おおさか東線の報道公開の様子。画面左奥に新大阪駅がある=2018年11月13日(筆者撮影)

11月13日、JR西日本は2019年春の開業に向けて準備を進めている「おおさか東線」の北区間について、運行体系を発表するとともに、新設する南吹田駅と周辺の高架橋部分を報道陣に公開した。

ここでは平成最後の新線開業となる同区間の現状をお伝えするとともに、その効果などを考えてみたい。

新大阪と奈良方面を結ぶ新線

おおさか東線は、JR京都線(東海道本線)の新大阪駅からJR学研都市線(片町線)放出(はなてん)駅を経由して、JR大和路線(関西本線)久宝寺にいたる20.3kmの路線だ。


南吹田駅の先で城東貨物線(画面左端の1線)と合流する。奥の高架橋は東海道新幹線(筆者撮影)

このルートの大半は、もともと城東貨物線という貨物専用線が走っており、ここに旅客列車が走れるよう駅の新設や複線化が行われている。建設主体は大阪府や大阪市、JR西日本などが出資している大阪外環状鉄道株式会社で、完成後は同社の施設をJR西日本とJR貨物が借り受け、運営する形となる。

放出―久宝寺間9.2kmの通称「南区間」は2008年3月に開業しており、2018年3月に開業した衣摺加美北(きずりかみきた)駅を除く4つの新駅の利用者は、10年間で1.5倍ほどの伸びと順調だ。


おおさか東線の路線図(画像:JR西日本)

残る北区間は、南区間が開業する半年前の2007年11月に着工。工事は(1)新大阪駅におおさか東線用のホームを増設する工事、(2)新大阪駅―城東貨物線との合流地点まで線路を新設する工事、(3)城東貨物線を複線化する工事、(4)鴫野(しぎの)―放出で学研都市線の移設を伴う工事、の4つに大きく分けられる。

今回公開された南吹田駅とその前後は(2)にあたる。同区間については、以前にも工事の様子を取材しているので、その時の記事「開業まであと2年『おおさか東線』工事の現場」も参考にしていただきたい。


JR京都線の直上部分。30パーミルの急勾配で梅田貨物線に合流する(筆者撮影)

新大阪駅を出発したおおさか東線の列車は、梅田貨物線の線路を進み、神崎川を渡ってすぐに分岐。30パーミルという急勾配で高架へと上がり、JR京都線をまたぎ越しながら大きく右にカーブする。

前回の取材時にはまだコンクリートが打設されていなかったJR京都線の乗り越し部分だが、この日は既に線路や架線、信号設備なども設置されていた。

特徴ある「南吹田駅」


鋼製トラス構造の神埼川橋梁。右側のガーダー橋は城東貨物線(筆者撮影)


対向式ホーム2面2線構造の南吹田駅。大きくカーブしているのがわかる(筆者撮影)

同じく、前回は高架橋が途切れた状態だった南吹田駅の先も完成しており、その先の神埼川橋梁へとつながっていた。神埼川橋梁は長さ171mの鋼製トラス橋で、列車はその先に設けられた神埼川信号所で城東貨物線と合流する。

一方、おおさか東線でもっとも北に位置するのが南吹田駅である。北区間に新設される他の3駅と同様、8両編成が停車できる対向式ホーム2面を備えており、それぞれのホームとコンコースの間はエレベーター各1基とエスカレーター各2基(上り・下り)で結ばれている。

また、南吹田駅は前後にあるJR京都線と神崎川の堤防を越える必要があるため、他の駅と比べてホームの位置が高く、階段やエスカレーターも長いものになっている。半径約500mの曲線上にあるため、車掌用のホーム監視カメラが設置された一方、ホームドアの設置は見送られた。

南吹田駅のデザインコンセプトは「神崎川と水路の風景」とされ、改札口付近に設けられたデザイン柱は水の流れや稲穂をイメージした。


南吹田駅のテーマカラーはオレンジ色。車内からも色でどの駅に到着したかわかる(筆者撮影)

コンコースやホームの随所にも、水田の稲穂をイメージした黄金色やオレンジ色があしらわれ、アクセントになるとともに列車に乗っていてもどの駅に停車しているかがわかるようになっている。

また、階段部分などのガラス壁には吹田の特産品であるクワイを模したイラストが描かれた。

開業で南吹田エリアの利便性向上


南吹田駅のコンコース。他駅に比べ天井が高い(筆者撮影)


南吹田駅北側の駅前広場は現在工事の真っ最中(筆者撮影)

駅の外では、ロータリーをはじめとする駅前広場が整備の真っ最中。周辺にはコンビニエンスストアを筆頭に商業施設が増え始め、にわかに活気づいてきた。

吹田市は東洋一と言われた吹田操車場がかつて存在し、また現在も吹田総合車両所や吹田機関区があるなど、古くから鉄道の街として知られている。現在は鉄道会社6社が15駅を営業しているが、この南吹田地区には駅がなく、公共交通の空白地帯だった。城東貨物線も貨物列車が素通りするだけで、地元には何のメリットもなく、旅客線化と駅の設置は長年の悲願だった。

同駅の駅前広場は北区間の中でも一番の規模で、地元・吹田市はJR京都線をくぐり西側へつながる地下道も建設するなど、新駅に対する期待の大きさがうかがえる。

新駅の開設で沿線エリアが便利になるのはもちろんだが、おおさか東線にはもう1つ重要な役割が期待されている。

それは、既存の鉄道路線との新たなネットワーク形成だ。今回新設される4駅のうち2駅が、既存路線と近接している。南区間を含めた全体では、両端の新大阪・久宝寺を含めた14駅中10駅で、合計10路線への乗り換えが可能(改札外乗り換えを含む)となる。


JR京都線をまたぐ部分。前回取材時はコンクリートの打設前だったが今回はほぼ完成していた(筆者撮影)

従来は、大阪市中心部まで出て乗り換える必要があったことから、所要時間や運賃面はもちろん、混み合う列車に乗らずに済むというメリットも大きい。逆に、こうした利用者がシフトすることで、大阪環状線などの混雑緩和にも寄与するだろう。

また、奈良と新大阪を直結できるという点にも注目が集まっている。言うまでもなく国内有数の観光地である奈良は、しかしながらアクセスが決して便利だとは言えず、特に西日本各地から訪れるにはいささか不便な場所であった。

新大阪―奈良間に快速列車設定

おおさか東線の運行体系は、同線内を折り返し運用する普通列車に加えて、朝夕に新大阪―奈良間の快速列車を設定することが発表された。


梅田貨物線との合流部分。京都から白浜へ向かう特急「くろしお」が通過中(筆者撮影)

JR西日本では地元企業とも連携しつつ、奈良エリアの魅力向上とPRに取り組んでいることから、今後の展開として同区間への特急列車の運行もありうるだろう。

さらに、おおさか東線は2023年春の開業が予定されているうめきた新駅(仮称)へも乗り入れが可能な構造となっている。

この日の記者会見でJR西日本の川井正大阪支社長は「うめきた新駅への乗り入れや新大阪―奈良間の特急列車運転について、現時点で具体的な検討はしていない」と話したが、もし実現すれば梅田エリアにもダイレクトアクセスが可能になり、その効果は計り知れない。

沿線エリアはもちろん、大阪府東部から奈良にかけて、通勤・通学や観光の流れを変える可能性を秘めたおおさか東線。5年後・10年後にどう“大化け”しているのか、数カ月後に迫った全面開業が楽しみだ。