政府は今回の外国人材受け入れ拡大について「移民政策でない」ことを強調しているが…(撮影:今井康一)

日本では長年にわたる少子化の進行で若者が減少しているうえ、数少ない若者も大都市への集中が進行しているため、地方の中小企業を中心に人手不足が深刻になっている。そこで政府は、2018年度に決定した「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる骨太の方針) に重点政策課題の1つとして外国人材の受け入れ拡大を盛り込んだうえで、2019年度からこれを実施すべく、出入国管理および難民認定法の改正を目指している。
『経済がわかる 論点50 2019』(みずほ総合研究所著)の執筆者の1人である岡田豊氏に、すでに「移民大国」である日本の現状と今後の展望について解説してもらう。

2025年頃には横浜の人口を上回る外国人

総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」によると、2018年1月1日の外国人人口は250万人。2017年に17万人増加し、過去最高を記録した。外国人人口の規模は、市町村別人口で全国第3位である名古屋市(約220万人)を凌駕するほどになっている。


また、外国人人口の増加数の推移を見ると、2013年は東日本大震災の影響などからわずかにマイナスであったが、2014年以降は増加ペースが年々上がっている。そのため、この増加ペースが続けば、外国人人口は市町村別人口第2位の大阪市(約270万人)をまもなく追い抜き、2020年代半ばには同第1位の横浜市(約370万人)に追いつく勢いだ。

日本の総人口は、日本人の減少により2008年をピークに減少を続けている。日本人の減少数は年々大きくなり、2017年は37万人に達している。外国人の増加は日本の総人口の減少をなだらかなものにしているといえる。

また、人口の構成を5歳階級別に見ると、外国人では20歳から39歳までで全体の半分程度を占めているが、日本人では同年齢層が2割程度にとどまっている。つまり、外国人は日本人に比べて極めて若い年齢構成となっており、若い外国人の増加は日本の高齢化の進行を緩やかにしている。

国立社会保障・人口問題研究所が2017年に発表した「日本の将来推計人口」によると、2060年の総人口は9284万人(出生・死亡ともに中位推計を前提)で、これは政府の目標「2060年に総人口1億人」よりもかなり少ない。

一方、政府の提案する新たな在留資格による外国人労働者の受け入れ数の上限については、今後5年間で約34万人とされ、平均して毎年約7万人の増加が見込まれる。2017年の実績である外国人の17万人増加に新在留資格による外国人労働者の年約7万人増加、さらに外国人労働者に帯同される家族の増加を考えれば、毎年25万人程度の外国人増加が実現可能性のある近未来といえよう。

この25万人という数字は、前出の国立社会保障・人口問題研究所の推計の前提(2015年までの外国人の動向をベースとしたもので、毎年の外国人の増加数は7万人弱と想定)を大幅に上回っている。

ここで国立社会保障・人口問題研究所の条件付き推計によると、外国人が毎年25万人増加すれば、2060年の日本の総人口は1億0411万人となり、日本人の出生率が高まらなくても政府目標が達成できることになる。

さらに、新たに日本に来る外国人の多くが20歳から39歳までであることを考えると、外国人の増加は長きにわたって生産年齢人口の増加に直結する。2060年の生産年齢人口は、2015年時点の外国人増加をベースにした推計では4792万人になるが、外国人が毎年25万人増加するケースでは5700万人に大きく上振れする。

「移民政策ではない」と言いつつ存在する「事実上の移民」

外国人増加の実態を探るために、法務省「在留外国人統計」から在留外国人数の在留資格別内訳を見てみよう。2017年末で最も多いのは「永住者」で、75万人と全体の約3割を占めた。これは近年の増加に注目が集まっている「留学」(31万人)や、「技能実習」(27万人)を大きく上回っている。

永住者は、在留期限がないので在留資格の更新の必要がない。就労の制限もほとんどなく、家族の帯同が認められている。日本人の有する権利で永住者が有しないものは、各種参政権や一部公務への就労などに限定される。永住者が「事実上の移民」とされるゆえんである。

永住者の資格要件の1つに在留期間があるが、人手不足が深刻化したバブル期に受け入れた外国人への配慮などから、1998年に必要となる在留期間が原則10年に半減された。これをきっかけに永住者は増加の一途をたどっている。

現在、政府は今回の外国人材受け入れ拡大について「移民政策でない」ことを強調しているが、政府はすでに永住者の資格要件緩和などによって1990年代から受け入れた外国人の定着を容認する方向へ大きく舵を切っており、今や永住者という「事実上の移民」がすでに外国人の最大勢力であることを理解すべきであろう。

永住者となるための在留期間は在留資格を変えても合計で10年に達すればよいので、滞在期限に上限がなければいずれ永住者になる可能性が出てくる。

たとえば、日本での留学を終えて日本で就職する留学生の多くは留学という資格から技術・人文知識・国際業務という在留資格に移行するが、この資格は滞在期間に上限がなく更新が可能なので、近年増加中の留学生は日本での就職を通じて、永住者への道が開かれているといえる。一方、近年増加しつつある技能実習の在留期間は徐々に伸ばされてきたものの、現在は最長5年で更新できないことが大きな課題となっており、今回政府はこの課題の解決に動いたといえる。

そのうえで、滞在期間さえ満たせば無条件で永住者として認められるわけではなく、認定される前に犯罪歴がないことを確認され、かつ永住者として認定された後でも犯罪を起こせば出身国に強制送還される可能性が高いことも知っておくべき事実である。日本で永住者に認定され、永住者として長く働いているということは、日本に貢献し続けている証左であり、そのような外国人により長く日本に貢献してもらえるよう便宜が図られるのは当然のことともいえよう。

4月に新設される2つの「移民」

2019年4月から実施予定の新しい施策では、人手不足が特に懸念されている業種を対象に想定して、特定技能1号(相当程度の技能)、特定技能2号(熟練した技能)という在留資格が新設される。

特定技能1号は在留期限は最長で5年で、業種ごとに定める技能水準と日本語能力水準に達しているかを判定する試験の合格を条件としている。その日本語能力は、仕事において問題がなければよく、おそらく一定の期間学べば多くの外国人が合格できるレベルに抑えられるはずだ。

その特定技能1号では家族の帯同を認められないものの、より高い専門性(熟練した技能)を有すると認められた者については在留期間の上限がなく(更新は必要)、本人が希望するかぎり日本で制限なく働き続け、家族帯同ができる特定技能2号へ移行できる。この特定技能2号は永住者と似た在留資格ともいえるもので、現段階では受け入れのための試験が数年間行われない予定とされるものの、いずれもう1つの「事実上の移民」が増えていくことになる。

また、注目すべきは現在の技能実習生は技能実習終了後、無試験で特定技能1号に移行できる予定であることだ。技能実習で転職が認められなかったので、いわゆるブラック企業の存在が問題視され、「不明」という形での転職が横行していると思われる。しかし、特定技能では同じ分野内での転職が自由である。このような背景から、今の技能実習生のほとんどは特定技能1号に移行するであろう。

さらに、近年増加している留学では、留学生に認められるサービス業を中心とする単純労働分野でのアルバイトを目的にした者も少なくなかったと思われるが、単純労働分野での本格的な就労が目的ならアルバイトより長時間の就労が可能な特定技能のほうが望ましいはず。特定技能がサービス業の幅広い業種で認められるようになれば、留学よりも特定技能を選ぶ外国人が多くなりそうだ。

今後、日本で働きたい外国人の多くは技能実習や留学といったやや遠回りな道を目指すよりも、まず特定技能1号の資格取得を目指し、さらにより長く働きたい外国人は特定技能2号への移行を目指すことになろう。

この新たな在留資格の対象業種は農業、建設、宿泊、介護、製造業の一部などが有力といわれているが、この中で注目は宿泊であろう。宿泊業は飲食、販売、接客、清掃などサービス業のさまざまな職種を内包しており、宿泊以外のサービス業にも外国人材の活用で大いに参考になるからだ。また、宿泊業への技能実習生の受入は2017年から始まり、かつ日本において宿泊業に就職する外国人留学生は近年増加を続けており、宿泊業界は外国人の受け入れノウハウをすでに有しているといえる。

したがって、今後は宿泊業での外国人労働者の新資格による受け入れが順調に進む可能性が高く、その際には宿泊業以外のサービス業でも新たな在留資格の適用を希望する声が大きくなることが予想される。今回の制度改革は、サービス業に幅広く従事する外国人労働者を受け入れるきっかけになりそうだ。

住民の過半数が外国人の自治体の誕生は時間の問題?

今回の外国人材の受け入れ拡大は外国人の長期滞在者の増加につながり、日本の総人口の減少を緩和する効果もある。その一方で、外国人の増加は、受入が拡大する業種や地域を中心にさまざまな影響を与えるであろう。たとえば、外国人労働者の受入拡大が進む業種では、人手不足の解消が進むと期待される一方で、日本人労働者も含めた労働環境の改善が遅れる懸念がある。

また、地域社会への影響も大きい。すでに総人口に占める外国人の比率が10%を超える自治体(政令指定都市の行政区を含む)は全国で10に上る。外国人が毎年25万人増加すれば、2060年の日本の総人口に占める外国人の割合は1割を超え、中には住民の半数を外国人が占める自治体も現れる可能性があろう。

そのため、外国人の増加は人口減少抑制の一助になる一方で、街づくりや行政などに外国人の声をどのように反映させるのかといったさまざまな課題に直面することにもなろう。

前出の総務省の調査によると、日本人が減少している自治体の割合は市区の8割、町村の9割に上るが、一方で外国人が増加している自治体の割合は市区の9割、町村の7割に上る。

たとえば、北海道夕張市は日本人減少率が市区でトップ(前年比4.0%)である一方、外国人増加率がトップ(同76.9%)となっている。人口減少に悩む地方圏にとって、近年の外国人の増加は「干天の慈雨」であり、外国住民の受け入れ拡大が今後広がる可能性があろう。

そのため地域社会では、外国人が家族も含めて暮らしやすくなるよう努力が必要になる。地方圏の自治体は、外国人を雇う企業とも一体となってそうした対応を積極的に進めていき、政府もそれを支援していく必要があろう。