世の中には、なぜか“女に嫌われる女”というものが存在する。

女がその女の本性に気づいても、男は決して気づかない。それどころか男ウケは抜群に良かったりするのだ。

そんな、女に嫌われる女―。
あなたの周りにもいないだろうか?

明治大学卒業後、丸の内にある証券会社に勤務する高橋太郎(28)は、ただいま絶賛婚活中。

さまざまな女性と出会う中で、太郎は女友だちから「見る目がない」と散々ダメ出しを受ける。

これまでに、微妙な友達を紹介してくる女や結婚した途端に上から目線になる女がいた。今宵、そんな太郎が出会った女とは・・・?




太郎は、『カラペティ・バトゥバ』の個室で女性の話をじっと聞いている。

目の前には、今日会ったばかりの有香と明子が座っているが、先ほどから2人は激しい攻防戦を繰り広げている。

果たして、この食事会の行き着く先はどこなのだろうか・・・?



話は2時間前に遡る。フットサル仲間の翔から誘われ、太郎は今日の食事会に参加したのだ。

翔は広告代理店勤めで、顔が広い。何度か翔が開催している食事会へ参加したことがあるが、女性陣のレベルは毎回かなり高く、こちらが萎縮するほどだ。

今回も、有香と明子が登場した瞬間に場がパッと華やぎ、太郎は心の中で“さすが翔!俺は一生お前についていくよ!”と思った。

元々翔は明子と仲が良く、2人のことを紹介してもらうことになったのだ。

最初は、良かった。しかし暫く会話をしているうちに、太郎は引っかかりを覚え始める。

一見楽しく会話をしているし、女性陣も話し上手で盛り上がっていた。だが、そこには目には見えないピリピリしった空気が漂っていたのだ。


鈍感でお人好しの太郎が気がつくほどの“嫌われる女”とは!?


「有香さんと明子さんは、何のお繋がりなんですか?」

美人な二人を前に、太郎は緊張しながら丁寧に話を聞き出す。二人とも雰囲気が似ており、同じ会社の同僚かと思ったが、どうやら違うらしい。

「有香とは、共通の知人を介して知り合ったんです」
「そう、会った途端に意気投合しちゃって」

キャッキャと話す二人を、太郎は微笑ましく眺める。

年を取ったせいか、最近は可愛い女の子と食事をするだけでもう十分幸せな気分になっている。食事会のあとデートに誘う気力もなく、その場を楽しんでお会計だけ支払って帰る週末が続いている。

「おい、太郎聞いてるか?」

翔から促され、ハッとなる。呑気に見ている場合ではなかった。太郎も積極的に会話に参加しなければ、せっかく開催してくれた食事会の意味がない。

「あ、ごめんごめん。何の話だっけ?」
「太郎さん、話聞いてくださいよ〜!」

有香に可愛く怒られ、「富士幻豚のロースト 白インゲン豆とシャントレル」にナイフを入れながら、太郎は笑顔を向ける。

―有香ちゃん、さっきから可愛く絡んでくるけど、何かひと癖ありそうだな…。

そしてその太郎の予感は的中したのだった。




「この前明子に誘われて行った食事会で・・・あ、私はあまり食事会とかは行かないけど、明子に誘われたので“嫌々”行ったんです。そしたら偶然、翔さんの知り合いがいて」

さっきから有香は身振り手振りで、先週“嫌々”参加した食事会のことを熱心に話している。すると明子はこう言った。

「そんな、私が無理やり誘ったみたいじゃん(笑)まぁいいけど。そうそう!でもその彼、翔のことを絶賛していたよ。イイ奴なんだから、早く彼女作れって。そういえば翔って、どんな子がタイプなの?」

明子は適度なツッコミを入れつつ、翔にボールを投げる。

「僕は優しくて笑顔が可愛い子かなぁ。太郎は?」

皆の話を順繰りにしながら、会話を広げている時だった。突如、有香が会話に入ってきたのだ。

「そっかぁ。でも太郎ちゃんも翔さんもモテそうだから、女性を見る目が厳しそう!私の男友達にも二人のようなイケメンで優しい人がいるんだけど、なかなか彼女ができなくって。この前明子にその人を紹介したんですけどね!」

すると翔が、明子に問いかけた。

「そうなんだ。明子的には、その人はナシだったの?」
「え、まぁそうだね・・・私はもう少し優しい感じの人がいいなぁ」

明子は太郎の方をチラリと見ながら、言葉を濁す。そんな明子を見て、有香は慌てて話を戻した。

「あ・・・ごめん!!明子、たしかに太郎ちゃんみたいな人好きそうだもんね。ごめんね、そんな時に他の男の話なんてしちゃって!私って、本当に空気読めないみたい♡」

一瞬、場が静かになった。


会話の流れを遮断する、空気の読めない女…。有香のさらに厄介な性質とは?


人の会話を横取りする女


「さっきの話の続きですけど、太郎さんは、どんな人がタイプなんですか?」

明子からの質問に、太郎はドキっとする。先ほどの有香の話によると、明子のタイプは“太郎みたいな人”、ということだ。チャンスは大いにある。

「僕も笑顔が良くて、明るい人かな。あと仕事で遅くなっても怒らない人」

しかし太郎がそう答えた途端に、また有香は体を乗り出してきた。

「そうなの?太郎さんって仕事忙しそうですもんね〜。そう言えば、この間私の友だちですごくいい感じの人と何回もデートしてたのに、結局ダメだった子がいて…。

彼が仕事忙しくていつ会えるか分からないから、すぐに駆けつけられるように、仕事終わっても家に帰らず街をフラフラしてたんですって。そしたらそれが重いってふられちゃったらしくて…」

その場にいた全員が、一斉に困惑した表情を浮かべる。

明子の好きなタイプは、太郎だという流れだ。このまま上手くいくかもしれない。それなのに突然、自分を話題の中心に戻そうとしたのだ。

「そうなんだ〜!でも明子は彼氏とか束縛しなさそうだし、彼がいない時間も楽しめそう!」
「うんうん!しかも笑顔もいいし、優しそうだし!」

なぜか男二人で、必死に会話の流れを軌道修正する。一体、この会はなんなのだろうか。

「たしかに明子はそういうことしなそう。その友だちもいい子なんですけど、依存体質なところがあって…。私はそんな依存とか束縛はしないから分からないんだけどね」

また自分の話に戻す有香。もはや誰にも彼女の暴走は止められなかった。




結局この会は1軒目でお開きとなり、翔と太郎は『西麻布 福躍』へと移動し、おでんをつまみながら無言で乾杯をした。お互い、思っていることは同じのようだ。

「さっきのは、何だったのだろうか…」
「分からん…」

男同士、静かに酒を酌み交わす。

こうして食事会に頻繁に行っていると感じるのだが、何人かで会話しているとき、全く空気の読めない女性がいる。会話が盛り上がっているポイントを無視し、何か共通点を見出すと、すぐに自分の話をし出すのだ。

今日の明子の気持ちを考えると、不憫になる。

-自分が中心じゃないと気が済まない、姫気質なのかな・・・

太郎と翔は、大きくため息をついた。今日は有香に皆振り回されて終わってしまった感が否めない。

「結局、明子ちゃんとあまり喋れなかったなぁ・・・」

太郎の一言に、翔は黙って頷く。二人に幸せが訪れる日は、まだ遠そうだ。

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その女友達からのアドバイス、本当に貴方のことを思ってる?