時代が変わっても、僕らがやることは変わらない。高橋幸宏と砂原良徳が語る「40年越しの完成」。

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近年、海外のレコード・バイヤー、そして若いアナログファンやDJの間で話題になっていた高橋幸宏さんのソロデビュー作「Saravah!」(78年)。

YMOのメンバーである坂本龍一と細野晴臣、山下達郎や吉田美奈子らが参加したアルバムは、ボサノヴァ・マナーのタイトル曲、レゲエの「C’est Si Bon」、ディスコ「Elastic Dummy」や「Back Street Midnight Queen」など、さまざまリズムと優しい歌声がシンクロした傑作とされてきた。

しかし高橋さん自身は、どうやら長年の間「Saravah!」の出来に満足していなかった様子。その理由は、ずばり自身の歌声だったという。


 

そこで、現代の技術を使い、「Saravah!」の演奏部分はそのままに、自身の歌の部分だけを録音し直し、ミックスダウンとマスタリングを新たに施したというスペシャル・ヴァージョン「Saravah Saravah!」が10月24日に発売された。まさに「アナログな音」とテクノロジーの融合だ。

「Saravah Saravah!」のマスタリング(音量や音質の調整)には、バンド「METAFIVE」のメンバーとして高橋さんと共に活動している砂原良徳さんが参加。

どのような制作作業だったのか、おふたりは「アナログな音」についてどのように考えているのか? 話を聞いた。

高橋幸宏さん(左)と、砂原良徳さん(右)。
 
アナログでもストリーミングでも、僕たちのやることは根本的には変わらない。
 
―ところで今回、「アナログな音」をテーマにした取材ではありますが、おふたりはSpotifyやiTunesなど、ストリーミングで音楽を聴くことはありますか? 
 
高橋幸宏さん(以下、高橋) Spotifyはたまに利用しますよ。YouTubeは、昔のライブ動画を探したりするために見るかな。
 
砂原良徳さん(以下、砂原) 僕は結構、YouTube見ますよ。最初は、犬がひたすら白菜を食べる動画にハマったんです。そのあと、今度は犬がひたすら骨を食べる動画にハマって。今は、いろんな人がチャーハンを作る動画にハマってます。
 
高橋 まりん(砂原さん)は本当にマニアックだよね(笑)。僕が最近やるのは、ストリーミング動画を見ながらのファッションチェックかな。例えばトム・ブラウンのシルエットは、トム本人は映画「断崖」(41年)からの影響だと言っている。でも、僕はパンツの丈などを総合して、ジャック・レモン主演の「幸せはパリで」(69年)じゃないかと思っていて。そういう確認作業には、すごく便利。
 
―その分析も十分、マニアックです!
 
―音楽ストリーミングの音質などはどう感じていらっしゃいますか。
 
砂原 みんなブルートゥースのイヤホンとかで聞いてるわけでしょ。そうやって楽しむ分には、僕は十分なんじゃないかと思うけど。
 
高橋 でも思い返すと、CDが出たばっかりの頃は、正直、あんまり信用してなかったかもな。アナログレコードとCDが一緒に並んでたら、レコードの方を買ってた。実際、最初の頃のCDは音が悪かった気がするんだけど?
 
砂原 どうなんですかね。そもそも人間が聞き取れる周波数に合わせたのがCDのはずなんですけど、ある一定より高音の周波数は省かれてるから、そういう意味ではレコードなんかと比べると今もちょっとは聴こえ方が違う気がする。
 
高橋 そういう違いが分かるってことはまりんはまだ耳が良いんだよ。僕はもう年だから、そんなほんのちょっとの違いなんて分かんないけど(笑)。
 
高橋 ただやっぱり、レコードの良いところは「大きいところ」だよ。手に持ったときのずしっとした感じとか。CDは小さくてやだったんだ。
 
砂原 案外、大きさで選んでたのかもしれない。
 
高橋 その反動か細野さんは、いっとき「レコードは場所を取るから、もう絶対CDしか買わない!」って言い出した時期があったね。
 
砂原 アナログレコードはかさばるし、車に積んじゃいけない、とか制約がありましたよね。熱で曲がっちゃうから。
  
―そんなアナログ時代の、印象的な思い出はありますか。
 
高橋 YMOのアルバム「BGM」のマルチは、当時珍しかった3M(TM)社のデジタルテープだったんだ。
 
砂原 デジタルテープの先駆的なもので、あまりポピュラーな種類ではないんですよね。
 
高橋 そのデジタルテープを、テープデッキのテンションで巻き込んじゃうことが多発して。僕も「Wild & Moody」(84年)のレコーディングのときに、突然テープが巻き込まれちゃって、エンジニアの飯尾芳史くんが急いで止めたんだけどダメで。テープを曲ごとにハサミで切って、なんとかならないものかと、しばらく天井から吊るしたね。昆布みたいにして(笑)。
  
―そんなことがあったんですね。
 
高橋 あとはなんだろうな…YMOのアルバム「BGM」は、締め切りがギリギリで、レコーディングスタジオから細野さんとマルチを持って、マスタリングスタジオへ急いで持っていったなあ。それより以前の「Saravah!」のころは教授(坂本龍一)が書いたストリングス・アレンジの譜面が見るからに難解で、写譜屋さん(譜面を書き写し、清書する人)が嫌がったんだよね。わざと楽器同士の音をぶつけるから、演奏も難しいし。当時、クラシック楽団の人なんかは、ポップスの仕事を小バカにしていた節があるんだけど、教授の譜面を見て、背筋を伸ばしてたね(笑)。
  
―時代は変わりましたね。
 
砂原 ただ、アナログレコードがCDになろうと、ストリーミングになろうと、基本僕らのやることは変わらないと思ってますね。
 
高橋 そうだね。僕らにできることをやるっていう、結局は一緒。

 
40年前の「Saravah!」は、ずっと歌い直したい気持ちでいた
  
―新しく発売された「Saravah Saravah!」についてですが、そもそも、昔のアナログ音源の歌声だけを新しく収録する例って、よくあるんですか?
 
高橋 珍しいとは思いますね。
 
―高橋さんご自身が、40年前の「Saravah!」の歌を気に入っていなかったということですが、具体的にどんなところでしょうか。
 
高橋 それまでずっとドラマーとしての活動でしたし、ボーカリストとして歌うのはほぼ初めてに近かったから、音程も安定していないし、歌い方も探しながらやってるかんじだった。その後、ソロ名義はもちろん、YMOや他のバンドでも歌い続けて、曲調や言語によって歌い方を分けたり、自分の歌い方を確立できた。長年、できれば「Saravah!」に関しては歌い直したい気持ちでいたんです。教授には「幸宏が気に入らないのは、2曲目の『Saravah!』のBメロへ行くときの、本来メジャーコードで歌うべきところが、マイナーになっているところでしょ?」と指摘されてまして。まぁ、その通りなんですけど。
 
砂原 分かっていたんですね。
 
高橋 そうなんだよ。教授に「レコーディング時に気が付いてた?」と聞いたら、「気が付いてたよ」とか飄々と答えられちゃって。
 
―「Saravah Saravah!」の解説には「マルチ(※)がきれいな状態で発見された」とありました。だからこそ、当時のオーケストラに、今の声を乗せることが可能になったんですよね。
※マルチ…曲を構成する複数の楽器の音源が録音されたテープのこと。
高橋 声だけじゃなくて全部録り直すことも一瞬は考えたんだけど、あのメンバーを今集めることは不可能だし、そもそも譜面に直す作業も大変だし、キャリアを重ねたからといって、当時の演奏を超えることは難しいと思う。別物になってしまいますね。だから、本当にマルチが発見されて良かったと思っています。
 
―そのおかげで、40年前の山下達郎さんや吉田美奈子さんのコーラスに、現在の高橋さんの声が乗るという、特別なアルバムになりました。ちなみにマルチはどこで発見されたんでしょうか。
 
高橋 キングレコードの倉庫から見つかったと聞いています。スタッフのひとりがすごく熱心に探してくれたんですよね。アナログのテープは劣化するので、ちゃんと保管してくれていたんだと思います。
 
砂原 マルチって、現物はあるけど、再生したら音が全然ダメだったというケースは多いですね。物質ですから、やはり40年も経ってしまうと、状態が悪くなってしまう。
 
―作品の大本の音源となるマルチって、とても大切なものに思えるんですが、厳重に保管されていないんですか?
 
砂原 音楽や映画、それからゲームなどもそうですが、完成に至るまでの過程の資料というのは、あまり価値が理解されていないのが現状です。誰もが知っている名作ゲームでも、完成するまでの資料は、探してみると雨ざらしの倉庫の中に、ほぼ、ぶん投げてあるような状態で放置されていることもあるらしいんです。同じように、過去の名作のマルチ、名盤とされるものでも、残っていないことは多いんです。レコード会社は合併や買収も多かったりして、元のまま残っているケースが少ないんですよね。だから、マルチの価値を知る人がいなくなったり、分からなくなったりします。
 
高橋 YMOでも、マルチが残っていないものはあると思う。
 
アナログな音の深みと、テクノロジーが融合して、新しい体験が生まれた
 
―砂原さんは、学生時代から高橋さんの「Saravah!」に親しんできたんですよね。 
 
砂原 そうですね、聴いてました。
 
―作品のマスタリングをしてくれというオファーが高橋さんから来たとき、どんな気持ちでしたか?
 
砂原 最初「Saravah!」を作り直していると聞いて、大御所のエンジニアがマスタリングをやるんだろうなと想像していたから、自分のところに来て驚きました。
 
高橋 僕の歌が差し替わっただけ、という結果にしたくなくて、まりんにお願いしたんです。僕が好きなまりんのマスタリングのポイントは、低音域なんだ。よく、テイ(・トウワ)くんとも、まりんのマスタリングについては話してるんだよ。低音を意識してるでしょ?
 
砂原 低音は大きくというか、ワイドに、横広がりになるようにやりますね。大きな皿にこう、料理が乗せられているイメージというか…。
 
―今回は具体的に、どんな調整をしたんでしょう。
 
砂原 最初に僕のところへ音源が届いたときは、40年前のものだから、すごく音は良いんだけど、それでも消せない“スーッ”というノイズが、結構多かったです。
 
高橋 あ、そうだったんだ。全然気付がなかった(笑)。
 
砂原 近年ではデジタル技術の発達もあって“スーッ”音くらいなら、ある程度、除去できるんですよ。
 
―昔と比べて作業内容は変わりましたか?
 
砂原 もちろん、デジタルになってできることがいろいろ増えました。ノイズは消えますし、パート別の音のかぶりも調整できます。
 
高橋 ライブ音源なんかも、かなり細かく調整できるってことか。
 
砂原 そういうことです。その結果、どうなるかというと、仕事量が増えるんですよ。ミキシングやマスタリングなど、エンジニアのやらなくてはいけない仕事が、昔に比べると確実に増えていると思います。
 
―「Saravah Saravah!」はアナログの音の深さと、砂原さんによる最新の技術が融合した、40年越しの完成形ですね。
 
砂原 映画や動画を撮影するとき、雰囲気を出すためにわざわざフィルムで撮って、後でデジタルに移したりしますが、やっていることは、それに近いというか。
 
高橋 フィルムのデジタル化はすごいと思うよ。映画「男と女」(66年)なんて、どのシーンも覚えているくらい何度も見ているけど、デジタルだとノイズが全然ないから、アナログだと見えなかった雨とかがはっきり見える。映画の味はそのままなんだけど、情報量が増えている。それに今は逆にデジタルで撮って、フィルムにすることもあるじゃない。そういう作業が可能になって、昔から考えると、選択肢が多い方が作家にとっては便利。
 
砂原 テクノロジーの恩恵で、新しい体験ができますよね。
 
高橋 METAFIVE(※)の活動が続いてるのも、音源をメールでやり取りできるようになったからだね。それぞれ忙しいけど、実際に会わなくても作業ができる。
※METAFIVE…14年に砂原良徳、TOWA TEI、小山田圭吾、LEO今井、ゴンドウトモヒコと結成したバンド。
METAFIVEは「大人の修学旅行」。これからも楽しいことをやっていきたい
 
―「Saravah Saravah!」には砂原さんはじめ、アートディレクションにテイ・トウワさんなど、METAFIVEのメンバーが多数参加されてます。皆さん、本当に仲が良いですよね。
 
高橋 大人の修学旅行みたいなものですね。普段、みんなそれぞれ責任を背負って仕事しているけど、METAFIVEにはそれがないから楽しいんです。一緒にご飯食べたりするし。
 
―なんと豪華な顔ぶれの食事会。興味本位ですが、何を食べるんですか?
 
高橋 それは…時と場合によるよ?(笑)
 
砂原 みんなそんなに大食いではないですね。
 
高橋 レコーディングとか、打ち合わせの後に6人で食べることが多いかな。だいたい最初にゴンちゃん(ゴンドウトモヒコ)が酔っ払っちゃって。
 
砂原 レオくん(LEO今井)の高い服にワインとかこぼして怒られてね(笑)。
 
―以前、楽屋にお邪魔したときに、アイコスが大量に充電されていたのが印象深かったです。
 
砂原 僕と小山田(圭吾)くんが吸ってて。まずはコンセントがどこにあるか、確認します。
 
高橋 僕は吸わないから。テイくんは吸うけど、ふた口くらいですぐやめちゃう。ゴンちゃんは、子どもが生まれてからやめたよね。
 
―そういう裏話が聞けてうれしいです(笑)。今回のアルバムに絡めたライブはやらないんでしょうか。
 
高橋 今ようやく「Saravah!」の再現コンサートを予定しています。「Saravah!」の発売当時は、もうYMOの構想があって、すぐに「イエロー・マジック・オーケストラ」(78年)の制作に入っちゃった。だから、発売記念のツアーもやってないんだ。
 
砂原 確かにライブでも「Saravah!」収録曲は演奏していなかったですね。
 
高橋 「Saravah!」というタイトル曲だけは、還暦記念ライブや教授の「健康音楽」というイベントのときなど、短いバージョンでやったことがあったけど。
 
―METAFIVEの活動もそうですし、高橋さんといえば今年の頭にはテレビアニメ「おそ松さん」のエンディングを担当されていたのにも驚きました。これからも面白いニュース、期待しています。
 
高橋 そうですね。面白いことがあれば、METAFIVEのメンバーでも何かまたやっていきたいですね。
 
高橋幸宏 
1952年東京生まれ。高校在学中からミュージシャンとして活動を開始。72年にドラマーとして参加したサディスティック・ミカ・バンドは海外で大きな評価を受ける。78年からソロ活動と並行し、イエロー・マジック・オーケストラに参加。その後もザ・ビートニクスやスケッチ・ショウ、pupaなどで活動。近年では14年にMETAFIVEを結成。11月24日に東京国際フォーラム・ホールCにて、「高橋ユキヒロ ソロ活動40周年」を記念した「Saravah!」再現ライブを予定。
砂原良徳 
1969年北海道生まれ。学生時代から音楽活動を開始し、91年に電気グルーヴに加入。バンド活動と並行して、「Crossover」(95年)や「Take Off And Landing」(98年)など、ソロアルバムを発表。SUPERCARやACOなどのプロデュースも担当。99年からはソロ活動を開始、「liminal」(2011年)を発表している。14年からはMETAFIVEに加入。ちなみに、伝説のクイズ番組「カルトQ」のYMOの回に一般公募から参加し、見事に「YMOカルトキング」になったことでも知られている。

 
「Saravah Saravah!」についての詳細はこちらから。
 
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写真/網中健太
文/渡辺克己
編集/武藤寛奈
デザイン/上條慶