「いつブームが去ってもいい」月収100万円の会社員から、1日1個ボードゲームを手売りする世界へ

ボードゲームカフェに代表される「ボードゲームのプレイスペース」は2018年11月現在、全国に約350店舗。ここ数年ずっと増加傾向にあるそう。「ボドゲ沼へようこそ」第2回ではボードゲームカフェの運営をはじめ、ゲームの企画販売など、多数の事業を手掛ける株式会社リトルフューチャーの代表・江見裕介さんにインタビュー。「ボドゲカフェは気になるけど、初心者にはハードルが高い…」と怖がっている人も、通い慣れている人も必見です。

ボードゲーム制作会社がカフェを始めた理由

江見さんは、ボードゲームの商品企画・制作、ゲームイベント運営など、多角的な事業展開をされていらっしゃると思います。そんな中で、ボードゲームカフェ「リトルケイブ」を始めようと思ったきっかけはなんだったんでしょうか?
実は、自分のボードゲームが家の押し入れに入りきらなくなったのが始まりで…(笑)。ボードゲームをしまった旅行鞄が20個以上ある状態になって、どうにかしたかった。ボードゲームカフェを作れば、置き場所になるし、遊んでもらえるし、一石二鳥だ! って考えたんです。
ボードゲーム好きで収納に困る人は多そうですよね(笑)。では最初は、江見さんご自身のコレクションを貸し出していた…軽いノリでスタートしたように聞こえますが、どうして成功したんでしょう。
出店場所にこだわったからかな。1店舗目を高円寺に出したんですが、高円寺には有名なボードゲームショップ「すごろくや」がある。もともと、ボードゲーム好きには知られた街でした。でも、みんな寄り道せず、ゲームを買ったらすぐ帰ってしまう。他にもボードゲームを遊んでいける場所があればいいのに、と受け皿のつもりで始めました。

▲リトルケイブ高円寺店の様子
当時はボードゲームカフェの空白地帯だったんですね。確かにボードゲームカフェって一般的なカフェより、最初は入りづらいイメージがあるので「寄り道コースにある」ことでハードルが下がるかもです。
高円寺店は入ってみると、広さを感じる空間になっていますが、お店のコンセプトやインテリアはどんな狙いがありますか?

「ボードゲームを置いてる棚の前に座席を置かない」ことを徹底してます。ゲームの陳列棚の前に座席があると、そこに座っている知らない人に「ちょっとすみません…」って話し掛けて、取ってもらったりしなくちゃいけないじゃないですか。しかも、他の人が遊んでいる最中に中断させしまうことになる。それって話し掛ける方も、プレイ中の方もストレスだなと。
気兼ねなくゲームが楽しめるよう、動線が工夫されているんですね。
今日お邪魔している新宿店は2店舗目。ここも、立地にこだわっての出店ですか?
はい。新宿エリアも、当初は他にボードゲームカフェがなくて。オフィス街が近いので、平日のランチ利用も結構多いです。お昼はボードゲームカフェだと気付かずにフラッといらっしゃる方もいるかもしれません。
▲美味しそうな写真が並ぶメニュー
お料理にもこだわっていらっしゃると思うのですが、人気メニューを教えてもらえますか?
高円寺店と新宿点ではお品書きも、よく出るメニューの傾向も違いますね。新宿店では「餃子のミートソースグラタン」が定番。2日間煮込んだソースをスキレット皿に入れて焼く、こだわりの味です。

▲餃子のミートソースグラタン(700円)。バケット(150円)にアツアツのソースを付けて食べてもいい感じ(全て税抜)。
高円寺店で人気なのはリトルケイブバーガー(700円)。近くのおいしいパン屋さんから仕入れていて、新宿にはないメニューです。もし今後ボードゲームブームが去ってもカフェとしてやっていけるレベルですよ(笑)。椅子やテーブルも、ゲームカフェだからと安いもので妥協せず、きちんとした飲食店で使われている家具を置いているので、居心地が良いはずです。
新宿店にはハンモックまでありますもんね。ゴハンも美味しくて、空間もオシャレ…家でゲームするより快適かも…。ふたつの店舗はフードメニューだけでなく、人気のゲームも違いますか?

はい。新宿店ではカジュアルなゲームが人気で、高円寺店だと時間がかかるのものがよく遊ばれる傾向です。お客さんの層が結構違うなと感じます。新宿だと、飲みの2次会でカラオケに行く代わりに立ち寄る、みたいな使い方をしてもらってたり。
具体的なタイトルを挙げると、新宿店は「ボブジテン」や「クイズいいセン行きまSHOW!」など短時間で盛り上がれるパーティゲーム系。高円寺店は「サイズ」シリーズなど、2時間くらいかかる上級者向けゲームの貸し出しが多くなります。
どちらの店舗も、持ち込みで遊ばれる方もいますね。買ったはいいけど、一緒に遊ぶ人がなかなか見つからない…というときは「リトルケイブ」に来てもらえれば、誰かが参加してくれます。
まぁ高円寺店はゲームが約1500個あるので、よほど珍しいタイトルでなければご用意できますが。
1500個! それは確かに、選び放題ですね!

今後は「泊まれるボードゲームカフェ」や「回転寿司ゲームカフェ」も!?

両店舗とも人気店になっていますが、3店舗目も考えてらっしゃるんでしょうか?
はい。やりたいことがたくさんあるんですよ。まずは、泊まれるリトルケイブですね。今は泊まれる本屋さんもありますし、みんなで夜通しボードゲームができる場所がつくりたいなーって。
うわー、楽しそう。行ってみたいです…!
他には、“回転寿司店”形式のゲームカフェ。
回転寿司!?
回転寿司って、真ん中に店員さんがいて、その周りに4人掛けのボックス席があるお店が多いじゃないですか。あの形式だと、スタッフがどこの席のお客さんにでもインスト(ボードゲームのルール説明)がしやすいなと。
▲回転寿司ゲームカフェのイメージ
インパクト狙いの 冗談かと思いきや、めっちゃ合理的な理由でした! 自分では手を出しにくいゲームの楽しみ方を教えてもらえるのも、カフェの魅力ですし、インストは大切ですよね。
さらに回転寿司の再現をするなら、回転するレーンにボードゲームを乗せて流すのもいいですしね。回ってきて「こんなのあるんだ!」って、思わぬゲームとの出合いのきっかけになったりして。
東京以外の場所にも出店してみたい。愛着のある静岡か、地元の岡山もいいなー。岡山には「ボードウォーク岡山」っていう有名なボードゲームショップがありますしね。

▲リトルケイブ新宿店
アイデアいっぱいで、素敵です。全部行ってみたいなぁ。
ボードゲームカフェを運営するメリットとしては、マーケティングじゃないですけど、お客さんのトレンドがわかるというのもあります。どんなゲームが遊びやすいのか、リアルに見えるんです。自分たちがゲームを企画するとき「ちゃんと(カフェで)遊んでもらえるゲームになっているか?」という視点があることは、商品開発にも役立ちます。

月収100万円の会社員から、1日1個ゲームを手売りする世界へ


江見さんは最初はゲームとは関係がない会社のサラリーマンだったんですよね。
美容専門学校の営業をしていました。僕、美容専門学校に通って、美容師の資格も持ってて。でも結局、美容師にはならず、美容関係の専門学校で営業をしました。それがめっちゃうまくいって! ハタチのときには月収100万くらいもらってました(笑)。

20歳で月収100万! イケイケじゃないですか…。普通だったら、その安定した生活を捨てないと思うんですけど、なんで起業しようと思ったんですか?
自分でサービスをつくりたかったんです。あんまり他人の言うことを聞ける性格じゃないので、サラリーマンには向いてないな〜と思ってた。
2013年に会社を立ち上げた当初は、ボードゲームの会社ではなかったって本当ですか?
はい、ゲームを扱うことは全然考えてなかったですね。もともとはWebの制作会社でした。会社員時代に美容専門学校の公式サイトとか、コスメの通販サイト運営を経験して、「これならいけるかも?」って感じたのが起業のきっかけだったので。
クライアントのホームページ制作代行から、ゲームの製造へ…って、かなり大幅な方向転換ですね。どうしてボードゲームの会社になったんでしょうか。
たまたま趣味で「サンゴク」というゲームを作ったら、めちゃくちゃ売れたんです。1万個くらい。「三国志」に登場する武将で対戦するカードゲームなんですが。それで、この道で生活できるじゃんって手応えを感じました。

▲歴史好きにもたまらない「サンゴク」はシリーズ化され、拡張パックも出ている。
素人がいきなり1万個! 夢物語みたいに聞こえますけど…どうやってその数字を叩き出したんですか?
まずはフリーマーケット。ボードゲーム関係はもちろん、「三国志」好きには刺さるはずだと思ったので、三国志のイベントがあれば出店してました。
あとは書店さんにお願いして、お店の前のスペースを借りて手売りしたこともあります。全然売れませんでした…1日で1個くらい(笑)。とにかく、あらゆる機会に参加して、周りの人にも声をかけて、少しずつ売っていきました。
販売数が大きく跳ねたのは、ヨドバシカメラさんに置いてもらってからです。最初は「うちじゃ扱えない」と断られちゃったんですが、ヨドバシに卸している問屋さんを通せば売れるかもってことを教えてもらって。幸運にも、問屋さんの審査に通ったので、そこからは広がっていきましたね。
突破力がスゴイ! 営業職の経験が活きたんですね。
そうかもしれません。「サンゴク」がヒットしてからは「よし、ゲームでやっていこう」と決意して、年に2,3本のペースで新作をつくるようになりました。例えば「ボケて(bokete)」っていうWebサービスをカードゲーム化したり。「ボケて」はもともと僕が大好きなアプリで、1日に10回は見ちゃってたので、「一緒に仕事したい!」 と自分から提案しました。
▲写真で大喜利をする大人気サービスをカードゲーム化した「ボケて」
他には、人気の「人狼ゲーム」をボードゲーム化した「ワー!ワーウルフ」や、水平思考ゲームをアレンジした「黄金体験」などを手がけました。

▲シチュエーションパズル、いわゆる「ウミガメのスープ問題」をゲームにした「黄金体験」
複数のゲームをデザインしていく中で、特に嬉しかった経験はありますか。
あるゲームのパッケージのなかに、こっそり落書きを仕込んだことがあるんですよ。かなり見えにくい場所だったんですけど、それを見つけて連絡をくれた人がいたんです。すごく細かいところまで注目してくれたんだなって感動しましたね…。
ゲームの中にゲームが入ってる感じになっていたんですね。遊び心を持つ作者と、お客さんとの密かなコミュニケーション…いい話だな…。
江見さん自身は、いつからゲーム好きになったんでしょう?
小学校高学年くらいから既に、ものすごいオタクで。部活動として、手作りゲームを作って遊んだこともあるし、トレーディングカードゲームとか、サブカル的なものは何でもやってました。当時大流行した「マジック:ザ・ギャザリング」の中国地方大会に出場したこともあります。
最初からアナログゲームが主体だったんですね。テレビやスマホのゲームはやらないんですか?
スマホゲームでめっちゃ好きなのが、カイロソフトから出ている箱庭をつくるシリーズです。ドット絵が良くて。たくさんストーリーがあって、どれも基本の遊び方は同じなのに、なぜかつい遊んでしまう。シリーズで5つくらいダウンロードしています(画面を見せてくれる)。
あとはハップの「ママにゲーム隠された」も好きです。お母さんに隠されちゃったテレビゲームを部屋の中から見つけるという、簡単な脱出ゲームみたいなもの。

「箱庭タウンズ」
「ママにゲーム隠された」
意外にシンプルなゲームがお好きなんですね。
僕が作ったゲームだと「キティズ」はシンプルさがウリです。
ボードゲームだとアレックス・ランドルフ(米出身のゲームデザイナー。「ガイスター」「チャオチャオ」「ハゲタカのえじき」「DOMEMO」など人気タイトルを数多く手掛けた)がデザインした作品は大体好きですね。

▲ルールがシンプルで絵柄もキュートな「キティズ」
リトルフューチャーの、自社ゲームの企画・販売以外の事業についても伺って良いですか?
まず、自社のゲーム制作以外に、個人のゲームデザイナーの方や、自主制作サークルから依頼されたゲームの印刷代行をしています。実はこれが一番大変な仕事かもしれません(笑)。
どんな苦労がありましたか?
台湾の工場で印刷してるんですが、向こうは日本以上に湿気がすごくて。送られてきた部品が全部カビていたときはショックでしたね…。他には、納品されたパーツが不足していたり。この仕事のおかげで、トラブル対応力は相当鍛えられました(笑)。
イベントを開催されることもありますよね。
「東京ボードゲームコレクション」っていう、小規模なゲームマーケットのような即売会を開催しています。販売機会を増やすことで、印刷事業を使ってくれる人も増えるので、両軸になっていますね。

発売直後に完売した「東京サイドキック」は、海外展開も予定

最新作の「東京サイドキック」は、今まで作ってこられたゲームと比べて、かなりヘヴィですよね。
うーん、僕はシンプルだと思うけど。いろいろな要素が絡み合ったゲームなので、ちょっと慣れた人向けかもしれませんが、「東京サイドキックプレイ会」みたいなイベントを開催するとたくさんの方に参加いただけるので、とっつきにくくはないのかなと。
ただ、発売してから半月くらいですぐ売り切れちゃって…ネットで2倍くらいのプレミア価格がついてるのを見かけたことがあります。12月には拡張セットと同時に再販予定なので、少し待っていただければ。
大人気ですね。海外展開も決定されているとか。
中国語版は決まってますね。2018年内には出る予定です。「サンゴク」も中国語版が発売されてるんですが、同じ会社に担当してもらってます。
10月のエッセン(ドイツで開催される大規模アナログゲームイベント)にも持ち込んでPRしました。「東京サイドキック」は英語版も出したくて、キックスターターでクラウドファンディングを始めるつもりです。

▲アメコミ風のキャラクターと世界観が魅力の「東京サイドキック」
いろんな言語で楽しめるようになるんですね!他のゲームも海外で販売されるんでしょうか?
はい、「キティズ」は既に台湾版があって、これから英語版・フランス語版も出る予定です。直感的に絵柄でルールを理解しやすいゲームなので、いろんな国の方に楽しんでもらえると思います。
ゲームのタイプによって展開する言語や地域も調整されているんですね。
最後に、これから販売する予定・制作中の新作について教えていただいてもいいでしょうか。

今作ってるのは…日本刀を集めるゲームです。タイトルは「刀剣コレクション」かな。最近の日本刀ブームに乗る感じですが、内容としてはかなりゲーマー向けになる予定です!



取材前は「ボードゲームの世界に彗星の如く現れた天才ヒットメーカー」のイメージだった江見さん。実際はクリエイティブなだけでなく「トレンドを読む力」と「営業力」を持った、敏腕経営者でした。江見さんのような目利きが集めたゲームを自由に借りて遊べるボードゲームカフェ。未体験の人も、ご無沙汰の人も、休日や忘年会帰りに訪れてみては? 家が散らかっていて友達を呼べないときも、ボドゲカフェなら心置きなく集まれます(笑)。



撮影/笹井タカマサ 取材・文/ミヤザキユウ デザイン/桜庭侑紀 図解/坂中愛実
協力/リトルケイブ新宿店(東京都新宿区新宿1-18-5 ネスト新宿御苑ビル2階)
江見裕介(えみ・ゆうすけ)
株式会社リトルフューチャー代表。ボードゲームの製作販売・企画制作・印刷、ボードゲームカフェ経営を手がける。

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