安倍首相の思惑とは――?

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「拙速」批判が相次ぐ入管法改正。安倍政権がこうも「前のめり」になる理由とは――。

単純労働を含む外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案が開会中の臨時国会の最大の焦点になっている。新たな在留資格「特定技能」を2019年4月に創設するもので、就労目的の在留資格を医師や弁護士など「高度な専門人材」に限ってきた従来政策からの大転換になる。政府・与党は臨時国会での成立を目指すが、法案の中身が生煮えなことに野党は批判を強めており、成立のめどは立っていない。

「実質的な移民政策」と言われる理由

法案は、入管法改正案のほかに、法務省入国管理局を「出入国在留管理庁」に格上げする法務省設置法改正案もセット。目的は、なんといっても、経済界が熱望する深刻な人手不足対策だ。そのために単純労働を含め多業種に外国人の受け入れを拡大する。

具体的に、新たな在留資格は、(1)一定の知識・経験を要する業務に就く「特定技能1号」(最長5年、家族帯同不可)、(2)熟練した技能が必要な業務に就く「特定技能2号」(在留期間更新可、配偶者や子どもの帯同可)――の2種類。現行の技能実習生制度(最長5年)も残し、大枠として、実習生→1号→2号とステップアップしていく道筋ができる。実習生〜1号は「単純労働」を含むことになる。3年以上の経験がある技能実習生は「一定の技術も日本語能力もある」とみなし、無試験で1号を取得でき、実習〜1号で最長10年働ける。さらに、試験を経て1号から2号へ移行でき、2号は永住に道が開ける。「実質的な移民政策」と言われる所以だ。

受け入れ業種は、「人材を確保することが困難な状況にあるため、外国人により不足する人材の確保を図るべき分野」と規定。いまのところ介護や建設など、14業種が検討の対象になっており、2号を希望するのは建設や自動車整備など5業種程度とされるが、今後、増える可能性がある。いずれも法相が各分野の所管閣僚らと協議して政令で定めるとして、法律には明記しない。

どれだけ受け入れるかが大きなポイントになるが、政府は受け入れ人数に上限を設けないものの、人手不足が解消された場合、受け入れを停止するとしている。夏の時点で、5業種で2025年に50万人超の受け入れ拡大との試算が出されたが、業種の拡大でさらに膨らむ見通しだ。

準備不足、詰めの甘さが見え隠れ

近年、外国人労働者の受け入れ拡大は急ピッチだ。技能実習の滞在期間を従来の3年から5年に延長したのが2017年11月(法改正は前年)。そこから半年余りの2018年6月15日閣議決定した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)に新在留資格を盛り込み、10月11日に関係閣僚会議で改正案の骨子を示し、与党の審議を経て11月2日の法案を閣議決定というあわただしさ。外国人の労働力なしに日本社会が回らないことを示しているともいえるが、制度設計はその分、「穴だらけ」との指摘が相次ぐ。

事実、すでに始まっている国会論戦では、具体的な制度設計をめぐり、準備不足、詰めの甘さが垣間見える。

まず、新在留資格の基準になる「技能」が曖昧だ。国会では例えば宿泊業の配膳やベッドメイキングが技能に当たるかを尋ねられた石井啓一国土交通相は「検討中」を連発した。

どの業種でどれくらいの人数を受け入れるかについても山下貴司法相は「精査中」としてなるべく早く見込み数を示す考えを示すにとどまっている。外国人が増えて日本人が失業するのを避けるため、人手不足が解消されたら外国人の受け入れを停止することについても、山下法相は「客観的な指標で人手不足の動向を継続的に把握する」と、抽象的な答弁に終始している。

「白紙委任」状態の理由とは

外国人の公的医療保険も論点だ。留学ビザで来日した外国人が国民健康保険に入って高額な医療を受けたり、日本に居住している外国人が家族を来日させ高額医療を受けさせたりするなどの例があり、新在留資格によって外国人が増えると医療費が膨らむ懸念がある。これも、国会で議論になり、政府があわてて「日本国内に居住する扶養親族に限る」など要件を絞る検討を始めるといった具合。全体に「今後検討」「政令で定める」の乱発で、野党からは「白紙委任法案だ」との批判が出る。

実は、9月の自民党総裁選で法案提出が早まったという観測もある。「国会議員、地方議員が業界団体、地元企業などに総裁選のお願いに回ると人手不足の切実な実態を訴えられ、総裁選のお礼、そして統一地方選・参院選対策として官邸がイケイケになった」(大手紙論説委員)ということで、2019年通常国会の予定が今臨時国会に前倒しになったという。

大手紙の社説などの論調も、移民への距離感、法案への賛否の違いやその濃淡はあるが、政府の準備不足という「拙速批判」は朝日から産経まで、ほぼ一致している。このまま、数の力で押し切れるのだろうか。