映画の冒頭でたまに見かける「This movie is based on a true story.(この映画は実話を基に作られました)」という一文。

ヒューマンドラマや伝記ドラマなどに多く見られ、“事実”であるという重みがその作品を一層味わい深いものにしてくれる。観客を一瞬で惹きつける魔法のような言葉だ。

近年、ホラー映画でもこの一文を見かける機会が増えてきた。思わず「現実にこんなことが起きたのか」とゾッとさせられ、日常にまでその恐怖が侵食してくる。

今回はそんな恐ろしい実話・事件、実在の人物を基に作られたサスペンス・ホラー映画をご紹介。事実と知って観てみると、より恐怖を味わえるはずだ。

※本記事は一部ネタバレを含みます

サイコ』(1960)

実際のモデル:エド・ゲイン事件

不動産会社に勤める女性マリオン(ジャネット・リー)は会社の金を横領して恋人の元へと向かう途中、道すがら立ち寄ったモーテルで宿泊することに。そのモーテルは、そばに建つ一軒家に住むノーマン(アンソニー・パーキンス)という青年が管理人を務めていた。そしてまた、彼は年老いた“母”の面倒を見ていた……。

“サスペンスの神”と称される巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督による全編モノクロのサイコ・スリラー。原作は、殺人鬼エド・ゲインの犯罪にヒントを得て執筆されたロバート・ブロックによる同名小説だ。

エド・ゲインとは、アメリカの殺人事件史上類を見ないその異常性から、20世紀を代表する殺人鬼のひとりに挙げられている人物。殺害した人間の死体でインテリアや装飾品を作るなど、猟奇的かつ残虐きわまりないその犯行によって人々を戦慄させた。

『サイコ』は、サスペンス要素の強い前半から、後半は一気にホラーの様相を呈する。そのタイトルの通り、サイコホラーというジャンルの確立に大きく貢献したであろうパイオニア的作品。多くの映像テクニックが駆使された演出は、いま観てもスリリングだ。

それにしても、モデルとなった事件を知ると、本作に登場する犯人よりもエド・ゲイン本人の方がはるかに恐ろしいのではないかと思わざるをえない。

『サランドラ』(1977)

実際のモデル:ソニー・ビーンとその一族

カリフォルニアの山岳地帯に向かったボブ一家はトレイラーの事故のため、砂漠のど真ん中で立往生してしまう。核実験場にほど近いその荒地には、突然変異を起こした殺人鬼一族が住んでいた……。

殺人鬼フレディ・クルーガーで知られる映画『エルム街の悪夢』のウェス・クレイヴンが監督・脚本・編集を務めたホラー映画。アメリカでは1977年に公開され、日本ではそれから7年遅れて公開された。

モデルとなったソニー・ビーンは、15世紀頃のスコットランドで一族を率いて多数の人間を殺害し、その肉を食したとして処刑されたという人物。労働を嫌い、夫婦で洞窟に住み、旅人を襲いながら生活をしていたという。

彼らの間にできた14人の子どもたちは、兄弟の間でさらに子どもを儲け、最終的には50人ほどの大家族となって殺人を繰り返していたというから、開いた口が塞がらない。

本作は続編のほかに、2006年に『ヒルズ・ハブ・アイズ』というタイトルでリメイクもされている。

『死霊館』(2013)

実際のモデル:ペロン一家

ロジャー・ペロン(ロン・リヴィングストン)と妻のキャロリン(リリ・テイラー)、そして5人の娘たちは、アメリカのロードアイランド州にある旧家に引っ越した日から、家具が勝手に動くなどの怪奇現象に悩まされるようになる。

子どもたちに危険が及ぶことを心配したペロン夫妻は、超常現象研究家として名高いウォーレン夫妻(ヴェラ・ファーミガ/パトリック・ウィルソン)に助けを求める…。

『ソウ』を手がけたジェームズ・ワン監督が実話をベースに描き、全米興行収入1億ドル突破の大ヒットを記録したホラー映画。

本作の基となったのが、1971年のペロン事件。その詳細については明るみにされていないものの、アメリカの有名な超常現象研究家のエド&ロレイン・ウォーレン夫妻が、それまでの調査の中で「最も邪悪で恐ろしい事件」として長らく封印してきたことでも知られる。

幼い頃から心霊現象を体験してきたウォーレン夫妻が携わった事件は1万件以上に及ぶというのにも驚きだ。

この作品を機に、ウォーレン夫妻が携わった事件を題材にシリーズ化され、本作の前日譚となる『アナベル 死霊館の人形』(2014)、『死霊館 エンフィールド事件』(2016)とその前日譚『死霊館のシスター』(2018)へと続く。

『NY心霊捜査官』(2014)

実際のモデル:元ニューヨーク市警巡査部長ラルフ・サーキ

ニューヨーク市警の刑事ラルフ(エリック・バナ)はある日、動物園で子どもをライオンの檻に投げ捨てた女を逮捕する。別の夜には、妻にDVを働いた男を逮捕。一見全く別物に思われた複数の事件にある共通点を見つけた彼は、自分にしか見聞きできない何者かの存在を感じる中で、捜査を進めてゆく……。

“霊感”をもつひとりの刑事がその特殊能力を活かし、人ではない存在が引き起こす怪事件の捜査に挑む姿を描いた実録サスペンスホラー。

実は、元ニューヨーク市警の警察官ラルフ・サーキが自らの体験を綴った著書「エクソシスト・コップ NY心霊事件ファイル」を映画化したもの。そう、彼は実在する「心霊捜査官」なのだ。

不気味で恐ろしい数々の現象に、家族への危険まで加わるとあっては、まだ凶悪犯の方が実体があるだけマシかも……と思わざるを得ない。

この元警察官ラルフ・サーキ氏、先に紹介した『死霊館』のウォーレン夫妻の指導を受けて、現在は心霊現象に悩む人々をサポートしているのだとか。

『エクトプラズム 怨霊の棲む家』(2009)

実際のモデル:スネデカー 一家

息子マット(カイル・ガルナー)の病気治療のために、アメリカのコネチカット州北部にある家に引っ越してきたキャンベル一家。入居してまもなく、次々と起こる不気味な怪奇現象に悩まされることに。実は、引っ越してきたその家はかつて葬儀場があった場所であり、オカルト儀式まで行われていたという、曰く付きの家だったのだ……。

本作は1980年代にコネチカット州で実際に起きた事件を題材にしたとされているオカルトホラー。

タイトルにもある「エクトプラズム(ectoplasm)」は、霊体を物質化・視覚化させるエネルギー体のことを指す。オカルト好きなら一度は聞いたことがあるだろう。

モデルになったのは、息子のガン治療のために移住したスネデカー一家にまつわる事件。

彼らを襲った不思議な現象とは、モップの水が血のように赤くなったり、出したはずの食器が消えたりといったもの。それら数々の超常現象を調査したのは、再び、『死霊館』の紹介で登場したウォーレン夫妻だった。

劇中で焼き払われた家は実際には焼き払われておらず、1988年に除霊が行われ、現在は幽霊も悪魔もいなくなったとされている。(それが本当だとよいが……)

『ディアトロフ・インシデント』(2012)

実際のモデル:ディアトロフ峠事件

旧ソ連時代、一組の登山グループがウラル山脈のディアトロフ峠で遭難し、9名全員が異常な遺体となって発見される。さまざまな憶測が飛び交った末、やがて忘れ去られようとしていた中で、興味をもったアメリカ人学生たちが事件を調査しようと関係者に取材を始める……。

『ダイ・ハード2』などを手がけたレニー・ハーリンが監督を務め、モキュメンタリー形式で綴られるサスペンス。9名の死は一体何によってもたらされたのか、その謎に迫る。

モデルとなったディアトロフ峠事件が起きたのは1959年2月2日。当時旧ソ連領であったウラル山脈のディアトロフ峠で、スノートレッキングに出掛け遭難した9人の男女が不可解な死を遂げ、遺体となって発見された。

マイナス30度の極寒の中、テントが内側から引き裂かれ薄着のまま外で亡くなっている者、舌や眼球が失われるなど異様な損傷を受けて亡くなっている者など、およそ理解不能な状態で発見された。

さらに、身に着けていた衣服からは高濃度の放射能まで検出され、実際にさまざまな憶測がなされた(現在も未解明)。

事件の資料は機密文書として保管され、1990年代になりコピーが公開されたものの、一部は消失したまま見つかっていない。

『オープン・ウォーター』(2004)

実際のモデル:ローナガン夫妻失踪事件​

ようやくバカンスを取れたワーカホリックの夫婦(ブランチャード・ライアン/ダニエル・トラヴィス)は、カリブ海のダイビング・ツアーに参加する。2人が海面に上がると、勘違いしたボートは彼らを置き去りにしたまま岸へ向かってしまっていた。陸地も見えない海の真ん中に取り残された2人のもとに、やがて無数のサメが迫る……。

CGや特殊技術を一切使わずに製作されたシチュエーション・パニック・サバイバル。

基となった実話は1998年、オーストラリアのポート・ダグラスで起きた。ある観光船の従業員が船を掃除していてる際に、座席の下にバッグを見つける。中にあったパスポートを確認すると、アメリカ人観光客のトムとアイリーンのローナガン夫妻が、スキューバダイビング中に取り残されたであろうことが判明。

大捜索が始まるも、見つかったのは海底に沈んだウェイトベルトと遠く離れた砂浜に漂着したタンクだけだった。

本作はこの事件を基に、海に取り残された夫婦が体験したであろう恐怖を描いたわけだが、現実のローナガン夫妻失踪事件にはこの先があった。

夫トムの遺書めいた日記が見つかり、さらに2人らしき人物の目撃情報や生存説がチラホラ湧き上がったのだ。この事件は今も未解決のまま。

もし全容が解明されれば、この後日談をモデルに新たなホラーやミステリー映画が作られるかもしれない。

(シリーズ続編『オープン・ウォーター2』の場面)

『エミリー・ローズ』(2005)

実際のモデル:アンネリーゼ・ミシェル保護責任者遺棄致死事件

奨学金で大学に進学した女子大生エミリー・ローズ(ジェニファー・カーペンター)はある夜、奇妙な現象に襲われて以来、幻覚や幻聴に取り憑かれる。病院に通っても一向に治る兆しがなく、彼女はこれを悪魔の仕業だと確信して、地元のムーア神父(トム・ウィルキンソン)に助けを求める。しかし、神父が悪魔祓いを施す最中にエミリーは死亡。ムーアは過失致死罪の容疑で裁判にかけられることになる……。

全米で初登場No.1を記録。悪魔の仕業か、神父の過失か、法廷劇が繰り広げられるホラー・サスペンス。

モデルとなったのは、1976年にドイツで起きたアンネリーゼ・ミシェル保護責任者遺棄致死事件。教会のミサに週に2度も通うほど信心深かった少女アンネリーゼは、16歳の時に側頭葉てんかんであると診断され、入院。しかし、精神病院でも回復するどころか悪化の一途を辿る。

彼女自身、そして友人や家族もアンネリーゼに悪魔が憑いたと考え、教会に悪魔払い(エクソシスム)を依頼。悪魔払いを行うも、一年半後に彼女は死亡してしまう。

検視報告では当時の彼女の体重は30kg。栄養失調と脱水、そして肺炎を患っていたと記されていた。州当局は両親と神父たちを過失致死傷罪で起訴する。

本作でも法廷劇がメインに描かれており、オカルト・ホラーとしては少々異色な作品となっている。

『ポゼッション』(2012)

実際のモデル:ディビュークの箱

妻と離婚したクライド(ジェフリー・ディーン・モーガン)は娘たちと過ごす週末のある日、ガレージセールで次女のエミリー(ナターシャ・カリス)が古い木箱を欲しがる。クライドがその箱を買い与えると、それからエミリーの様子が一変。その異常な振る舞いは徐々にエスカレートしていくのだった……。

「呪いの箱」にまつわる実話をベースに描かれたホラー。カルト映画の名匠であり、映画『スパイダーマン』を手がけたことでも知られるサム・ライミが製作を担当した。

題材となった事件は2004年に発生した。大手オークションサイト「eBay」でケビン・マニスという青年が「呪われた箱」を出品。彼は、ポーランド人大虐殺を逃れた女性の遺品整理のひとつとして、「ディビューク」と呼ばれる霊との交信に使われたこの箱を手に入れる。

以来、数々の不気味な現象に見舞われ、耐えきれなくなった末にeBayに出品するに至った。

このことが2004年7月のロサンゼルス・タイムズ紙で報じられ、サム・ライミはこの記事を見て本作の製作に乗り出し、プロデュースを務めた。なお、モデルとなった実物のこの呪われた箱は現在行方不明になっている……。

『死霊院 世界で最も呪われた事件』(2017)

実際のモデル:ルーマニア悪魔祓い殺人事件

2004年のルーマニア。23歳の修道女が、3日間の監禁と暴行を受けた末に死亡するという事件が起こる。逮捕された神父は悪魔祓いの失敗が、怪我や死の原因だと無罪を主張する。この奇妙な事件に関心を持った女性ジャーナリストのニコール(ソフィー・クックマン)がルーマニアへと赴くと、次々と不可解な現象が起こり始める……。

最後に取り上げる本作は、前述でも紹介した『死霊館』のスタッフ、また同作の脚本を務めたチャド・ヘイズとキャリー・ヘイズが再び脚本を手がけたオカルト・ホラー。2018年12月8日(土)公開となる。

モデルとなったのは、2005年6月、23歳の修道女が教会の地下室で3日間飲まず食わずで十字架にはりつけにされて死亡するという事件。

司祭1人と4人の修道女はその間、被害者の修道女から悪霊が退散するよう祈っていたという。2007年、検察が終身刑を求刑したのに対して、裁判所は司祭に禁固14年、修道院長に8年、ほかの修道女3人には5年の実刑判決をそれぞれ下した。また、この教会は閉鎖された。

しかし、被告らは5人とも罪を認めてはいない。果たして悪魔は存在したのか。神父と修道女たちは、なぜ悪魔払いを行うに至ったのか。ジャーナリストの目を通して、忌まわしい事件の真相が語られる。

最後に

事実は小説より奇なり、そしてまた、事実は映画より奇なりだろう。世界では、私たちが想像だにしない恐ろしく、おぞましい事件が起きている。

今回ご紹介した10本の他にも、恐怖を存分に味わえる実話ベースのホラー映画はまだまだたくさん存在する。つまり、本当に起きた戦慄の事件もまた、それだけ存在する。

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