会社員と自営業、いったいどっちがトク?(写真: Fast&Slow/PIXTA)

近年、「サラリーマン生活が不満で辞めたい」「独立・起業したい」という人の話をよく聞きます。何かやりたいことがあって辞めるのであればまだよいのですが、とにかく「フリーになって会社員以上に稼ぎたい」といった夢を抱いているのであれば、その金銭事情に「こんなはずではなかった」と思う方も出てくるかもしれません。
ファイナンシャルプランナーで『お金の損得大全 ささいな違いで、大きく差がつく! 』の著書もある横山光昭さんに、サラリーマン・自営業・副業の「お金」の損得について語っていただきます。

基本的に自営業は「ハイリスク・ハイリターン」

近年、「サラリーマンを辞めて自営業を始めたい」と相談を受けることがよくありますが、まず大前提として、自営業はハイリスク・ハイリターンだと考えるべきです。具体的にイメージできたほうがいいので、実際に、会社員とフリーランスの年収を比べてみましょう。

まずフリーランスについて、2016年に行った中小企業庁の調査を見てみると、全体の50%程度の人が年収300万円以下という結果になっています。ただ全体の2.9%だけですが、年収1000万円以上の人もいます。「半数は年収300万以下だけど、ごく一部の人は儲けている」と言えるのではないでしょうか。

一方、会社員の平均年収は約420万円1000万円超の高所得者は全体で4.2%です。年収が高い人は大企業勤務の場合が多いですし、この数字の中には社長や役員なども入ってくるため、一般の会社員だと現実的にはなかなかそこまでは届かない人が多いでしょう(国税庁「平成28年分民間給与実態統計調査」より)。

ここまではデータの話ですが、そもそも会社員と自営業とでは、お金に関する感覚が違う部分があります。ここも押さえておいたほうがいいポイントです。

たとえば、自営業の売り上げが「100万円」としても、100万円儲けているわけではありません。100万円は利益ではなく、あくまで顧客に対しての売り上げです。事務所や店舗の家賃、仕入れ、人を雇えば人件費もかかります。それを差し引いた額が儲け(利益)として残るため、見た目ほど儲かっていないということもあるでしょう。

不安定という要素もあります。今月はうまくいっても、来月はどうなるかわからない。仮に独立時にうまくいっても、いつまで同じように稼げるかはわかりません。10年後、20年後も同様の収入を得られるとは限らないわけです。

業種などにもよりますが、仕入れや店舗家賃、業務の維持費などの経費を差し引いた分が所得になると考えると、一般的には会社員時代の給与より2〜3倍の売り上げがないと厳しいと考えたほうがよいでしょう。

収入と所得は意味合いが違います。収入はサラリーマンで言えば給料、自営業で言えば売り上げになりますが、それぞれ経費に該当する分が差し引かれたものが「所得」となります。その経費部分は、業種によって異なりますが自営の場合は全額自己負担となるので、サラリーマンの給与より多い金額を売り上げないと、厳しいのです。

税金・保険は、どっちがトクか?

税金の面で言うと、自営業者は経費にできる範囲が広いというおトクな面があります。自営業者が経費にできる範囲は、事業に使うための備品やパソコン関連だけでなく、仕事のために使った交通費、仕事相手と打ち合わせをしたときの飲み物代、仕事先の人への祝儀・お香典なども経費になります。

ですが、サラリーマンにも自営業者の必要経費に該当する「給与所得控除」というものがあります。具体的に「移動にいくら、スーツにいくら」という経費計上はサラリーマンにはしにくいものです。そういった「勤務にかかる経費」を収入額に合わせ、一律で引いてくれる仕組みです。つまり、給与収入額に対して、一定の経費額を自動計算して収入から引いてくれるのです。

どのくらい引いてくれるのかというと、収入が180万円以下の人は収入金額の40%、180万円超〜360万円未満は、収入額の30%+18万円。360万円超〜660万円未満の場合は、収入額の20%+54万円など、収入に応じた割合が決められています。

そのほか、特定支出控除というものもあります。これは、対象になる支出額と基準額の差額を、給与所得控除に追加して控除できる制度です。該当する支出は、

・転勤のために必要な転居のための支出
・単身赴任などの場合、勤務地と自宅の移動の経費
・職務に必要な技術や知識を得るための研修費・資格取得費

などの金額が控除の対象とされています。

会社が証明してくれれば、

・書籍など職務に関連するものを購入するための費用
・勤務場所で着用することが必要な衣服を購入するための費用
・得意先などに接待・供応・贈答をした費用

も控除される可能性があります。

基準額は、年収1500万円以下の人は給与所得控除額の半分。つまり、年収500万円の人であれば、154万円の給与所得控除額の半分の77万円以上の該当支出がないと利用できません。そして、この支出は領収証など、必要支出であったことを証明する書類を添え、確定申告する必要もあります。

こう見ていくと、自営業者の場合は、経費として使ったものが対象になりますが、会社員の場合は、使っても使わなくても経費としてあらかじめ控除される部分が「給与所得控除」としてあるということです。ですから、会社員でも税金については優遇されている面があるといえるのかもしれません。

ですから、一概に「どちらが有利」と断言するのは難しいと言えます。

それから社会保険。会社員からフリーランス・自営業になる場合、社会保険は、厚生年金保険・健康保険から脱退して、原則として国民年金・国民健康保険に加入することになりますので、将来、受け取る年金額は減ってしまいます。その分はどうするか、考えておいたほうがいいでしょう。具体的には、たとえばiDeCo(個人型確定拠出年金)を活用するなど対策を講じておくのが安心です。

病気のときはどうでしょうか。会社員が加入する健康保険と、自営業者が加入する国民健康保険、いずれも病院に支払う医療費などは3割負担と変わりません。ただし、傷病手当(業務以外の病気やケガで4日以上仕事を休んだ際に支給される)や出産手当金(出産のために仕事を休んだ際に支給される)は、自営業者の場合にはありません。自営の場合、病気などの備えは会社員よりも多めにしておいたほうがよいわけです。

資産のつくり方という面では、自営業者もサラリーマンも基本は同じです。注意すべきは、自営業者は不安定なうえ、退職金がないので、よりキャッシュ(預金・投資信託等含む)が必要ということでしょうか。

自営業者は経費の支払いなどで支出が多くなる分、気が緩みがちなので、強制的に貯蓄ができる積立などを利用するとよいでしょう。

副業は本当におトク?

最近は副業ブームで、サラリーマンをしながら週末起業をする人も増えています。新生銀行の調査(「2017年サラリーマンのお小遣い調査」)によると、

・副収入を得ている人の割合……男性18%、女性19.9%
・1カ月あたりの副収入額の平均値……男性4万2041円、女性1万3463円
・副収入の収入源の上位……ポイントサイト・アンケートサイト、アルバイト・副業、株式投資、フリーマーケット

といった結果が出ています。

しかし、私個人の考えで言いますと、本音ではあまりおすすめしません。

ムリのない範囲で行うならよいのですが、平日はサラリーマンで、土日にも仕事をして……といったスケジュールだと、休みがとれなくなってしまいます。

たしかに収入は上がるでしょうが、健康は人生100年を楽しんで生き抜くための資産です。長い目で見ると、身体に負担をかけすぎるのはいいことだとは思えません。疲れすぎてしまうと、本業に悪影響を与える可能性もあります。

おすすめの副業は?

唯一、おすすめできるのは楽しみのために行う副業です。知人に、自転車が趣味の人がいますが、彼は出張で自転車のメンテナンスを行っています。

高級自転車はメンテナンスも大切で、しばらく使わないとさび付いたり、部品が傷んだりします。そのため、彼は1回1万円弱程度の料金で、依頼人の自宅に訪れメンテナンスを請け負っているのです。依頼が月に3回程度あれば、3万円弱の収入。副業としてはこの程度を目指すのが適正ではないでしょうか。

彼の場合、自転車が好きで、メンテナンスをするのも楽しい趣味のうちですから、リフレッシュにも、収入にもなります。

逆に最もマズいのは、初期投資が必要な副業です。週末だけ開くお店を出したいという場合、初期費用だけで何百万円も必要になってしまいます。無理なくと考えれば、手持ちの道具で何とかなる、お小遣い程度の初期投資ですむ、といった副業がよいのではないでしょうか。

もし収入アップを考えるなら、本業で収入を上げる方法を考える手もあります。

たとえば私の会社はファイナンシャルプランナーがそろっていますが、人によって「税金が得意」「保険が得意」「投資が得意」など、家計管理以外の得意分野を持っています。キャリアアップのためにそれらに関する資格を取得しているスタッフもいます。


あくまで家計管理が根っこであり、幹ですが、枝葉として得意分野を伸ばすイメージです。資格や勉強はもともとはお客様へのアドバイスを向上させるのが目的ですが、結果としてキャリアアップになり、収入が増えます。

もちろん、収入は業界や業種によるところも大きく関係しますから「本業でなければ!」と断言することはできませんが、本業と副業、それぞれが中途半端になってしまう可能性もないとはいえません。

そうした面も踏まえたうえで、副業について考えるといいのではないかと思っています。