アルファード(左上)とヴェルファイア(右下)の納期に時間がかかるのは、日本国内専売モデルではないということが関係しているようだ(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

トヨタ自動車アルファード/ヴェルファイア(通称、アル・ヴェル)」。背の高い大柄な車体に加えて、押し出しの強いフロントマスクや最大7〜8人がゆったり乗車できる広々とした室内、豪華な内装を備える高級ミニバンだ。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

今年上半期(2018年1〜6月)の販売台数はアルファードが2万7407台(月販平均約4567台)で、日本自動車販売協会連合会(自販連)の乗用車通称ブランド別新車販売ランキングで19位、ヴェルファイアが2万2685台(月販平均約3780台)で同24位。兄弟車である2車を合算すると約5万台で同5位前後に相当する。

ホンダ「オデッセイ」(38位)、日産自動車「エルグランド」(トップ50位のランク圏外)といった競合車種を大きく突き放し、独走を続けるアル・ヴェル。トヨタのウェブサイトで直近の納期を調べてみると、アル・ヴェルともに工場出荷目処は豪華仕様のエグゼクティブラウンジ(4〜5カ月)を除き、2〜3カ月となっている。

中国や東南アジアの富裕層に大ウケ

「アル・ヴェルは注文してから納車まで結構待たされる」というのは購入者やトヨタ営業マンの認識だ。どんな新車でも一部のオプションを選んだ場合に納期がかかるケースはよくあるが、アル・ヴェルはそうでなくても全体的に納期が遅れ気味になっている。

昨年12月のマイナーチェンジ時のニュースリリースを見てみると、月販目標台数はアルファードが3600台、ヴェルファイアが4500台だった。これを両車合算(8100台)し、直近の販売実績(平均で約8300台)と比較すれば、ほぼ目標どおりに推移している。

この夏に発売されたばかりの新型「クラウン」でも工場出荷目処は直近で1〜2カ月となっている。大人気とはいえ販売目標に近いアル・ヴェルの順調な販売から考えると、生産体制・計画もスムーズに進められそうで、もっと納期が早くなってもいいと思うのだが、これには別の事情がありそうだ。

アル・ヴェルは日本国内専売モデルではない。ギラギラした独特のラグジュアリーイメージは、欧米先進国ではなかなか理解されないものの、中国や香港、東南アジアなどに輸出している国のほぼすべてで大注目され、富裕層に大ウケしているのだ。

アル・ヴェルは日本で生産して海外に輸出している。海外向けの台数もかなり確保しなければならないとみられ、これが日本国内での納期がかかる要因なのではないかと、自動車業界ではささやかれている。

アジア新興国でのアル・ヴェルの車両価格は、日本円にして1000万円を超えるケースが目立つ。ベトナムではほぼ2000万円だという。日本からの完成車輸入となるので関税などの諸経費が高いこともあるが、それでも驚く価格設定となっている。各国とも日本のように車種ごとの細かい販売台数を示す公的データがないものの、われわれ日本人の想像をはるかに超えるほど裕福なアジアの富裕層の間で、飛ぶように売れているようだ。

日本で訪日外国人旅行客を狙い、普通の自家用車をタクシーとする「白タク」の車両にアル・ヴェルを使っている違法業者がいるのは、「日本に旅行に来てアル・ヴェルで現地を回った」という写真をSNSに上げることがステータスになるという話すらある。

アル・ヴェルは中国では“高級商務車”というカテゴリーに属する。このカテゴリーで人気の高いGM(ゼネラルモーターズ)の「ビュイックGL8」を脅かす存在となっている。

筆者が訪れたことのあるインドネシアやタイでも都市部ではアル・ヴェルをかなり見かける。まだまだ四輪車の普及がこれからというベトナムでも、ホーチミンあたりの大都市では頻繁にアル・ヴェルが走っているのを目撃した。

今年2月に開催された、インドのデリーオートエキスポの会場にはアルファードが参考出品され、地元インドの人たちの大注目を浴びていた。ある意味、アル・ヴェルは新興国向け戦略モデルといってもいいポテンシャルを持っている。

新興国で個人輸出されるほど人気のアル・ヴェル

日本からは新車だけでなく、年式を問わず中古車としてアル・ヴェルを海外に輸出しているケースもあるようだ。中古車といっても、海外バイヤーが新車として日本国内で購入後すぐに登録抹消手続きを行って輸出してしまうケースもあり、事実上新車が個人輸出されていると言っていい状況も目立っているという話を聞く。

主な出荷先はケニア、マレーシア、香港とされており、いったんそれらの地域に荷揚げされた後に、さらにさまざまな国へと出荷されるようだ。

日本仕様ならではで助手席側前部に通称“キノコミラー”といわれる補助ミラーがあったり、リアウインドウの排ガス規制に関するステッカーなどが貼ってあったりする。これにステータスを感じるユーザーもいるようだ。

もちろん専門の輸出業者が行うケースがメインのようだが、自動車流通に詳しい関係者はこう証言する。

「それこそ家族ぐるみでつきあいのある友人のネットワーク内にバイヤーがいて、普通の一般家庭で1年ほどアルファードやヴェルファイアを新車購入して使った後に、高値で買い上げて海外輸出するケースもあるようです」

つまり、土地転がしならぬ“アル・ヴェル転がし”が普通の家庭で行われているというのである。もちろん購入する側も転がす目的は理解して毎年代替えを繰り返しているようだ。別の業界事情通は、「転売目的でアル・ヴェルを買っている人は確実にいる」と話す。

新車を買う際、日本国内だけでなく海外でも、それがいずれ中古車として流通することを想定したクルマ選びがあるというのは、賢い教訓かもしれない。