別に、結婚だけが女の幸せではない。

自ら望んで独身を貫くのなら、何も問題はない。

しかし実際には「結婚したいのに、結婚できない」と嘆く女たちが数多く存在し、彼女たちは今日も、東京の熾烈な婚活市場で戦っているのである。

これまで、自分にも相手にも厳しい“ストイックな36歳独身女”や、アイドルに恋する女、3人の男をキープする女、場末感漂う35歳、家が好きすぎる女、独身貴族の女社長などを紹介した。

さて、今週は…?




【今週の結婚できない女】

名前:綾乃
年齢:38歳
職業:広告代理店
住居:赤坂

「世の中の女の子たちって本当、ドライというか強かというか賢いというか。素直に“すごいな”って思います」

とある休日の午後。

ホテルニューオータニの『ガーデンラウンジ』で、綾乃は右斜め前方を見つめたまま目を細めた。

視線の先には、おそらく結婚相談所か何かの“初顔合わせ”だろう。明らかにぎこちない、しかし努めてお互いに好意を持とうとしている妙齢の男女があった。

男女とも綾乃より若そうだが、正直に言って魅力的な二人ではない。

女の方には隠しきれない場末感が漂っているし、男の方も、その落ち着きのない仕草やどうにも決まらないジャケット姿から“非モテ”であることが遠目にもわかった。

そんな二人をしばし眺めた後、綾乃は「やれやれ」といった様子で頭を振る。

「私もいい歳ですから、わかってはいるんですよ。ここまできてしまったら、もう色々諦めるしかないって」

綾乃はまるで魂を吐き出すように、大きくため息をついた。

考え事をするように組んだ手で、ノースリーブから覗く引き締まった二の腕をゆっくりと撫でる。そしてしばらくすると、決意を新たにするかのように瞳に力を込めた。

「でも…どうしても妥協も諦めもしたくないんです。だって私、勉強も仕事も見た目も遊びも全部、全力投球で生きてきたから。

それなのに…恋愛だけは諦めなきゃいけないなんて、そんなのおかしいじゃない?」


やっぱり恋愛を諦めたくない。38歳独身女がそう思うようになった経緯とは?


女は30代で一度、冷静になる


ホルモンバランスの問題なのだろうか。

先の見えない希望と不安で揺れる20代を過ぎ、30代となった女たちは、いったん非常に現実的な思考をするようになる。

つまり20代のうちは「好き」という気持ち、若さ&勢いで結婚できてしまうものなのだが、30代になると途端に冷静になり、感情のまま突っ走って失敗したくないという思いが勝つ。

恋なんて、ただの魔法。

そんなものに惑わされず、もっと現実的に相手を見定め、世知辛い世の中を生き抜くために最適なパートナーを見つけようとするのだ。

綾乃もまさに、そうだった。

今の会社に入社して3年目、綾乃は1つ年上の先輩・貴志に恋をした。

最初はまるで相手にされていなかったのだが、あの手この手を使ってやっとの思いで振り向かせ、交際に発展。

貴志との恋愛は、毎日の電話&週末のデートは当たり前。それでも飽き足らず、少しでも時間ができれば平日でも彼の家を訪れたりしていた。

今となっては、よくもそんなパワーがあったものだと自分でも思うが、これが“若さ”というものなのだろう。

貴志とは4年付き合い、もちろん結婚を考えていた。少なくとも、綾乃の方は。

しかし、あれは忘れもしない29歳の夏。

綾乃は人生最大の失恋を経験することとなる。




「ごめん…他に好きな子ができた」

まさか4年も付き合ってきた彼氏に、そんなことを言われる日が来るとは思ってもみなかった。

しかもその別れは、綾乃にとって完全に晴天の霹靂だったのだ。

ほんの少しでも事前に予感があれば、異変を察知していれば、心構えをしておくことくらいはできたのに。

聞けば相手は、取引先で出会った製薬会社の女(おそらく年下)だという。

綾乃は無理やりに相手の名前を聞き出して初めて、ようやく点と点が繋がっていくのを感じた。

そういえば彼が件の製薬会社のプロモーションを担当しているとき、やけにその女の名を頻繁に聞いていたことを思い出したのだ。

しかしまさか、自分の彼氏を奪われるなんて考えてもみなかった。

…なんて鈍感なのだろう。どこまで脇が甘いのだろう。

彼に振られてしまったこと、他の女に奪われたことももちろん綾乃を傷つけた。

しかしそれよりも、彼の嘘や誤魔化しを信じ、安心しきってまるで気がつかなかった、自分の勘の鈍さに絶望したのだ。

この失恋以来、綾乃は自分で自分をまったく信用できなくなった。

さらに30代へと突入し、感情に流されない冷静さを併せ持てるようになると、自分だけではなく男のことも簡単には信じられなくなった。

「好きかも」と思う気持ちが、20代の頃は胸踊るトキメキだったはずなのに、いつの間にか“怯え”や“不安”に変わってしまっていたのだ。

自分が「好き」だなんて感じるような色気を持つ相手は、すべからく誠実さに欠け、また自分を傷つけるに違いない。そんな風にまず、防御が先立ってしまう。

それゆえ綾乃の恋愛は次第に、相手からプッシュされてなんとなく…という、受け身パターンを選ぶようになっていった。

しかし元々が自ら追いかけたいタイプであるゆえ、受け身の恋愛はいまいち本気になれない。

そうして結局、結婚を決めてもいいと思えるような相手に巡り会えないまま、38歳という年齢を迎えているという経緯である。


30代になり失った、若さと勢い。しかしアラフォーになると今度は、再び胸を焦がす恋がしたくなってくる


恋がしたくなるアラフォー


ところがアラフォーとなった今、綾乃の心には変化が訪れているらしい。

「自分でも不思議なんですけど…アラフォーと呼ばれる年齢になった頃から、急にまた恋がしたい!と強く思うようになって」

そう語る綾乃は、まるで乙女のように瞳を輝かせた。

「過去、あれだけ傷ついたのにバカみたいって思うでしょ。…でも痛みって時間が経つと忘れちゃうんですよね。逆に恋のトキメキだったり甘酸っぱい思い出なんかは、むしろ歳を重ねるごとに眩しく思えてきちゃって」

実際の彼女も実年齢にはとても見えない若さであり、肌の衰えも体型の崩れも感じさせない、美貌の女である。

大手広告代理店で長きにわたり活躍してきただけあり、ひれ伏したくなるような“第一線の女感”すらある。

そしてそんな彼女は今、実は現在進行形で久しぶりの恋を楽しんでいるのだという。




「相手?…名前は言えませんけど、実は俳優の男の子なの。まだ25歳で本当に美しくて。もう、横顔を眺めてるだけで幸せって感じ」

彼の顔を頭に思い浮かべたのだろうか。

綾乃は急に恋をする女の目になり、幸せそうに口元を緩ませた。

それにしても10歳以上も若い男と恋愛するなんて、Over35の女にとっては相当ハードルが高そうに思える。しかし綾乃曰く、Over35の独身女こそ、むしろ若い男の子に目を向けた方がいいというのだ。

「実際に若い子と付き合ってみて感じたんだけど、若い子って自分が若さを持ってるからか、女性には若さを求めてこないんですよ。

むしろ40過ぎて若さを失ったおじさん達こそ、自分にない若さをやたらと女に求めて、Over35の私たちに失礼な発言をしてくるの」

なるほど。もちろん女性側が美貌を保っていることが絶対条件ではあるだろうが、そういう理屈も成り立たないとは言い切れない。

しかし例えそうだったとしても“結婚”という観点から見れば、代理店で働く38歳のバリキャリ女性にとって、10歳以上も年下の若手俳優というのはお世辞にも適切な相手だとは言えない気がしてしまう。

だが綾乃は、自立した大人の女らしく、意志のある瞳でこう言い切った。

「もうここまできたら、妥協するくらいなら結婚なんかしなくてもいい。私は、大好きな人と大恋愛をした先にある、愛のある結婚がしたいんです」

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可愛いけど確実に結婚を遠ざける存在…。Over35の独身女が我慢すべき、あること。