現役引退を表明したレンジャーズのエイドリアン・ベルトレ【写真:Getty Images】

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19歳でメジャー昇格 2004年にドジャースで本塁打王

 MLBで、現役最多の3166安打を打っているレンジャーズの39歳ベテラン、エイドリアン・ベルトレが引退を表明した。

 ベルトレは1979年4月7日、ドミニカ共和国の首都サントドミンゴに生まれる。父はドミニカ共和国で人気がある闘鶏用の鶏を飼育する業者だったが、フェリペ・アルー、ヘスス・アルー、マティ・アルー(元太平洋)の3兄弟をはじめ、有名な野球選手を輩出したドミニカ野球の名門アルー家と姻戚関係にあり、エイドリアンは3兄弟にかわいがられて野球を始めた。

 リセオ・マキシモ・ゴメス高に進むも、1994年7月にドジャースとプロ契約を結んだ。MLBの規約では16歳にならないとプロ契約はできない。ベルトレは15歳と3か月だったが、出生証明書を偽造して契約した。通常、こうした偽造は年齢を若く見せるために行われるが、ベルトレの場合は、反対に年上に見せるための偽造だった。それだけベルトレは早熟だったのだ。

 当初はドミニカ共和国のプロリーグでプレー。アメリカのマイナーでプレーをしたのは17歳になった1996年から。すでに長打力はずば抜けており、1998年には3Aを飛び越して、2Aからメジャーに昇格した。19歳だった。守備位置は三塁手。

 当初は粗削りで、身体能力は高かったが三振も多く、確実性に乏しい打者だった。しかし、2004年に48本塁打で本塁打王を獲得。これは当時の三塁手の最多本塁打だった。121打点、打率も.334で4位となった。

 同年オフにFAとなり、争奪戦の末、シアトル・マリナーズに5年総額6400万ドル(約72億2200万円)の大型契約で移籍。イチローのチームメイトになった。

 しかし、マリナーズでの5年間はベルトレにとって失意の時期になった。本塁打は5年間でわずか103本、打率も.276が最高。ドジャースでの本塁打王はフロックだという評判が立った。

 ただし、三塁守備は長足の進歩を見せ、2007、2008年とゴールドグラブを獲得。ゴロさばきが俊敏で、肩も強かった。

レッドソックスでオールスター選出 レンジャーズで円熟味増す

 契約満了後の2009年オフにボストン・レッドソックスと1年契約を結ぶ。ベルトレにとって2010年は背水の陣のシーズンとなったが、リーグ最多の49二塁打、28本塁打、102打点、打率.321(4位)と大活躍。初めてオールスターにも選出された。

 翌2011年にテキサス・レンジャーズと5年総額8000万ドル(約90億2800万円)の契約を結んだ。レンジャーズでは打率3割を3回、30本塁打を4回、100打点も3回記録。打撃のベストナインであるシルバースラッガー賞も3回、ゴールドグラブ賞も3回受賞した。

 レンジャーズの不動の三塁手、そして主軸打者として円熟味のあるプレーをした。若い頃に比べて精神的にも余裕が生まれたのか、この時期には同僚に頭を触られて怒りまくる演技をして笑いを取るなど、人間味も魅力となった。

 チームは2015年にオプションを行使して契約を1年延長、さらに2016年に2年3600万ドル(約40億6300万円)で契約。2017年7月30日のオリオールズ戦では、イチローに次ぐ史上31人目の3000本安打を記録、契約満了の2018年をもって引退を表明した。

 ベルトレのキャリアを見て思うのは、早いプロデビューのメリットだ。失敗しても再起の時間が十分にあった。レンジャーズと契約した時点でも、まだ32歳。レンジャーズでの8年間がなければ、ベルトレが大選手の仲間入りをすることはあり得なかった。

 MLB21年の通算成績は2933試合11068打数3166安打477本塁打1707打点、打率.286。本塁打王1回、最多安打1回、シルバースラッガー賞4回、ゴールドグラブ賞(三塁手)5回。特筆すべきは2008年、2012年、2015年と3回サイクル安打を記録していることだ。

 またドジャース(147本)、マリナーズ(103本)、レンジャーズ(199本)と3球団で100本塁打以上を記録している。

 三塁手としての出場試合数はブルックス・ロビンソンの2870試合に次ぎ、MLB史上2位の2759試合を記録した。

 そして、ベルトレはドミニカ共和国出身選手では最多安打も積み重ねた。

〇ドミニカ共和国出身選手安打数5傑。※は現役。

1 エイドリアン・ベルトレ 3166安打
2 アルバート・プホルス 3082安打※
3 ウラディミール・ゲレーロ 2590安打
4 フリオ・フランコ 2586安打
5 マニー・ラミレス 2574安打

 最多安打は今後、プホルスに抜かれる可能性があるが、有資格1年目での野球殿堂入りが確実視されている。現代の名三塁手の名前は、MLBの歴史に深く刻まれるだろう。(広尾晃 / Koh Hiroo)