狭心症や心筋梗塞は、心臓に酸素を送り込んでいる冠状動脈が塞がれ、心筋が血液不足になることで起こる疾患だ。

 狭心症は一時的な虚血だが、心筋梗塞はより深刻で冠状動脈に血栓がたまり、完全に血液の流れが遮断されてしまう状態だ。放置しておくと細胞が壊死し、そのまま突然死につながる恐れがあるため、発作が起きたら一刻も早い処置が必要となる。

 冠状動脈が塞がれる原因としては、動脈硬化によって内腔が狭くなることが挙げられる。

 虚血性心疾患を引き起こす前段階として、「冠状動脈狭窄」がある。心臓の周りを囲むように存在する冠状動脈が、プラークなどによって狭くなって、血液の流れが悪くなった状態だ。

 これが進行すると、心臓に十分な血液と酸素が運ばれなくなり、虚血状態となって狭心症や心筋梗塞などにつながるのだ。

 そして、実は狭心症や心筋梗塞とED(勃起不全)との間にも重大な関連があることが分かった。

 「ED、すなわち勃起不全ということは、動脈硬化が進んでいると考えていい。ペニスの動脈は、体内の中で一番細く、その直径は1〜2ミリメートル。信じられないかもしれませんが、動脈硬化が起きたときに、最も詰まりやすいのがペニスの動脈なのです。つまり、EDの原因となる動脈硬化を放置すると、心筋梗塞のリスクが高まっていくと考えるべきです」

 こう語るのは、山梨大医学部名誉教授の田村康二氏である。

 少なからぬ男性は、EDになったとき、恥ずかしさもあって、「もう年だから仕方ない」と症状を放置しがちだ。

 実は記者もそうだった。ところが昨年5月、心筋梗塞を発症してしまった。

 EDの症状が現れた後に、血管に関係する重大な症状が発症するケースは少なくない。

 田村氏が指摘するように、血管の詰まりやすさは、動脈の太さが問題となる。動脈硬化によって起こる血流の悪化は、体内の細い動脈から始まり、やがて太い動脈へと広がっていくのだ。

 「動脈の太さは場所ごとに異なり、たとえば脳周辺では直径5〜7ミリメートル、心臓周辺では3〜4ミリメートルありますが、陰茎動脈では1〜2ミリメートルほどしかありません。つまり陰茎動脈は非常に細いため、動脈硬化の影響を一番最初に受けやすいといえます」(田村氏)

 勃起不全が起きているということは、他の場所でも遠からず動脈硬化が起きることのサインと言えるのだ。それを放置しておくと、記者のように死にかけてしまう可能性がある。

 日本のED患者は、約1130万人と言われている。しかし、これは中等度から重度の人だけを指す数字。軽症の人も含めれば、さらに膨大な数になるという。

 EDになりやすい年齢には2つのピークがあり、それぞれ原因が異なる。

 第1のピークは30代後半から40代前半で、精神的な理由による「心因性ED」。この年代は子作り世代でもあり、精神的重圧も強くなる。その結果、勃起するのが難しくなり、一度うまくいかないと余計に萎えてしまうらしい。

 第2のピークは、記者のように、50代から60代にかけて起きる「器質性ED」。これは、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病や、メタボリックシンドローム、肥満、加齢などにより、血管が硬く老化することが原因。耳が痛い話だ。

 性的な刺激を受けると、脳から「勃起しなさい」という指令が出る。それが勃起神経に伝わって陰茎動脈に血液が流れるが、老化した血管は硬くて血液がうまく流れ込まないのだ。

 十分な血液が届かないため、勃起しても硬さが足りず挿入できない。あるいは勃起しない、情けない状態に陥るというわけなのだ。

★EDと糖尿病には密接な関係が

 本誌でお馴染みの世田谷井上病院の井上毅一理事長に話を聞いた。