槙野智章(撮影:岸本勉/PICSPORT)

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槙野智章は練習後、いつもメディアの前で立ち止まっては熱心に話をする。疲れていても立ち去らず、ときには記者たちを笑わせる。2009年に初めて日本代表に召集されたときから、その姿勢は変わらない。

答えが明快なのも特長だ。アルベルト・ザッケローニ監督時代には、監督が何をやろうとしていたか記者たちにわかりやすく解説した。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督時代は取材制限が多い中で、槙野は自分たちがやろうとしていることを要領よくまとめて伝えてくれた。

2010年、2014年のワールドカップではメンバーに入らず、2018年ロシアワールドカップではメンバー入りして大会直前までレギュラー組だったものの、本大会での出場はポーランド戦の1試合に留まった。

だが、監督としては、槙野の使い勝手はいいだろう。センターバック、サイドバックの両方をこなし、ヘディングも強い。ムードメーカーで、サブに置いていてもチームの雰囲気を壊すことはない。だからずっと招集される。しかし使ってもらえないのは、損な役回りではないだろうか。

槙野に直接その考えをぶつけてみると、槙野は自分が代表の中で果たそうと思っている役割を、いつもの笑顔を浮かべず淡々と答えた。

「自分の立ち位置とか、もう理解してやらなきゃいけない歳ですから。試合に出れば自分の役割はあるだろうけど、試合に出ないときも出ている選手をサポートしなければいけないというのもあるし。この歳と立場になっていろんな役割があるのかと思ってこのチームにいます」

「もちろん選手である以上、試合に出たいのはやまやまです……うん。でも本当にいろんなことを考えたときに、若い選手が気持ちよくプレーするためには、上の選手がバカにならなきゃいけないし、本番でパッとチョイスされたときにそれだけの仕事をやらなきゃいけないし」

「損な役だという気持ちは全然ないです。出てないけど、出ている選手以上に準備はしてます。こういう経験はなかなかできないし、新しいチャレンジだと思ってます」

槙野は話の間中、落ち着いた表情を浮かべていた。厳しい質問に対しても感情を変えずに話していたのは、言葉がどれも心から思っているからだろう。明るく派手な一面ばかりが取り上げられる槙野だが、決して葛藤がないということではなかった。

【森雅史/日本蹴球合同会社】