エアバス・ジャパンのジヌー社長と握手するジェットスター・ジャパンの片岡優社長(記者撮影)

「中距離国際線参入を本格的に検討します」

オーストラリアのLCC(格安航空会社)、ジェットスター航空のグループ会社であるジェットスター・ジャパンの片岡優社長はそう強調した。

11月27日、同社が開いた事業戦略説明会で、最大244席を備えた最新鋭のエアバス製小型機「A321LR」を2020年に3機導入すると初めて発表。まずは座席利用率が高い、既存の国内線や短距離国際線に投入する。

ジェットスター・ジャパンは2012年から運航を開始し、LCC初の関西国際空港=大分路線就航を実現するなど積極的に国内地方路線を開拓してきた。今年9月に高知県、11月には沖縄県・宮古地域へ「LCC初上陸」を発表し、現在はLCC国内路線で運航規模(旅客数×輸送距離)シェアトップを走る。


2019年中にANAホールディングス(ANA)傘下で統合予定のピーチ・アビエーション(ピーチ)とバニラ・エア(バニラ)を合わせても、ジェットスター・ジャパンには及ばない。

狙いは中距離国際線への参入

今回の新型機導入も、山形県の庄内空港をはじめとする東北路線や、宮古地域以外の沖縄離島路線への新規就航が視野にある。しかし、ジェットスター・ジャパンにとって新型エアバス機を投入する最大の狙いは国内路線の拡大ではなく、中距離国際線への参入だろう。

ジェットスター・ジャパンの国際線展開は今まで、台北や香港、遠くてもフィリピンのマニラといった、日本から片道4時間程度の短距離路線のみだった。

しかし、今回検討する中距離国際線は、日本から片道7時間程度の路線だ。ジェットスター・ジャパンの片岡社長は時期や候補地を決めていないとしつつも、具体例として東南アジアを挙げる。タイやベトナムといった新興国が中心の東南アジアは、これから最も航空需要が伸びる地域とされている。

日本のLCC業界で中距離路線は一種のブーム状態にある。まず、今年2月にANAが2020年に傘下にあるバニラ統合後のピーチによる中距離国際線参入を発表。さらに、JALは中・長距離に特化したLCC準備会社「ティー・ビー・エル」の立ち上げを発表し、同じく2020年の就航を目指す。

いままでのLCC国際線は短距離が大前提だった。理由はLCCのビジネスモデルにある。そもそも、なぜLCCが「ローコスト」なのかというと、機内サービスを簡略化しているからだ。

加えて「単一機材」「短距離・多頻度」がカギとなる。単一機材にすることで、交換部品調達やパイロット、客室乗務員訓練を効率化できる。短距離・多頻度化により、飛行機1機ごとの機材回転率も向上する。

JALの戦略はちぐはぐか?

前出のエアバス新型機のように、「中距離を飛べる小型機」が登場したことも大きい。実際、ピーチもジェットスター・ジャパンに先んじて今年7月、2020年度に新型エアバス機を2機導入すると発表している。

日本発着の国際線LCC同士の激しい価格競争が起きている。チェジュ航空など韓国勢の台頭やエアアジアXなど東南アジア勢が猛追し、ピーチとバニラが統合したのもアジア勢台頭の対抗策と言える。各社は短距離国際線の過当競争の影響を緩和するため、東南アジアをはじめとする中距離国際線に進出しようとしているのだ。


JALはジェットスター・ジャパンに33.3%出資するとともに、今年7月に中長距離LCCのティー・ビー・エルを作ったばかり。今回のジェットスター・ジャパンの中距離国際線参入に対して、複数の業界関係者は「JALの子会社と中距離国際線参入の”共食い”は起きないのか」と、その戦略のちぐはぐさをいぶかる。

しかし、今のところ共食いの可能性は少なさそうだ。ジェットスター・ジャパンとティー・ビー・エルは市場が明確に異なる。今回ジェットスター・ジャパンが導入する新型エアバス機はあくまで小型機なのに対し、ティー・ビー・エルが採用するのはボーイング製の1万5000キロメートル近く航行できる中型機だ。JALの赤坂祐二社長が「(ティー・ビー・エルは)アジアだけでなく、欧米に路線を伸ばす」と語るように、より長距離路線を視野に入れている。

世界の「中距離LCC競争」はすでに始まっている。東南アジア各国でLCCを展開するエアアジアグループは、中長距離路線を担うエアアジアXを設立。このエアアジアXとシンガポール航空傘下のLCC、スクートが昨年、関西国際空港とハワイ・ホノルルを結ぶ路線に就航した。日系各社もこれ以上黙ってみているわけにはいかなくなった。

とはいえ、中距離LCCというビジネスにはすでに暗雲が立ち込めている。
先述したように、先行して中距離路線を展開してきたアジアのLCC各社が一部で路線撤退を余儀なくされているのだ。

エアアジアXはバリ島=成田線を2019年1月に、スクートは関空=ハワイ・ホノルル線を同年6月にそれぞれ運休する。スクートの親会社・シンガポール航空は「需要低迷のため」としているが、収益確保の難易度の高さに直面した形だ。先行したアジア勢も、いまだ中距離LCCの「正解」を見出せていない。

ジェットスターの逆張り戦略

ジェットスター・ジャパンの片岡社長は「運休するLCCとは使用機材が異なるため、コストモデルが違う」と話す。実際、上記2社は通路が2本ある通称「ワイドボディ型」の機体を採用しているが、ジェットスター・ジャパンが今回採用するA321LRは通路が中央の1本しかないサイズ。一般的に機体は大きくなるほど燃費が悪くなる。「従来の同型機より燃費は15〜20%削減される」(エアバスジャパンのジヌー社長)。


「LCC路線の戦略は、訪日需要を取り込むことを念頭に置くのが鉄則」(業界関係者)とされるのに対し、ジェットスター・ジャパンの片岡社長は「(日本人の)レジャー路線を中心に検討する」と、日本人の観光需要の深耕という「逆張り路線」を行く。低価格のLCC登場で新たな観光需要を掘り起こした前例があり、ジェットスターの戦略を無謀と決めつけるのも、それこそ時期尚早だろう。

ただ、エアアジアXやスクートの例を見ると、中距離LCCが容易なマーケットでないことも事実。世界各社が血眼で探し求める中距離LCCのビジネスモデルという「宝の地図」を見つけ出す会社は、日本から現れるのだろうか。