ボジョレー・ロゼ・ヌーヴォー」(1480円)は、淡いピンク色で見た目も華やか。飲み終わった後に模様が浮かび上がる特殊ボトルを採用するなど、酒席の話題作りになる工夫を凝らした。なおボトルに関して言えば、549円のワインでも、バラの花弁の模様の組み合わせによって1本1本デザインを変えた「世界に1つだけ」の限定ラベルを採用している。

また、ボージョレー・ヌーボーの公式コンテストである「トロフィー・リヨン・ボジョレー・ヌーヴォー」において最高金賞を受賞しているワインも2種、発売されている。

さらに、フランスのワイン法ではボジョレーに含まれないものの、甘口のスパークリングもラインナップに加えて、パーティーシーズンに備えている。

反響はというと、「具体的な数字は公表していない」が、お客には好評とのことだ。特に最安値の549円のボジョレーは人気で、売り切れている店舗も。


商品でいっぱいの通路もドンキらしさの1つ。人気のため目立たせる必要がないからか、最安値のボジョレーがひっそりと置かれている。(筆者撮影)

MEGAドンキ渋谷本店を訪ねてみると、パーティーシーズンとあって、ボージョレー・ヌーボーを含めワインの棚が売場の大きな面積を占めていた。そのなかにあって、最安値のワインは通路の、目立ちにくい場所に積まれている。もう少し注目を集める場所に陳列してもよいかと思われるが、同社では個店主義をモットーとしており、売場の作り方は各店舗によって異なる。渋谷店ではインバウンドらしきお客が圧倒的に多く、特に食品や雑貨を並べた棚に人があふれていた。

同社がこうしたオリジナル商品に力を入れているのは、消費者ニーズへの対応のためだ。ボジョレーとは別の話になるが、2009年からは、プライベートブランド「情熱価格」を展開。店舗のほかホームページのお問い合わせフォームやコールセンターを通じて寄せられるお客の声を吸い上げ、国内外のメーカーとともにオリジナル商品を開発している。商品カテゴリーは多岐にわたり、なかにはPC、タブレットも。2018年6月に第3弾として発売された「ジブン専用PC&タブレット3」は税別2万円を切る価格で販売された。

消費者からの声を現場から経営層まで共有

なお、こうした消費者のニーズを迅速に取り入れるための仕組みとして、同社では寄せられた消費者からの声を現場から経営層までウェブ上で共有しているという。

では、このオリジナル商品(OEM商品も含む)はどの程度売れているのか。たとえばドン・キホーテと長崎屋の2018年6月期の売り上げを見ると、908億円となっており、全体の10.9%を占める。

「当社はディスカウントストアとして、ナショナルブランド商品をできるだけ安く提供することを使命としています。ナショナルブランドだけではお客様のニーズに対応できないこともあるため、売上構成比率にこだわらず、プライベートブランド商品の開発をしています」(広報室)

とのことで、今後も力を入れていく方針のようだ。この10.9%というのは客観的に見て、低くはない比率だ。小売業界では今、プライベートブランドがちょっとしたキーワードで、「セブンプレミアム」のように、年間1兆3200億円を売り上げるブランドもある。

小売がナショナルブランドを商品として扱うなかで、競合となる自社の商品を大々的に売り出すのは、矛盾しているように感じる。しかしこれはもはや昔の話で、消費者目線で小売業がメーカーと協力しながらよりよい商品を開発し、販売が伸びれば結果として業界全体が活性化すると、ポジティブな見方がされるようになっている。

2020年に売り上げ1兆円超を計画

またドン・キホーテといえば、2018年10月の、ユニー完全子会社化のニュースも気になるところだ。すでに前年の業務提携により、総合スーパーのアピタおよびピアゴ6店舗において、「MEGAドン・キホーテUNY」を展開。2018年3〜8月の半年間における累計売上高は132億円と、前期(68億円)の2倍近く増えている。

このモデル店舗が好調なのは、ユニーの強みである食品事業と、ドン・キホーテの時間消費型店舗、アミューズメント性の両者が融合した結果と同社は考えているようだ。現在、ドンキ・ユニーのダブルネーム店舗リニューアルの計画は第2弾まで発表されており、2019年8月上旬までに、東海地区や北関東などに12店オープンする予定だ。

1989年にオープンした第1号店以来培ってきたアミューズメント性の高い店舗作りのノウハウ、顧客ニーズを取り入れる仕組みのほか、さまざまな業態の展開やオリジナル商品の開発、といったところに同社の特徴がある。

足元の2019年6月期の第一四半期(2018年7〜9月)の売上高は前年同期比11・9%増の2500億8000万円に。うち、主力のドン・キホーテを含む小売り事業の売り上げは2427億300万円と、同12.1%増えた。食料品や日用品などの生活必需品が伸びたほか、インバウンド消費の伸びも大きく影響している。

とりわけインバウンドに関しては、24時間営業店を含め深夜までの営業店を展開していることや、外国語対応など外国人ニーズを取り入れた対応が功を奏している。2018年6月期には、客数が486万人と前期比の約1.5倍、免税品売り上げ構成比も6.2%から8.7%へと、2.5%増えた。

2015年に策定した中期経営計画では、2020年に売上高1兆円、店舗数500店を掲げているが、店舗数は国内389店舗、海外店40店舗と、計429店舗となっているほか(11月末時点)、2019年6月期の売上高の見通しはすでに1兆円となっている。

いずれ「ドン・キホーテ」という名称が、ブランド力を持つ日もくるのかもしれない。