原宿駅前でNTT都市開発が開発する複合施設の1〜2階に、イケアが2020年春に出店する。同社が日本で都市型店舗を出店するは初めてのことだ(画像はイメージ図、イケア・ジャパン提供)

日本上陸から10年以上経っての挑戦は、吉と出るか、凶と出るか――。

スウェーデン発祥で世界最大手の家具専門店「イケア」が2020年春、日本で初となる都市型店舗を東京・原宿に出店する。日本法人のイケア・ジャパンが11月15日に発表した。

広さは通常のイケア店の10分の1

イケア・ジャパンは現在、仙台から福岡まで国内で9店舗を展開。郊外に構える巨大な店舗で、イケアの家具でコーディネートされたさまざまなショールームを客が時間をかけて見て回るスタイルが特徴だ。


イケアといえば、郊外で大型店舗を展開するのが主流だ。写真は千葉県船橋市の店舗(撮影:尾形文繁)

都内唯一の店舗である「イケア立川」は、都内とはいえ立川駅からモノレールに乗り継ぎ、最寄り駅からも7分程度歩く場所にある。郊外立地で重量のある家具を持ち帰るため、イケアの買い物客の多くは車で訪れるのが一般的だ。

それが今回出店を決めた店舗は、JR原宿駅から徒歩1分、駅のほぼ目の前という一等地に建つ。NTT都市開発が開発中の店舗や住宅が入る複合施設の1〜2階にテナントとして出店する。店舗面積は約2500平方メートルと、立川や横浜にある通常のイケアと比べると10分の1ほどの“小型店舗”となる見通しだ。店舗コンセプトの詳細は今後詰めるが、他店と同様に飲食スペースを設けるという。

「今までイケアを訪れたことがなかった方々に知っていただく機会にしたい」(イケア・ジャパン広報担当者)。多数の若者が行き交う原宿で認知度を高め、新規客の獲得につなげる狙いだ。出店に関する発表資料では、「都市部での生活のニーズは今後も大きくなる。都市部出店という新しい手法へのさらなる投資を継続する」とも宣言した。

2006年に日本で第1号店を開いてから10年以上。このタイミングで都市型店の出店に舵を切ったのはなぜなのか。最大の要因は、車での来店や長時間の滞在を前提とする郊外大型店中心のビジネスモデルが限界を迎えている点にある。


イケア・ジャパンのヘレン・フォン・ライス社長は、今年8月の事業戦略説明会で店舗の都市化とデジタル化に注力していく考えを強調した(記者撮影)

イケア・ジャパンの業績はここ数年伸び悩んでいる。2016年8月期以降は売り上げの減少が続き、2017年8月期の決算は売上高740億円(前期比3.5%減)、営業損益は14億円の赤字(前期は16億円の黒字)に転落。未上場のため詳細な決算情報は開示されていないが、客数の減少が足を引っ張ったとみられる。

今年8月に開かれた事業戦略に関する説明会で、イケア・ジャパンのヘレン・フォン・ライス社長は今後の成長に向けて、店舗の都市化やデジタル化の必要性を強調。特に東日本大震災以降、首都圏などでは世代にかかわらず、利便性の高い都市部への回帰が進んでいる。同時にライフスタイルも多様化し、家具屋が主力ターゲットとするニューファミリー層でも、車を所有しない世帯が増えてきた。

都心の店舗であれば、これまで取り込めなかった都市部在住者や、車を持たない人たちへの訴求を強めることができる。原宿駅前という好立地でブランドの宣伝効果も期待されるが、都心店ならではの運営の難しさもある。

都心で先行するニトリも苦労

イケア・ジャパンより一足早く、都心出店を進めてきたのが国内の家具最大手のニトリ。2015年4月にプランタン銀座(現・マロニエゲート銀座2)に出店したのを皮切りに、新宿、目黒、渋谷と都内の一等地に続々と出店した。自社店舗が少なく、高所得者や若年層が集まる立地に、今後の伸びしろを狙っての進出だった。


ニトリの都心店では小物雑貨を購入する客が目立つ(撮影:今井康一)

ただ、慣れない都心店の運営に当たっては、ニトリもそれなりの苦労があった。車での来店が圧倒的に少ない都心店は、インテリア雑貨やキッチン用品など小物商品を購入する客が多い傾向にある。一方、店舗賃料や人件費といった固定のコストは高額だ。郊外店と比べ、店舗の採算を確保するハードルは高い。

ニトリは単価の高い大物家具の購入を促すため、店舗とネット通販(EC)の連携を強化。店頭に展示されている商品のバーコードを専用アプリで読み込めば、簡単に決済でき、EC用倉庫から自宅に配送される仕組みを構築した。在庫保管スペースが限られる都心店の弱点を補い、店頭で配送手続きを行う客や販売員の負担を減らす狙いだ。

一方のイケア・ジャパンは、2017年4月にようやくECを始めたが、実店舗と相互送客するような先進的な取り組みは少ない。都心の一等地で多数の来客があっても、売り上げの拡大につながらなければ、コストが経営を圧迫するばかり。都心店に合わせた品ぞろえや独自の配送サービスを確立できるかが、原宿への出店の成否を決めるカギとなりそうだ。