手取り月収は50万円超という4人家族。ところが家計は年間100万円以上の大赤字。ファイナンシャルプランナーの横山光昭氏は「原因は家計管理が『夫婦の役割分担制』だったから。やりくりは相手がやる、という無責任な意識を変えなければいけない」と指摘。家計の大改造に踏み切らせた。その結果とは――。

■夫婦合わせて月収50万円以上もあるのに大赤字

「海外旅行を計画しようと思って貯蓄を確認したら、ほとんどなくて……」

※写真はイメージです(写真=iStock.com/bee32、agrobacter)

都内在住の丸山徹さん(仮名・46歳)、妻の奈々さん(仮名・45歳)ご夫婦。結婚15年の記念に家族4人でのハワイ旅行に行こうと思い、貯蓄を確認しました。すると口座の残高は150万円。これから子供の教育費がかかる時期を迎えるだけに、貯金に手を出すわけにはいきません。小学校3年生と1年生のお嬢さん2人は、初の海外旅行を楽しみにしていましたが、断念せざるをえませんでした。

夫の徹さんはメディア関係の会社に勤め、手取り月収48万円、妻の奈々さんもパートで月3万5000円の収入があり、世帯での手取り月収は50万円を超えます。それなのに、なぜ旅行代金を捻出する余裕がなかったのでしょうか。

丸山家の家計管理は「役割分担制」。奈々さんは徹さんから、生活費として毎月7万円を渡され、パート代を合わせた10万5000円で、食費や日用品費、交際費、交通費などの流動費部分を担当し、徹さんは住宅ローンや水道光熱費、通信費、子供の学校や塾、習い事などでかかる教育費などの固定費の支払いを担当しています。

■夫からもらったお金はあればあるだけ使っていた妻

一見、きれいに役割分担がされた、管理がしやすそうな家計です。

しかし、役割分担をしたあとのお互いのお金の使い方にはまったくの無関心でした。奈々さんは計10万5000円の生活費を、食費6万円をはじめ、日用品費から交際費まで自分の担当分はきっちり予算を決めて、毎月やりくりをスタートさせています。ところが「(月の半分の)2週間くらいで足りなくなって、その都度、夫からもらっています」とのこと。

そのため、食費の予算は月6万円としていますが、結果的には9万6000円に膨れ上がっていました。その他の費目も、こうした追加のお金があり、それらの合計が毎月いくらになるのかもよくわかっていません。

要するに、奈々さんは夫からもらったお金でやりくりすると意識が希薄で、足りなければ追加でもらえばいいし、もらったお金はあればあるだけ使っている、という状態だったのです。

■全然貯まらない……夫婦“支出分担制”のヤバい闇

一方、夫の徹さんの口座引き落とし分は、住宅ローン10万4000円、子供の塾費・習い事代など教育費で5万8000円、水道光熱費2万6000円、スマホなどの通信費1万6000円、生命保険料1万3000円となっています。

自分のこづかいは「僕の中では5万円と決めている」と、何やら怪しい言い方です。プラスαの出費が濃厚ですが、とりあえず、手取り月収48万円から、7万円(妻に渡す分)と20万9000円(口座引き落とし分・こづかい)を引くと、14万3000円が残る計算になります。

本来ならこの14万円余りを貯金にまわせるはずですが、奈々さんから「追加の食費」の請求があり、1万円、2万円……と五月雨式に渡しています。

加えて、奈々さんから「ちょっと足りないわ」と言われた生活日用品や雑貨、健康関連商品などを、「今月も? しかたないな」などと言いながら自らネットショッピングで購入。その金額は月平均2万4000円とかなり高くついていたのでした。

さらに、自分のこづかいの5万円とは別に、会社内外の人との付き合い(交際費)や、会社の仲間と通い始めたジム費(夫の教育費)などもあり、月末にはすべて使い切るだけでなく大赤字になって、それらをボーナスから補填していたそうです。

■「やりくりや貯金をがんばるのは、自分ではなく相手」

夫婦で家計の役割分担をしているため、相手がどのようにお金を使っているかを知らない、という家庭は意外に多いものです。「相手を信頼している」といえば聞こえはいいですが、その裏には「やりくりや貯金をがんばるのは、自分ではなく相手」という、無責任な意識が潜んでいるようです。

「家計分担」と「夫婦同一家計」のいずれにしても、夫婦で「わが家のお金」に関心を持ち、その使い道や貯金について共有しない限り、いくら収入が多くても貯金はできません。

■家族マネー会議では相手のムダ使いへの非難合戦に

私は、まずは夫婦、その次にお子さんを巻き込んで、お金の話をすることをお勧めしました。いわゆる「家族マネー会議」です。月に一度みんなでお金の話をして、使い道や貯蓄できた額などを共有するのです。話し合いをすると、お互いの価値観がわかり、支出の良しあしを判断しやすくなります。また、家族としてのお金の使い方、貯める額などの目標も共有できます。

進め方は、以下の流れで始めてもらいました。

(1)今月の収入と支出、貯蓄額をお互いに発表する
(2)支出について、お互いに意見を述べ、「必要な支出」と「必要でない支出」を選別する
(3)「必要でない支出」のうち、来月から買わないようにするものを決める
(4)こづかいで購入するのが難しい、あるいは家計から購入してほしいものは、その必要性をプレゼンして、家族みんなの同意を得る。(得られない場合は購入できない)

※写真はイメージです(写真=iStock.com/LeoPatrizi)

1回目の「家族マネー会議」で、それぞれの支出を発表したところ、最初は「ママ友とのランチ、多すぎるだろう」「洋服はバーゲンで買いなさいよ」と、相手の支出に目が行きました。ただ次第に、自分でも「このお金の使い方はちょっとな」と思えるようになり、支出の仕方を意識するようになったそうです。

毎日のように支出がある食費や日用品は、何にいくら使っているのか把握しにくいため、支出の記録をつけることにしました。記録をつけてみると、「コンビニでつい買っていたお菓子」や「デパートで、予定にないのに買ってしまったお総菜」など、「必要でないもの」への出費も少しずつわかってきました。気になった支出は、過剰にならないように意識し、回数を減らしました。また、記録をつけることで使途不明金が減りました。

「妻の教育費」として家計簿上では計上されている、ヨガや料理の教室(月謝計1万円)はママ友のお付き合い程度で通っていたので、やめました。同じように半ば見栄で通っていた夫のジム(月8000円)もほとんど幽霊会員だったので、退会しました。

■月8万5000円もあった赤字が、7万4000円の黒字に転換

また、例の夫の「ネットショッピング代」(月2万4000円)は通常の日用品代で払うことにして、個人的なネットショッピングは5万円のこづかいの範囲内で使うルールにしました。

特に強く節約を促しているわけではないのですが、家族マネー会議などでお金の使い方について考えることで、ご夫婦のお金に対する意識が変わり、月のコスト削減額はなんと16万円以上。もともと月8万5000円もあった赤字が、7万4000円の黒字に転換しました。ボーナスからも毎回50万円以上貯金でき、年間では200万円近く貯蓄できる算段がつきました。

丸山さんのご家庭は、信頼しあっているつもりで、すれ違いであったため、家計管理がうまくいっていませんでした。話し合うことで、互いに大切にしていること、家族のために大切にすべきことと我慢すべきことなどもわかったようです。家族としてどうお金を使っていくべきなのか、どうするとそれぞれの希望をかなえながら効果的なお金の使い方ができるのか。それらを考えるきっかけになりました。

最近は、丸山家のようにすれ違いの家族も増えているように感じます。夫婦それぞれが違う方向を向いてお金を使っていると、無駄が生じやすいものです。収入には限りがありますから、あっという間に足りなくなります。

家族間で風通しをよくして、みんなで考えながらお金を使う。これが一番効率がよいやりくりの仕方だと思います。

■月の家計コスト削減額は「16万円以上」その内訳は

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Rawpixel Ltd)
【丸山家の家計費コストカット額ランキング】
1位 交際費(夫) −3.6万円
夫が自分のこづかいから捻出することに
2位 ネットショッピング(夫) −2.4万円
食料や日用品などで不足分したものを夫がネット上で購入していたが、その習慣を一切やめた
3位 使途不明金 −2.3万円
家計簿つけで5000円まで減らせた
4位 食費 −2.1万円
週予算1万5000円〜1万7500円でやりくりするようにした
5位 被服費(夫) −1.3万円
スーツなどをバーゲン時期にまとめてで買うようして、毎月積み立てることに
6位 教育費(子供) −1.2万円
親の見栄で通わせていた「プログラミング教室」を解約
7位 教育費(妻) −1.0万円
お付き合いで通っていた料理教室とヨガ教室をやめた
8位 交際費(妻) −0.9万円
1回平均3000円×5回のママ友ランチを、1回2000円×3回に
9位 通信費 −0.8万円
夫婦のスマホを格安SIMに変更
9位 教育費(夫) −0.8万円
会社の仲間とジムに通い始めたものの、実はあまり行きたくなかったので解約
※増額した費目
生活日用品 +0.5万円
妻が管理する予算を増額し、夫のネットショッピングは原則しないことに

(家計再生コンサルタント 横山 光昭 写真=iStock.com)