東京都の調布飛行場に発着する伊豆諸島への空路では、日本でここだけ、19人乗り小型プロペラ機が就航しています。小型機ならではの珍しい体験もある空の旅、機内からの景色も一般的な飛行機とはちょっと違います。

日本では伊豆諸島空路でしか乗れないドルニエ228シリーズ

 東京都調布市にある調布飛行場からは、伊豆諸島へ向かう定期路線が就航しています。運航しているのは、茨城県龍ヶ崎市に本社を置く新中央航空。大島、新島、神津島、そして三宅島の4路線があり、それぞれ1日3〜4往復程度の便が設定され、島民やビジネス客、そして観光客の重要な足になっています。

 これらの島へは、港区の竹芝桟橋から東海汽船が客船とジェットフォイルを運航していますが、客船は東京発が夜行便の1日1往復のみ、また大島以外はジェットフォイルの便数が限られます。船の所要時間が長いこともあり、運賃は高いものの、飛行機を選択する利用者も少なくありません。


出発の準備につくドルニエ228型機(画像:石川大輔)。

 これら伊豆諸島空路には、ほかの路線にはない特徴も。日本ではここだけ、ドイツ製のドルニエ228シリーズという旅客定員19人の小型プロペラ機が使用される点です。伊豆諸島側の空港は滑走路が短く、大手の航空会社が使っているような大きなプロペラ機では離着陸ができません。そのため、短距離での離着陸性能に優れたドルニエ228シリーズが重用されているのです。

 垂直尾翼にイルカの図柄が描かれた青と白の機体は、どこかマイクロバスのようにも見えます。機内に入ると、客席は最後部の3列席を除いて両サイドに2列配置。客室のドアがタラップを兼ねているほか、荷物室が後部のほか機首にもあり、空港では手作業で積み下ろしが行われるなど、小型機ならではの光景を見ることができます。

全ては安全のため 体重チェック、座席は搭乗直前に決まる

 新中央航空の伊豆諸島航路では、搭乗時も一般的な航空会社の便とは一風変わった体験をすることになります。まず、空港でのチェックイン時には、手荷物の重量を計測されるのはもちろん、自分の体重まで記入する必要があります。また、最近は一般的な航空会社であれば事前に座席を指定できますが、こちらではチェックイン時を含め一切座席を指定できません。

 これは、19人しか乗れない小型機という事情が大きく関係しています。飛行機が安全に、安定飛行するためには、機内の重心が重要。大型機であれば乗客の体重はそこまで大きな影響を及ぼしませんが、ドルニエ228のような機体になってくると、その小ささゆえに厳密な重心計算が必要になります。その作業は、チェックインが全て完了し、荷物の重さが確定しなければ手が付けられないのです。


伊豆諸島への空路が発着する、調布飛行場のターミナルビル(画像:石川大輔)。

 そのため、チェックインの際に体重を聞くというのは、安全運航のためにも非常に重要なこと。座席が指定されるのは、なんと飛行機に搭乗する直前、機体の前に案内されてからです。係員から乗客ひとりひとり名前を呼ばれ、座席の番号を告げられて、順に機内へ入っていくという流れになります。一般的な航空会社のフライトではまず起こらない、小型機ならではの体験といえるでしょう。

窓の外には絶景! 小型機ならではのフライトを堪能

 このような小さい機体なので、機内には客室乗務員も乗っていなければ、トイレすらありません。ただし、最後部座席は搭乗口に接しており、タラップにもなる搭乗口は大きく開く造りになっているため、こちらの席で車椅子での利用には対応しています。

 重さに対する様々な制約はあるものの、最後部の3列席を除けば全て窓際席になるので、天気が良ければ、景色をたっぷりと楽しめるのが魅力です。小型機で有視界飛行(離陸後に目視で位置を判断する飛行)という事情があるため、一般的なフライトよりも巡航高度が低く、下界もよりはっきりと見ることができます。

 調布発であれば、飛行場近くのよみうりランドや味の素スタジアム、中央道から始まり、横浜や三浦半島、東京湾が眺められます。右側の席であれば伊豆半島や富士山なども見えるでしょうし、経路上の島なども、まるで立体模型を見るように楽しめます。伊豆諸島は火山島ばかりなので、火山が作り出した島々の特徴的な地形も確認できるでしょう。


機内から見える鎌倉付近の景色(画像:石川大輔)。

 なお、調布飛行場は周辺の駅から路線バスで行くことができますが、各島の空港は、残念ながら公共交通機関が整備されているとはいえません。各島の空港から目的地へはタクシーを利用する、あるいは宿泊先で送迎してもらえるのであれば送迎を依頼した方が確実です。

 東京都にありながら少々不便な島々ではありますが、行けばきっと、島の大自然や山海の幸が出迎えてくれるでしょう。島々の雰囲気を、全国でもここでしか味わえない小型機ならではのフライトとともに楽しむ旅もよいかもしれません。

※記事制作協力:風来堂、石川大輔