娘が父の介護を嫌がる理由はオムツ換え
■娘による親の介護「実母は多いが実父が少ない理由」
「ハルメク 生きかた上手研究所」では、50〜60代を中心とした女性400人に、「介護の意識と実態に関するwebアンケート」(※1)を行いました。シニア女性向け雑誌『ハルメク』の2018年12月(11月10日発売)号の「介護」特集に向け、介護の現状を知ることを目的としたものです。
※1:webアンケート調査時期は2018年7月。回答者は、50代前半が158人(39.5%)、50代後半が95人(23.8%)、60代前半が61人(15.3%)、60代後半が53人(13.3%)、70代以上が33人(8.3%)。
女性400人のうち、「現在もしくは過去に家族の介護経験がある」人は、105人(26.2%)でした。この経験者105人に、介護したことのある家族の続柄をすべて教えてもらいました。(※複数回答)
多い順に並べると、
実父(38人/36.2%)
義母(32人/30.5%)
義父(20人/19.0%)
配偶者(7人/6.7%)
それ以外の家族(9人/8.6%)
娘が「実母」を介護した・している割合が群を抜いて多いことがわかります。
■誰がどのように(誰と)看たのか?
大多数を占めたのは「親(実父・実母)の介護」でしたが、50〜70代の女性=娘は、誰の協力を得て両親を介護したのでしょうか。
105人のうち、実母・実父・義母・義父の介護経験のある101人に聞いてみたところ、結果は次の通りでした。
外部の施設・ヘルパーと協力(24人・23.8%)
自分ひとり(23人・22.8%)
配偶者と協力(13人・12.9%)
きょうだいと力を合わせて、というパターンが多いようです。ただし、介護する女性(娘・嫁)も、被介護者が実母、実父、義母、義父の誰であるかによって「介護する方法」が異なります。
■「実父や義父は施設にお任せしたい。オムツをかえるのが嫌」
実母・実父を介護する場合、下記の数値のように、やはり「きょうだいと協力」してというケースが最も多かったのですが、次に「自分ひとり」、さらに、「外部の施設・ヘルパー」という順番になりました。
▼実母の介護経験者(62人)
きょうだい(22人/35.5%)
ひとり(18人/29%)
外部の施設・ヘルパー(15人/24.2%)
配偶者(2人/3.2%)
子供(1人/1.6%)
他(4人/6.5%)
▼実父の介護経験者(16人)
きょうだい(5人/31.3%)
ひとり(4人/25%)
外部の施設・ヘルパー(2人/12.5%)
配偶者(1人/6.3%)
他(4人/25%)
「外部の施設・ヘルパー」より、「きょうだいと協力」や「自分ひとり」というケースが多いのは、なぜでしょうか。それは「後悔したくない」という気持ちが強いからではないでしょうか。介護は大変とわかっていても、他人任せにできず、自分もしくは血のつながったきょうだい間で親を看取ろうと覚悟を決めているということでしょう。また、「周囲の目が気になるから、親を見捨てられない」といった意識もありそうです。
娘が実親を介護する際、「外部の施設・ヘルパー」の力を借りる人の割合は「実母」の場合で約24.2%、「実父」の場合で約12.5%と、実母を介護するケースのほうが多い結果となっています。しかし、このアンケートとは別に介護体験者12人に聞き取り調査した際、こんな意見が出ました。
■「父も娘に対してプライドがあるのでしょうね」
●Kさん、59歳(女性):実母を介護「母は自分が看るけど、実父や義父は施設にお任せしたい。オムツをかえるのが嫌です。父も嫌だろうし、私も嫌。だから、父にそうなったら施設に入ろうね、と話している」
●Sさん、62歳(女性):実父を介護「結果的に、実父は施設だった。私が父のオムツをかえようとしたら父は嫌がった。父も娘に対してプライドがあるのでしょうね。そういう意味で私は父の介護はしていない」
娘が実父を看る場合のほうが、潜在的な「介護の壁」が高くて厚いのかもしれません。娘はやはり「異性である父親のシモの世話」に抵抗感があり、父も「父親としての役割や威厳を保ちたい」というプライドがあります。つまり、生物学的な性差(セックス)だけでなく、社会的・文化的な性差(ジェンダー)も、娘が異性である父を看る際の「壁」につながるのではないかと考えられます。
■嫁が義母・義父を介護するケースが減っている理由
では、嫁の立場で義母・義父を看る場合は誰の協力を得ていたのでしょうか。
サンプル数は少ないのですが、「配偶者(夫)と協力」や「きょうだいと協力」「外部の施設・ヘルパーと協力」が比較的多くなっています。
▼義母の介護経験者(18人)
配偶者(9人/50%)
外部の施設・ヘルパー(5人/27.8%)
きょうだい(3人/16.7%)
ひとり(1人/5.6%)
▼義父の介護経験者(5人)
きょうだい(2人/40%)
外部の施設・ヘルパー(2人/40%)
配偶者(1人/20%)
義父の介護経験者は5人しかおらず、その5人とも、きょうだい・夫、施設・ヘルパー任せで、「自分ひとり」という女性(嫁)はいませんでした。嫁と義父の関係性は、他の人間関係に比べ、希薄であることがこうした結果の背景にあると思われます。
「嫁が夫の両親の世話をする」という“常識”は、もう一般的ではないでしょう。「核家族化が進行した結果、義親とは別居世帯」「共働きにより、夫の権限が弱体化」など外部環境が変わりました。そして、義父に限っていえば、異性への生理的な抵抗感も影響していると考えられます。
■「義母はなんとかなる。義父は手がかかる。すごく頑固」
実父母を看るケースより、「外部の施設・ヘルパー」への依存度が高くなっているのは他に理由があるでしょうか。聞き取り調査では次のような意見もありました。
●Tさん、69歳(女性):義父を介護「自分の母親には遠慮なく言えるけど、義父母には遠慮があって、何かあったら主人を介して言いました。義父は神経内科にかかっているからお風呂や食事にこだわりがいろいろあり、そうした世話をする場合は主人に変わってもらっていた。義母の場合は女性だからなんとかなる。義父は手がかかる。すごく頑固。だから、施設にお願いするしかなかった」
義父の場合、嫁が無理して看るより、外部の施設やヘルパーの力を借りたほうが、お互いにとって幸せなのかもしれません。
■女性が男性を介護することは肉体的精神的に厳しい
今回の私たちの調査では、「介護の現場で働く専門職」がプロとして異性の介護にどう向き合っているかも聞きました。以下はその具体例です。
●デイサービス、介護施設員(女性・常勤)「基本的には同姓の介護をしています。男性入所者の女性介護者へのハラスメントはしばしば問題になります。認知症になると性的な欲望の抑制がきかず、胸を触ったりすることがありました」
●ホームヘルパー(女性・非常勤)「入所者の男性は体重が重いので、女性では入浴介助は難しいです。体の自由が利かなくなった要介護者を入浴させることが介護者の一番の肉体的負担。今は入浴介護をするヘルパーの人数も少ない」
●ケアマネージャー(女性・非常勤)「娘や嫁が、父(義父)の介護をすることがありますが、父親は思い通りにならないと娘に手を上げることがあります。男性は力が強いから大変な事態になることがあります」
「現在介護中&介護経験者」の50〜60代を中心とした女性に加え、「介護・ヘルパー職に就いているプロ」からの報告をみると、親族の間で異性をみることは想像以上に難しく、特に女性が男性を介護することは肉体的にも精神的にも厳しいことがよくわかりました。
■妻が夫の介護をする際に「同居する子供に頼らない理由」
一方、50〜60代を中心とした女性が、配偶者(夫)の介護をする際はどのようにしているのでしょうか。
今回のアンケートでは配偶者を介護したことのある女性は105人中7人でした。そして、その全員(100%)が夫の介護を「自分ひとりで行った」と答えました。なお7人中2人(28.6%)は「未婚の子供と同居」でした。
なぜ、同居する子供に頼らないのでしょうか。
聞き取り調査では、「子供に迷惑をかけたくない」という言葉をたくさん聞きました。彼らは、「子供に迷惑をかけたくない。だから……」と続けて、配偶者(夫)の介護は自分ひとりでするし、自分の将来(介護)もできれば子供に迷惑をかけたくないと言います。私が「子供に迷惑をかけたくない、とはどういう意味ですか?」と聞くと、このような回答がありました。
●Kさん、52歳「子供は自分で働いて、社会生活を営んでいる。親に介護が必要になったらといって、子供に介護離職をさせたくない」
●Hさん、64歳「子供はまだ20代。そんなに若いのに親を介護するなんてかわいそう。やりたいことをやってからでないと。だから、私が(夫の介護など)やれることは全部やります」
■「働いている子供の人生は邪魔できない」
●Nさん、67歳「子供には子供の生活があるから邪魔したくない。自分のとき(介護が必要となったとき)のために準備できることは今からしておきたい。できれば子供たちに迷惑をかけずにぽっくり死にたい」
●Oさん、51歳「母は、私たちに介護(で情けない姿を)を見せてきちゃった、と毎日言っている。悔恨の念にかられているみたい。私も子供たちには見せたくない」
●Mさん、50歳「介護というと、マイナスの暗いイメージしか持てないものばかりが報道されている。でも、実際、息子が(親の介護で)仕事をやめたら最後。収入源を失ったら本当に怖い」
「子供に迷惑をかけたくない」の真意は「子供への遠慮」というより、「子供に余計な負担をかけられない」「子供の人生の邪魔はできない」という現実的な問題が大きいのではないかと感じました。「子供に迷惑をかけたくない」は「子供に迷惑をかけられない」という意味だったのです。
介護は一筋縄ではいきません。精神的・肉体的な負荷は相当なものがあります。自分を育ててくれた親に報いたい。そんな気持ちが強すぎて、逆に体を壊してしまい、共倒れしてしまうリスクもあります。介護は「自分ひとり」で抱え込まず、周囲(きょうだいや親族など)の人々をいい意味で巻き込むようにすることが大事なのではないでしょうか。
そして、「家族」と協力しても解決できない場合は、早い段階で「外部の施設やヘルパー」の力を借りる。そのほうが、よりよいサービスや正確な情報が安く受けられるなど、家族にとって具体的かつ最適な解決策が見つかるはずです。
(ハルメクホールディングス 生きかた上手研究所 所長 梅津 順江 写真=iStock.com)