ネグレクトを受け、どこにも居場所がない14歳の少女・陽と、男たちに体を売って日銭を稼ぐ27歳の元看護士・弥生による、いびつな同居生活と心の結びつきを描いた映画『真っ赤な星』が12月1日(土)より公開される。孤独で行き場のない思いを抱え逡巡(しゅんじゅん)する陽には、オーディション当時、等身大の14歳であった小松未来が抜擢された。陽から特別な感情を寄せられながら、苦しい過去と向き合い続ける弥生役は、『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』(17)や『娼年』(18)への出演で注目を集める桜井ユキが丹念に演じ、作品を下支えした。

本作で長編映画デビューを飾った井樫彩監督は、「今このときに今のキャストで『真っ赤な星』を撮ったのも運命だと思っている」と桜井らに感謝を告げながら、ときに苦々しく、ときに楽しそうに撮影の日々を振り返る。学生時代に製作した『溶ける』が、日本人史上最年少で第70回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオンにノミネートされた異彩を放つ22歳だが、桜井と「ああでもない」「こうでもない」と撮影を振り返る様子は和気あいあいとしている。骨太な作品の舞台裏では何が起きていたのか、赤裸々トークが繰り広げられた。

――本作において重要な弥生という役を桜井さんに任された井樫監督ですが、どのような演出をされていったんですか?

井樫監督 桜井さんに関しては、ほとんど演出をしていません。現場では、ずっと「自由にやってください」と言っていました。撮影前には、いろいろお話をしたりして。役についてというよりかは、人生について、みたいな(笑)。

桜井 うん、うん、そうですね。

井樫監督 「今までこういうことがあって」とか、「こういう気持ちになって」みたいなことをいろいろお話して、話を聞いた後に、(脚本の)微妙なニュアンスや言い方を変えて、桜井さん自身に寄せたりしましたね。

桜井 監督とは「このことについて話しましょう」ではなく、本質の部分というか、物事の感覚とかを漠然と話していましたね。監督はおそらく……人を見抜く力がすごくあると、私は初めて会ったときから思っていて。私は、本当の自分の根底にあるものを出しちゃうと、いろいろまずくって(笑)。だけど、この作品と井樫さんこの監督は、そこを理解してくれると思えました。

監督が「演出をあまりしない」とおっしゃっていましたけど、私にとってそのほうがいいと思ってくれたから、しなかったのもあると思うんです。ゆだねてくださいました。

――見抜いていたというお話。そうした部分もあったんですか?

井樫監督 見抜けているかはわからないんですけど、人には興味があるから、見てはいると思います。……私、割と突っ込んだ質問とかもしちゃうし(笑)。

桜井 すごいですよ……! 人が聞かれたくないようなことを、飄々(ひょうひょう)と聞いてくる。そこが素敵なんですけど(笑)。

井樫監督 ほどよいところで止めるでしょう?

桜井 止めていないと思いますけど。

――おふたりの阿吽の呼吸のところに、現場では陽役の小松さんが入っていかれたわけですよね?

桜井 小松さんは大変だったと思います。14歳ですし、コンディションがなかなか整わない時期もあったので。そこに関しては、監督が細かに演出をつけていました。小松さんと私は役柄上、関係性を構築しすぎてもよくない間柄だったので、(フレームの外での)距離感がすごく難しかったです。なので、モヤモヤしつつも、「監督、お願い」みたいな(笑)。

井樫監督 本当、そんな感じだったよね。私の小松っちゃん指導タイムが始まったら、桜井さんは寝る、みたいな。

桜井 わざと、ですから!(笑) 監督も大変だったと思います。全部“山”でしたもんね。

――全部が山の中でも大変だったところはというと、どこでしたか?

井樫監督 ああ〜……。やっぱり陽ちゃんと弥生ちゃんの、台所のシーンですね。

桜井 それまでは監督から動きや、目線の演出があったから成立していたけど、あのシーンでは気持ちのやり取りを、あの画の中で見せなくちゃいけないから。監督の演出だけでどうにかなるようなシーンではなかったので。

井樫監督 あのときのこと、覚えています?

桜井 あのときはいっぱいいっぱいでしたね。私、ちょっとおかしかったですもんね?

井樫監督 うん。目がおかしかった(笑)。結構、撮り直しましたしね。

――ひとつずつのシーンを掘っていったら、こうした話がきっと山ほど出てくるんですよね?

井樫監督 山ほどですね。

桜井 まるでカオスでしたし、もはや奮闘物語みたいな感じです(笑)。

――色濃く残る奮闘の映画を、改めてご覧になってどう受け止めていますか?

桜井 この作品に限らず、私は自分の出ている作品は何回観ても客観視できないんです。最初に観たときは、自分も出ているし、撮っていたときの記憶が渦巻いてくるので、全くもって観客目線では観られなくて。「あれ? こんなことしたっけ?」ということもいっぱいあります。

けれど、作品全体で言うのならば、映像になったときの色と生身の人間が演じたときの立体感みたいなものが、台本を読んだ印象から「こういうふうになるんだ」と思って感動しました。自分の想像を超えていたシーンが多々ありましたし、監督が計算し組み合わせたものが、『真っ赤な星』の世界観を底上げしているような。「監督の感性って素敵だな」と強く思いましたね。

――井樫監督はご覧になって、いかがでしたか?

井樫監督 うーん……(黙)。

――記念すべき長編初監督ということになるのですが。

井樫監督 めっちゃ沈黙になっちゃった……。

桜井 監督の話を聞きにきている、取材ですよ!

井樫監督 (笑)。……答えになっているかはわからないですけど、私は全部が運命だと思っているから、今このときに今のキャストで『真っ赤な星』を撮ったのも運命だと思っているんです。例えば、自分が30歳くらいになって撮ったほうが、全体的なクオリティとしては高いと思います。でも、今このときに撮ったからこそ伝わるものもあると思っていて。まだ現在進行形のものをそのまま撮った、みたいな感じのことだから、トゲトゲしている部分もパンチになっている部分もあると思っています。

――この先、また井樫監督と桜井さんが組むことがあるなら、どんな感じのものがいいなど、ありますか?

井樫監督 私はすごい桜井さんラブなので、桜井さんとやるんだったら、スペシャルなものを用意しないと駄目と思っているというか。それなりのものをやっても「つまんなくね?」って。そう思いません?

桜井 そうですか? 私、監督がまた撮るんだったらご一緒したいですけど。もちろん「これを桜井さんにやってほしい」と思ってほしいですけどね、やっぱり。けど、まず第一に、監督の撮りたいものを観たいんですよ。その中に、私というものをイメージできる役があるのであれば、ぜひまた一緒にやりたいですし、やりましょう。

――楽しみにしています。最後に、FILMAGAは映画好きが集う場所なのですが、おふたりが今年、映画館に足を運んだ中で好きだった作品は何ですか?

井樫監督 最近、観たもので言うと、『レディ・バード』。

桜井 ああ、私も!!

井樫監督 先月、二番館的な映画館でやっと観られまして……それで、号泣して。普段あまり映画で泣かないんですけど、3年に1本ぐらい、泣く映画が生まれるんですよ。『レディ・バード』はマジで泣いて、具合が悪くなりましたね。

――ラストの、車の場面ですか?

井樫監督 そうです。お母さんが車を運転しながら、駐車場を探しているところ!

桜井 あそこ、ね。

井樫監督 「ウワー」ってなって、そこから泣きっぱなし。手紙が来るのとかも、すごいセオリーだし、普段だったら「ばかやろう」と思うんですけど、泣いちゃって……。わかっているのに泣いちゃう。

桜井 私は泣かな……いや、私もそこで泣いた(笑)。

井樫監督 「私は泣いてません」風だったね(笑)。すごいよかったですね。劇場で観られてよかったです。この(テレビの)画面とかで観ていたら、全然違うと思うから。

桜井 あとは、『スリー・ビルボード』に度肝を抜かれました。役者さんの演技が残るのはもちろんですけど、象徴的なあの(看板の)アングルとか、嫌味のない狙いが要所要所にある感じとか、圧巻でした。だから、アカデミー賞を獲ったときに「そりゃ獲るよね!」と思いました。今年は、『レディ・バード』と『スリー・ビルボード』と『ブラックパンサー』かな♥

井樫監督 いや、好きやなあ。

桜井 マーベルシリーズ、大好きだからね(笑)。(インタビュー・文=赤山恭子、撮影=林孝典)

映画『真っ赤な星』は2018年12月1日(土)より、テアトル新宿ほか全国順次ロードショー。


(C)「真っ赤な星」製作委員会

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