減量ジム事業の大ヒットで有名経営者の仲間入りを果たした瀬戸健社長(撮影:梅谷秀司)

結果にコミットできず──。RIZAPグループの瀬戸健社長は連日お詫び行脚を続けている。

RIZAPグループは今夏、公募増資と第三者割当増資によって7月までに354億円を調達。その際、主幹事となったのはSBI証券とクレディ・スイス証券だった。株価は、7月末と比べると6割超も値を下げた。メンツを潰された両者に厳しい叱責を受けた瀬戸社長は、うなだれるしかなかった。

回ってきた急膨張のツケ

RIZAPグループは11月14日に2018年4〜9月期(中間)決算を発表。IFRS(国際会計基準)の営業損益は88億円の赤字と前年同期の49億円の黒字から大幅に悪化した。同時に18年度通期の営業損益の見通しを、従来の230億円の黒字から33億円の赤字へと、一気に引き下げた。

同日開催した決算説明会で瀬戸社長は、「ライザップを信じてご期待いただいていた皆様を、大きく大きく裏切る結果になってしまった」と深く頭を下げた。

本業ともいえる、減量ジム事業は堅調だ。利益については開示されていないが、売上高は前年同期比で約7割増。新規会員1.5万人を獲得している。前年度は1ケタに抑制した出店数は、年度末までに50店に迫る計画だ。

一方で誤算となったのが、瀬戸社長が積極的に進めてきた企業買収だ。これまで経営不振の雑貨店や住宅メーカー、補整下着、アパレルメーカーなどを買収。グループの子会社数はわずか4年で5倍超となった。

週刊東洋経済はこれまでの特集記事で「減量ジムとはシナジーのない買収を続けているのではないか」との指摘を繰り返してきた。その都度、瀬戸社長は「きれいになりたいなどの欲求を満たすための商品・サービスを提供する『自己投資産業』の企業を対象にしており一貫性はある」と反論した。


だが、ここにきて急膨張のツケが回ってきている。特に不振なのが、買収して1年未満の子会社だ。2017年12月に買収したが詳細は開示されていなかったヘルスケア製品のジャパンゲートウェイは、多額の費用を投じた広告が不発で20億円の損失を計上した。

また2018年3月に買収したゲームや書籍を扱うワンダーコーポレーションは、商品評価損や不採算事業撤退のための構造改革費用32億円を計上。両社の減益要因は中間決算だけで約50億円に達し、通期ではさらに15億円を積み増す見通しだ。

大きな躓きとなったワンダー社の買収

特にワンダーコーポレーションの買収は問題含みだ。RIZAPグループは、2017年5月に繊維商社・堀田丸正の買収を発表。その後は、悲願となっていた札幌証券取引所から東証1部への上場に向けた準備を水面下で進めており、業績見通しを左右する大型の企業買収を手控えてきた。

だが子会社でコンプライアンス問題が発覚し、早期の東証上場は難しいとわかった時点で、再び買収へとアクセルを踏み込んだ。その対象がワンダーコーポレーションだった。

ワンダーコーポレーションはゲームソフトや書籍を扱う「WonderGOO」、CD・DVD販売の「新星堂」などを北関東中心に全国展開する。買収にはワンダーコーポレーションの店舗に減量ジムや買収子会社の雑貨店舗などを出店していく狙いがあった。

減量ジムの売上高が年間300億円に満たないのに対し、ワンダーコーポレーションは同700億円を超える。さらに傘下の新星堂はCD販売市場の急縮小という逆風にあえぐ。

ワンダーコーポレーションは2013年に新星堂を救済買収したものの、現在に至るまで一度もセグメント黒字化することなく、赤字を垂れ流し続ける。結果、ワンダーコーポレーションは5期連続の最終赤字という状況だ。

こうした子会社の経営再建を優先するため、ライザップは新たな企業買収を実施しないと公表した。

だが、この買収凍結は2つ目の誤算となった。2018年度の業績見通しに織り込んでいた、利益の押し上げが見込めなくなったからだ。

これまでRIZAPグループは、主に経営不振の赤字企業をターゲットとし、その企業の純資産額を下回る金額で買収を行ってきた。

結果、買収額と純資産との差額を負ののれん(割安購入益)として営業利益に計上。2017年度は営業利益の約6割を負ののれんが占めた。2018年度も営業利益の半分程度を見込んでいたが、買収凍結により、103億円の下方修正要因となる。


負ののれんで利益を押し上げる会計手法については、週刊東洋経済でもたびたび問題を指摘してきた。瀬戸社長は、「利益ありきではなく、バランスシートしか見ていないといっても過言ではない」と、かみ合わない。

松本氏が経営を監視

今回の決算を受けて、瀬戸社長は「グループシナジーや短期的な収益改善が見込めない事業は縮小、撤退、売却を検討していく」と明言。従来の拡大策から180度の方針転換を図る。ぱどの展開する出版事業やタツミプランニングのメガソーラー事業などが、俎上に載るとみられる。

決断を迫ったのが6月に代表取締役に就任した松本晃氏だ。松本氏は直近までカルビー会長として辣腕を振るってきたプロ経営者。

決算説明会に同席した松本氏は、「ライザップはおもちゃ箱のような会社で面白そうと思っていたが、いくつか壊れているおもちゃがある。今修繕しないと大きな問題になる」と指摘。今後は構造改革担当として、子会社の再建に本腰を入れる瀬戸社長を監視していく。


当記事は「週刊東洋経済」12月1日号 <11月26日発売>からの転載記事です

だが、復活の道筋は厳しい。本業から生み出せる営業利益の実力値は現状、減量ジムを中心に推定で100億円前後。企業買収や負ののれんにはもう頼れない。

RIZAPブランドで展開するゴルフ教室や英会話教室は先行投資の段階で、ジムに次ぐ収益の柱になるまでには時間を要する。

「通信簿でいうと5段階評価で現状は1。結果を出すしかない」と、瀬戸社長は語る。皮肉にも“筋肉質”な企業への転換を迫られるRIZAPグループ。結果へのコミットが求められている。