僕の声優人生はここから始まった――小野大輔を虜にした「吹替」の世界

「この仕事を始めてすぐの頃、自分の主戦場は吹替だったんです」――『涼宮ハルヒの憂鬱』、『黒執事』、『おそ松さん』など数々のアニメ作品で活躍する声優、小野大輔はそう切り出した。吹替に対するこだわりや愛情は、並々ならぬものがあるようだ。

映画『Merry Christmas!〜ロンドンに奇跡を起こした男〜』の日本語吹替を務める小野は、赤いペンでページいっぱいにぎっしりチェックの入った台本を持参して取材現場に現れた。アフレコを行ったのは今年の夏。半年ほど前の記憶を辿りながら、本作への熱い想いを語ってくれた。

撮影/アライテツヤ 取材・文/花村扶美
スタイリスト/SUGI[FINEST] ヘアメイク/木村ゆかこ(addmix B.G)

スタッフクレジットでキャラクターの性格を当てる“声オタク”

「洋画も吹替でしか観ないくらい、吹替が好き」と伺ったのですが、その理由を教えてください。
初めて洋画を観たのが、吹替版だったことが大きいかもしれません。僕、小さい頃からジャッキー・チェンの映画がすごく好きだったんですね。吹替版を観ていたので、僕にとってジャッキー・チェンの声は石丸博也さんなんです。
わかります。顔を思い浮かべると、石丸さんの声が頭の中で再生されますよね(笑)。
逆に字幕を観たことがなかったので、小学校の高学年くらいまでジャッキー・チェンも石丸さんみたいな声でしゃべるんだろうなと思ってました。でもある日、実際にジャッキーがしゃべってる声を聞いて衝撃を受けたんです。
というと?
テレビでジャッキーが出演している「暴暴茶」というブレンド中国茶のCMが流れたんですね。そのとき「声が違う」ということにカルチャーショックを受けたのを覚えています。
それからずっと洋画は吹替をご覧になっているんですか?
そうですね。今でも吹替です。字幕のほうが作品を楽しめる方もいらっしゃると思うんですけど、僕は日本人だから文字としてじゃなくて、生きた言葉をどうしても聞きたくて。繊細で丁寧に作られている日本語吹替版であればあるほど、ほかの情報に気を取られず、熱量はそのままに作品に没頭することができるんですよ。
たしかに、日本語はダイレクトに心に響きますね。
ストレートに心を揺れ動かすのは日本語だと思います。余計な情報に左右されずに、むしろ生きた言葉を聞けるのが醍醐味です。その魅力に憑りつかれたことが、僕が声優になりたいと思ったことの一因になってますね。
小野さんの最初のお仕事も吹替だったそうですね。
そうです。僕の声優人生の始まりは吹替だったので、僕の根本には吹替があるのだと思います。
普段、洋画を観るときは仕事目線になりませんか?
仕事目線というよりも、あ、この声は誰々さんの声かな?って思ったり。
スタッフクレジットを見ただけで、キャラクターの性格も当てちゃいそうですね。
声オタクだと思います。そういうところでも楽しめますね。たとえば(大塚)芳忠さんがやってるから、この人は絶対に悪い人だとか(笑)。そういう観方もおもしろいじゃないですか?
たしかにおもしろいですね。
シュワルツェネッガーだったら玄田哲章さんの声がしっくり来るし、トム・ハンクスなら江原(正士)さんの印象が強いですね。トム・ハンクスが来日して空港に到着したところがテレビに映ったとしても、江原さんの声でしゃべりそうって思います。

そういえば、今回の『Merry Christmas!〜ロンドンに奇跡を起こした男〜』で江原さんが僕の父親役なのもすごくうれしかったです。じつは僕、誕生日が同じなんですよ(笑)。

自分にこの役が務まるか……最初はプレッシャーを感じた

そんな小野さんが今回、吹替を担当されたのが『Merry Christmas!〜ロンドンに奇跡を起こした男〜』の主人公、チャールズ・ディケンズです。不朽の名作『クリスマス・キャロル』がいかにして誕生したのか。その創作過程を描いた作品です。
『クリスマス・キャロル』と聞いたときに、子どもの頃を思い出して、童心に返るような感覚になりました。翻訳本を読んだ記憶があって。日本文学ではないけど、僕の世代くらいの日本人なら一度は触れている古典の名作みたいな位置づけかもしれませんね。
最初にオファーを受けたときは、どう思いましたか?
なんて言うんでしょうね。……自分に務まるのかなという不安がありました。
小野さんでさえ、そういう気持ちになることが?
『クリスマス・キャロル』という名作を生み出した偉大な作家を演じることに、すごくプレッシャーを感じました。自分も精神的にその偉大な人物であらねばならないというプレッシャーですね。ただ、リハーサルVを見させていただいたり、台本を読んでいくうちにそういうプレッシャーは吹き飛びました。
どういうところで?
ディケンズという作家を、僕は勝手に聖人君子みたいな人なのかなと思っていたんです。そしたら逆で。すぐ感情を爆発させるし、自由奔放なところもあってまわりの人たちに迷惑や心配もかけるし、借金もする。人間臭い人なんですよね。

そういう彼の人間味や泥臭さが全編に現れていて……。もう最初のプレッシャーはすぐ飛んでいって、人間としてなんて魅力的な人だろうと。ディケンズのことがすっかり好きになってしまって、早く演じたいという気持ちに変わっていきました。
収録は真夏に行われたそうですが、暑いさなかにクリスマスの話というのは、やりづらいものですか?
僕らの仕事って、たとえば冬リリースのCDのPVを夏に撮ったり、来年公開の作品を前年のお正月に録ったり、そういうことがよくあるんです。アフレコをして完成は2年後ということもありうるんです。
なるほど……!
なので、夏なのにクリスマスの話という不思議さはまったくなくて。むしろ、この作品はどの季節にどのタイミングで観ても不変のテーマであり、すべての人に伝えたいメッセージが込められていると思います。クリスマスを題材にしながらも、春でも夏でも秋でも季節を気にせず観てほしいという気持ちで、声を当てさせていただきました。

「こんなに健気な女性を演じる真綾ちゃんと組んだのは、たぶん初めてです」

ドケチで人間嫌い、無慈悲な老人実業家のスクルージに声を当てているのは市村正親さんです。実際にお会いになったことはありますか?
残念ながらお会いしてないんです。日本語吹替版演出の木村絵理子さんが、「市村さんは明るくて気さくな方。一緒に仕事をして楽しかったし、自分自身もすごくやりがいを感じた。小野くんにも会ってほしかった!」とおっしゃっていて。いつかお会いしたいなと思っています。スクルージはディケンズの分身ですから。
ディケンズの妻、ケイトの吹替を担当されたのは、小野さんと何度も共演されている坂本真綾さんです。TVシリーズ『glee/グリー』の吹替版では恋人役も。夫婦役は今回が初めてだそうですね?
意外にもそうなんですよね。真綾ちゃんとは本当にご縁だと思うんですけど、アニメーションでも洋画吹替でも恋仲になることが多くて、不思議だねっていう話をよくしています。
本作ではついに結婚しました(笑)。坂本さんに関して新たな発見はありましたか?
発見というか、いつもと違ったのが、僕と真綾ちゃんが組むときってだいたい僕の役が受け手で、真綾ちゃんが演じる女性はエネルギッシュで強いっていう関係性が多いんです。本当にびっくりするくらい毎回(笑)。

『ファイナルファンタジーXIII』や『glee/グリー』もそうだし、『黒執事』だと真綾ちゃんは男の子の役(シエル)ですけど、精神的にとても強いキャラクターでした。あと『花郎<ファラン>』という韓国ドラマの吹替でも、真綾ちゃんが演じていたのはすっごく気の強い女性で、こちらの役が好きだと言ってるのに全然相手にしてくれなかったです(笑)。
でも、今回は違うぞと(笑)。
いつもとはまったく違っていました。精神的な面でも夫を支える、聡明で献身的な女性を見事に演じていました。
坂本さんのお芝居はいかがでしたか?
ディケンズは芸術家肌な夫ですから、一緒に暮らしていて息が詰まるような苦しい部分がたくさんあったと思うんです。それでもずっと我慢して、内助の功で一歩引いて見守ってくれていましたよね。献身的にサポートしてくれる……こんなに健気な女性を演じる真綾ちゃんと一緒に仕事をしたのは、たぶん初めてです。

信頼の置ける役者さんと、こうして新しい掛け合いができるのはすごくうれしいですね。

稲光の中、スクルージが登場するシーンは鳥肌が立った

本作のアフレコはおひとりずつ行われたそうですが、小野さんは先に誰かの声が入っている状態で臨まれたのですか?
僕は後半のほうでした。ディケンズのパートは2回に分けて行われまして、1日目はまだ市村さんがいらっしゃらなかったんですけど、ほぼほぼみなさんの声が入っている状態で、2日目の収録で市村さんの声も入っていたので、スクルージを聞きながら演じることができました。
やはり相手の声が入っているほうが演じやすいですか?
もちろん。とくにスクルージに関してはそうでした。
スクルージはディケンズが生み出したキャラクターで、劇中でもふたりが対話をしながら執筆を進めていくシーンがありますから、ふたりの掛け合いは重要ですよね。
そうなんです。ディケンズは物語を構築するにあたって、自分自身がそのキャラクターを少し演じてみるところがあるんですね。それが物語の随所に出てくるんです。

ディケンズがスクルージの声マネをするシーンがあって、そこはもう市村さんのお声を先に聞いたうえで演じないと成り立たないと言いますか……。だから、本当に恐縮なんですけど、市村さんの声色やしゃべり方を真似させてもらって。
市村さん演じるスクルージの声色を真似してみて、何か感じることはありましたか?
市村さんの熱量をすごく感じました。ディケンズの生い立ちや父親との確執、内面の葛藤などが描かれているところはシリアスで重いんですけど、その気持ちをバネにふつふつと燃え上がるエネルギーや情熱、湧き上がる創作意欲の対比がスゴくて。

陰があるからこそ陽がより輝くというか、それがスクルージのお芝居からも感じ取れて、市村さんだからこそ内に情熱を秘めながらも重厚でシリアスで、ともすると冷淡でゾクッとするスクルージが表現できるんだと感動しました。
印象に残っているシーンやセリフはありますか?
んー、いろいろあって難しいですね(笑)。そうですね……スクルージの登場シーンでしょうか。ディケンズが「スクルージ!」って名前を生み出すところがすごく印象的でした。
自室にこもって「これじゃない」「これも違う」と、いろいろな名前を口に出しながら悩むシーンですね。
ディケンズはキャラクターの名前を決めるときに、実在する自分の周りの人の名前をメモしておいて、それをヒントに登場人物を作り上げていく手法を取ってるんですね。そして、名前がしっくりと当てはまったときに、その登場人物が現れて生き生きと動き出し、ときにはディケンズと対話をする。そこが本当に彼の天才的な部分であって、だからこんなに魅力的な人物を描けるんだなと思った瞬間でした。
スクルージの名前が出るまで、相当悩んでましたね。
ああでもない、こうでもないって部屋中を歩き回ってましたよね。最後に「スクルゥーーーーージ!」って巻き舌で叫んだとき、パーンと稲光が走って風が吹いてきて、目を開けるとそこにスクルージが現れるという、あの瞬間は鳥肌が立ちました。

誰もが作品の世界を平等に味わえるのが、「吹替」の醍醐味

本作は「わかりやすさを極めた新感覚吹替版」と謳っていますが、小野さんから見て素晴らしいと思うところはどこですか?
いちばんは誰もが楽しめるところだと思います。言葉を覚えた子だったら4、5歳の子でも見れちゃうんじゃないかなと。もっと言うと、子どもはもちろん、お年を召した方でも、セリフだけでストーリーを楽しむことができるんですよ。つまり老若男女問わず誰もが作品の世界を平等に味わうことができる。アフレコしている僕も、吹替版に力を入れているなと肌で感じました。
なるほど。ところで今、小野さんの手元にある台本は小野さんのものですか?
そうです。
たくさんの書き込みがされてますね!
そうですね、僕はけっこう書き込むほうだと思います。でも、今回はとにかくセリフを読んでいて違和感がまったくなかったんですよ。より口語に近いというか自然でした。それにアフレコの最中は、しゃべり方とかスピードなども時間をかけて調整して、細部までこだわって収録しましたね。

今回の吹替版は“超訳吹替版”と銘打たれているそうですが、こういうわかりやすいアプローチにしたことは、『クリスマス・キャロル』の精神にもつながっていると思うんです。
『クリスマス・キャロル』の精神?
作中に「誰も何も拒むことなくあたたかく迎え入れよう」というセリフがあるんです。“みんなの幸せを祈ってるから、誰でもここに来ていいんだよ”っていう、その精神こそがこの超訳吹替版の精神でもあって、この作品にリンクするところだなって思います。
なるほど。おっしゃる通りですね。綺麗にまとめてくださって、ありがとうございます……!
インタビューの最後はこの話をしたいと思ってましたので。今回の吹替版を作る理由が『クリスマス・キャロル』の精神と同じだと知って、リンクしていることにびっくりしました。それこそが今回の吹替版のいちばんのやりがいでしたね。
小野大輔(おの・だいすけ)
5月4日、高知県出身。O型。代表作はアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』(古泉一樹)、『黒執事』(セバスチャン・ミカエリス)、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』(古代 進)、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ(空条承太郎)、『おそ松さん』(松野十四松)、洋画吹替版『パシフィック・リム:アップライジング』(ネイサン・ランバート)、『ワンダーウーマン』(スティーブ・トレヴァー)、TVドラマ『glee/グリー』(フィン・ハドソン)、『GOTHAM/ゴッサム』(ジェームズ“ジム”・ゴードン)、『花郎<ファラン>』(サムメクチョン/ジディ)など多数。

出演作品

映画『Merry Christmas!〜ロンドンに奇跡を起こした男〜』
2018年11月30日(金)、新宿バルト9ほか全国ロードショー
https://merrychristmas-movie.jp/
配給: 東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
©BAH HUMBUG FILMS INC & PARALLEL FILMS (TMWIC) LTD 2017

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、小野大輔さんのサイン入りポラを抽選で2名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2018年11月28日(水)12:00〜12月4日(火)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/12月5日(水)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから12月5日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき12月8日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
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