このまま法案を成立させてしまうと……

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【タイムリー連載・フィフィ姐さんの言いたい放題】政府が来月10日までに成立させる方針の、外国人労働者の受け入れ拡大向けた出入国管理法(入管法)改正案。来年度からの5年間で、最大34万人あまりを受け入れるとした業種別見込み数を明示。政府は外国人労働者の大量受け入れを労働力不足に対応するためとしているが、現時点では受け入れに慎重になるべきだとフィフィは警告する。

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 外国人労働者の大量受け入れ問題。私はこれに関しては慎重派です。率直に言うと“まだ”早いと思っているんです。

 その理由は大きくふたつあって、制度として政府側の受け入れ対策が不十分だから、そして、共生するうえで日本人の外国人に対する知識や理解が追いついていないから。

政府の対策が不完全

 まず、政府の対策だけど、これは明らかに整っていない。

 外国人労働者の受け入れはいまに始まったことではなく、私も2012年あたりからTwitterで色々つぶやいてきたけど、この6年間で制度がきちんと整ってきたとは思えません。

 今回も、十分な議論をせずに政府が強引に推し進めている印象があります。

 たとえば、マレーシアの人は堅実に働く人が多いこともあって、介護の分野では積極的に採用されていますが、彼らの多くはイスラム教ですよね。

 労働力と言えど、外国人労働者は人間です。日本で結婚して子どもを作ることもあるでしょう。しかし、その子どもたちが通う学校では、宗教食などの対応ができるでしょうか。さまざまな課題が残ります。政府がそこまで想定して、受け入れを考えているとは思えないのです。

 このような話題になると「郷に入っては郷に従え」という意見も出ますが、今回の件は個人で自主的に来るわけではなく、いわば政策として斡旋(あっせん)しているわけなので、「お前らが合わせろ」では通用しません。生活が厳しいと思えば、彼らはすぐにでも帰国する。せっかく育てた労働力を失うのです。

 それに、そもそもマレーシア、インドネシアなどのASEAN諸国は、10年前に比べて生活水準も賃金も上がってきている。スキルのある人材は自国でも良い収入が得られるのに、わざわざ宗教など生活上の不安が残る日本を選んで来るのでしょうか。

 今回は業種枠を広げて、単純労働だけでなく、高度な職種での労働者も求めているわけだけど、ただでさえ世界全体で見ても人手不足で優秀な人材の取り合いになっているなかで、そうした“優秀な人材”がわざわざ制度の整っていない日本に来てくれるのかと。

 そして何より、現在のゆるい入管法改正案や、社会保障のもとで大量に外国人を受け入れると、医療費や生活保護の不正受給をする方も出てくるでしょう。今でさえ、そういった外国人がいるわけで、日本人が“助っ人”として受け入れた人々が日本の財政を圧迫することもあるわけです。

外国人労働者に対する日本人の理解も不十分

 もうひとつの課題が、日本人と外国人がどこまでうまく共生できるのかということ。

「外国人が来ると治安が悪くなる、犯罪が起きやすくなる」という声も聞くけど、待遇の底上げをしない、あるいはキツい条件のまま外国人労働者で穴埋めしようとするのは“使い捨て”の発想だし、当然トラブルも起きやすくなるよね。外国人労働者を人間ではなく、単なる労働力として扱うことでパワハラや労災事故、差別行為などにつながるケースも各地で頻発しています。こうした現状も、外国人と日本人の溝を深めていると思うのです。

 また、コンビニで働いている外国人労働者をよく目にしますが、どうしても単純労働者をイメージしがち。だけど、昨今、日本に来ている彼らは語学力やコミュニュケーション能力、日本社会への対応力もあって優秀なんですね。

 すると、優秀な外国人労働者に職が奪われるから、自分たちの足元を脅かすからという理由で、一部では不満の矛先が外国人に向けられることもあるんですよね。これはアメリカやヨーロッパの現状を見ればわかることです。

 だからこそ、優秀な外国人とも対等に競争できるように、自国の教育ひとつ取っても変わる必要がある。外国人を受け入れ、対等に張り合える、グローバルマインドを持てるような教育をするべきだと思います。

 ただこの点に関しては、将来的な心配はしていません。私が日本に来た40年前は、学校でも外国人は物珍しくて「ガイジンだ!」と後ろ指を指されたものだけど、いまはもう外国人は物珍しい存在ではないんですね。

 息子が通ってきた学校にも海外でのバックグラウンドを持つクラスメートがいたりするんだけど、すっかり馴染んでいます。いまの子どもたちにはグローバルマインドがあるんですよ。政府は何もできていないけど、コミュニティのなかは勝手に、着実にグローバルになっている印象を受けるんです。

 私も、外国人労働者の受け入れには反対しません。少子高齢化の進む日本において、受け入れは不可欠でしょう。だけど、何も準備できていないこの状況下で行うのは、まだ早すぎる。慎重になるべきだと改めて思うのです。

<構成・文/岸沙織>